「ワイズマン」 ⑦
「……どういう状況だ、これ?」
鑑写しのように同じ顔が2つ、俺を見つめる。
背丈と服装、あとは色調の違いがなければどちらがどちらか見分けがつかない。
魔力の気配を辿り、戻ってきた店内で待っていたのは白と黒の2人のハクだった。
「ひぃー、ひぃー……おにーさん、ちょっと足速……What's?」
「……ハク、そっちの子は?」
「マスター、紹介しますね。 妹です」
「ちゃうわ!!」
見事なボケとツッコミの連携、これで血が繋がっていないというのは疑わしい。
だがハクに血縁がいるというのは初耳だ、そのうえなぜ今になって現れたのか。
「妹じゃないっての、背ぇ高いからって良い気になるんじゃないわよ! ふんっ!!」
「ほぇー……妹さんは随分ツンツンしてるネ」
「妹じゃないって言ってんでしょ!! ……まあ良いわ、あんたがこいつのマスターってわけね!」
一呼吸おいて仕切り直し、ハクの妹(?)が人差し指を突きつけて自慢気な宣言を下す。
……しかし、その指先は俺の隣に立つコルトに向けられていた。
「違います違います、私のマスターはあっちの怖い顔のお兄さんですよ」
「…………はっ? 何言ってんの、あいつ男でしょ?」
「はい、マスターは男ですよ」
見つめ合う2つの同じ顔、同時に頭上へ浮かぶクエスチョンマーク。 なんだか話が噛み合っていない気がする。
「どういう事よ……意味わかんない、男が魔法少女になれる訳ないでしょ!?」
「ハク、その子にどこまでこっちの事情を話したんだ?」
「いや、どこも何も今出会ったばかりですが……」
「なに……?」
おかしい、ならこのハク似の子はどこからブルームスターの正体を知ったんだ?
どうも雲行きが怪しくなってきた、出来れば詳しい事情を窺いたいが……
「どういうこと? でも確かに石は中に……気配が2つ……? どういうこと? それにあの火傷痕……」
「えーと、君? 考え込んでいるところ悪いが何をどこまで知っているんだ? 話を聞かせちゃくれないか」
「…………」
「ね、ネロちゃーん? あの、こちらの話聞こえてますか?」
「ああもううっさい、わけわかんない! あんたの中に賢者の石があるのは確かなのよ!!」
「――――へっ?」
「今日の所は引き下がるわ、けど覚えてなさい! そこの賢者の石は私達が必ず貰っていくんだから!」
負け惜しみのような言葉を投げ捨て、少女が片手を振るうと、彼女を中心に突風が店内をかき回す。
反射的に閉じた瞳を再度開いた時、数秒前まではそこにいたはずの少女の姿は跡形もなく消えていた。
「……駄目だネ、魔力の影も残ってないヨ。 あの子何者?」
「わ、分からないです。 マスターたちがいなくなった後に入店してきて……」
「俺たちがいなくなる瞬間を見計らっていたのか? 悪いなハク、怪我はないか?」
「私は無事、ですけど……あの、マスター?」
「なん――――あっだだだだだだ!!?!?」
話をそらそうとした俺に対し、音もなく距離を詰めたハクが見事なコブラツイストを決める。
こいつ、実体化を覚えたここ数日で確実に成長していやがる……。
「やっぱり隠し事してるじゃないですかッ!? 賢者の石が体内にあるってどういうことです!?」
「知るか分からん俺もさっぱりだ! 今の話だって初耳だよ!!」
「けど話をそらそうとしたってことは何か隠し事があるんですよねぇ! 吐け、知ってる事全部吐けぇ!!」
「コルト、ヘルプ! ヘルプ!!」
「へー、大人気アイドルに恋愛発覚……この前キバテビと共演していた人だネ、これ」
「この状況で何悠長してんだおま……あだだだだ、折れる折れる折れる!!」
結局ハクの責め苦から解放されたのは、月夜もどきの呼び出しを白状した後だった。




