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「ワイズマン」 ④

「……織……詩織…………詩織さん……詩織さん、起きてください!」


「う…………め、盟友っ!!」


「ふぎゃんっ!?」


意識を揺さぶる呼びかけに覚醒し、ベッドから体を撥ね起こすと、ちょうど私の顔を覗き込んでいた誰かと額が衝突する。

痛みに悶えながら手探りで枕元の眼鏡を探し、装着することで自分がどこにいるのかようやく把握した。


「ここは……病院……?」


「その前に何かボクに対して言う事はないのかな、白銀宮 詩織……!」


「あわわわ、ごめんなさい……!」


赤くなった額をさすり、目じりに涙を浮かべているのは通称ドクター……本名を古村 咲、消息不明だったはずの魔法少女だった。

だが、盟友の手により、重傷の状態で発見された彼女を治癒しながら病院まで運んだことを覚えている。 

あの時は私もろくな回復も出来ず、息も絶え絶えだった記憶があるが……


「だ、大丈夫……?」


「君の石頭をもろに喰らった件なら重傷だ、ただし胸の風穴なら仔細ない。 どういう訳か治癒が効くようになった」


見れば彼女もまた、病衣に身を包んで点滴台を引きずっている格好だ。

私が確認した時はぽっかりと開いていたはずの傷口は消え、その上には分厚いガーゼが重ねられている。

ろくな治療もできなかった事を考えるとかなりの進歩だ、少なくとも出血は止まっているように見える。


「まあ今はボクより君の容体だ、低体温症と軽い魔力汚染による内臓機能の低下・軽度変質。 今こそバイタルは安定しているが、万が一もあり得たぞ」


「へ、変質……!?」


「大丈夫ですよ、古村さんが言うには自然と治るレベルだそうです。 昨日、何があったか覚えていますか?」


昨日……たしか私は魔物出現の報告を受け、現場に向かい、それで―――


「……白くなった盟友が雪を降らせていた」


「記憶混濁の症状あり、と。 MRIの空きはあるか?」


「ほ、ほんとだもんっ!! ……たぶん」


今になって思い返すと自信が揺らぐ、その身に纏う衣装は「ブルームスター」のものとはかけ離れていた。

軽装で快活な印象はなく、トレードマークのマフラーすら巻いていない。 例えるならそれは……


「……賢者のような」


「賢者? 何の話です?」 


「ふむ、まずは何があったか詳しく聞こうじゃないか。 何せ現場がこの始末だ」


ふと、古村ちゃんが病室に設置されたテレビを点ける。

ドローン越しの中継画面だろうか、解像度の悪い映像は恐らく昨日の現場付近のものだろう。

多少画像が荒くても見間違うはずがない。 なにせこの時期に深々と降り積もった雪が、街を覆い隠しているのだから。


「現在、この一帯は高濃度の魔力を帯びた雪で汚染されています。 一般人はもちろん、魔法少女の立ち入りすら躊躇われる濃度です」


「蛹の魔物については聞き及んでるよ、魔法の傾向を考えるとこの豪雪が蛹の仕業とは思えない」


「そう、だよね……」


脳裏に過ぎるのは、雪景色の只中にたたずむ盟友。

表情からは感情が読めず、幽鬼の有様で機械的に魔物を処理する……不気味な姿。


「……2人とも、時間はある?」


「元から重傷人だ、いくらでも」


「私もそのためにここにいます、昨夜の現場で何があったかを聞かせてください」



――――――――…………

――――……

――…



私が見聞きした内容をそのまま2人に伝えると、病室の中に重い沈黙が広がる。

姿の変わった盟友、降りしきる雪、そして通常ではありえないほど濃密な魔力。

口を開いて議論をしようにも、あまりに謎が多すぎる。


「……つまりあの状況を引き起こしたのはブルームスターか」


「古村さん」


「なに、可能性の話だよ。 少なくとも彼女の話ではブルームスターが一番黒い」


「それは……そう、だけど……」


否定したいが、上手く言葉が出てこない。

盟友はそんな事しない、頭じゃ分かっていても実際にこの目で見てしまった事態が信頼を否定する。


「なにより、シルヴァ本人がブルームスターに首を絞められてた。 ボクは何らかの暴走状態にあったと見るね」


「暴走状態ですか……詩織さん、他に何か情報はありませんか?」


「えっと……確か、ワイズマンと……」


「…………ワイズマン?」


その言葉にドクターが反応を示す。 何やら心当たりがあるのだろうか。


「その言葉は本人の口から聞いたのか?」


「う、うん。 誰だって聞いたらワイズマンだって返ってきたっ」


「たしか前にも同じような単語を聞きましたね、魔法少女事変の時に……」


「他に何か気になる事はないか? 些細な事でも良い、暴走が起きる前に接触した人間はいなかったか?」


「せ、接触? いや、街の人に囲まれたぐらい……かな?」


私が蛹の魔力を感知し、体一つで現場に向かう途中、一般市民に囲まれて足止めを受けた時間があった。

すぐに盟友が助けてくれたが、あのドタバタで盟友に接触するチャンスはその時ぐらいしか思いつかない。


「えーと……多分SNSにその時の動画が……」


ワードを絞って検索を掛けると、すぐに該当の動画がヒットした。

私と盟友の2人以外の人々はぼかしが掛かっているが、当時の音声はそのまま残されているらしい。


『――――やばいやばい、雑草組が揃ったじゃん。 エッモ!』


『腰ほっそ、衣装可愛よ……資料撮らなきゃ……』


「……待った、この雑草組というのは?」


「それは野良だったころのシルヴァとブルームに対する愛称ではないですか?」


「違う、そういう意味じゃない。 この発言者は何者だ? ――――なぜブルームスターの事を()()()()()()?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 掲示板とかwikiとか消えてたので違和感ありでしたが、 野次馬が伏線なのか、 それともブルームスターが記憶できる状態だったのか……?
[一言] おっと、覚えてるの疑問だったけどやっぱり伏線だったか!?
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