再現される達人芸 ⑤
「……あれだな、間違いなく」
「うむ、ピリピリと魔力を感じるぞ」
ビルの一角に張り付き、バチバチとまばゆい光を放つ蛹を遠目に見上げる。
大きさからして3mはあるだろうか、その身体か溢れ出している雷光は、周囲から根こそぎ奪い取ったものに違いない。
「電気を集めて何する気か知らないが碌な事じゃないだろ、早いうちに止めるぞ!」
「わ、分かった! ……だが盟友よ、避難がまだ……」
そう、魔物を見つけて倒すだけなら苦労しない。
ここは街中、俺たちの周りには一般市民が多すぎる。 この闇の中で放置していくにはあまりにも危険だ。
「…………俺が先に行く、この場は任せられるか?」
「それでは盟友が……いや、引き受けた。 我もすぐに後を追おう!」
ここの問答を続けるだけ被害が増える、素早く見切りをつけたシルヴァが市民の誘導に行動を移した。
それでいい、時間が立てばきっと魔法局の応援も駆け付けてくるはずだ。 それまでこの場を任せよう。
「……ハク、調子はどうだ?」
《………………》
返事がない、いや返事が出来ないほどしんどいのか。
このまま吸われ続けるのはどう見ても拙い、ハクが干からびる前に決着をつけなければ。
「もう少しだけ耐えててくれよ、さっさとけりをつける……!」
羽箒を操り、蛹が張り付いたビルへと迫る。
蛹は終始変わらず放電を続け、被膜が剥けた電線のような糸がビルの外壁に食い込み、身体を支えているようだ。
そのうえ、ビル表面には蛹を中心に雷が走ったような模様がじわじわと広がっている。 あれはいったいなんだ?
《き、気を付けてくださいマスター……見ての通り高電流がビリビリです……下手に近づくと一瞬で黒焦げですよ……》
「電気にはいい思い出も無いな、時間も余りかけたくない」
内部はまだ人が残されているのだろうか……照明が消えた窓は黒く染まり、外から様子は伺えない。
可能ならシルヴァの合流を待ってからゆっくりと攻略したいが、今は色々と時間が惜しい。
≪IMPALING BREAK!!≫
「さっさとこれで……倒れろッ!!」
十分な助走を与え、最高速度まで加速させた羽箒を乗り捨て、蛹目掛けて射出する。
しかし箒は直撃することはなく、蛹が纏う電撃の前に炭へと消えた。
「チッ、やっぱ駄目か……接近すりゃ俺がああなるわけだな」
《そう……ですねぇ……うへぇ、どんどん吸われる……》
頭の中に響くハクの声は息も絶え絶えといった調子だ、心なしか新たに取り出した羽箒の出力も下がっているような気がする。
このまま充電が0%になれば変身解除すらあり得る、もしかしたら今まで出会ってきた魔物の中で一番相性が悪い相手かもしれない。
「チッ、近くにゴム製品は……」
《あの威力だと絶縁破壊がオチですね。 そこらのゴムを素材にしても防ぐのは難しいですよ……》
ブルームスターの性能は扱う箒に依存する、その殆どは射程が短い近接武器だ。
羽箒では電流の壁も破れない、近づけば感電死。 このままじゃお手上げだ。
《黒衣は駄目ですよ、どうせマスターの事ですし捨て身になるでしょう……》
「そんなこたぁない、リミッター効いている間は自制もする」
《つまり私のタイマー切れたら無茶するってこーとーでーすーよーねー!? ……あっ、大声出したら一気に充電が……》
「おいおい大丈夫……おっとぉ!」
ハクの気が緩んだ瞬間、羽箒の高度がガクリと落ちた―――その瞬間、先ほどまで俺の頭部があった空間が雷光が貫く。
……羽箒が一瞬で黒焦げになる電撃、それは間違いなく蛹から伸びて来たものだった。
《ひ、ひえっ》
「ハク、ナイス回避……」
偶然だろうが、直撃していたらヤバかったのは事実だ。
しかし微動だにしていなかったから油断していたが、どうやら蛹もこちらを知覚しているらしい。
そして反撃してくるという事は、少なくともこちらをある程度の脅威と認めているのだろう。
《気を付けてくださいよマスター! 相手は電撃、見てから回避は間に合いませんからね!!》
「分かってるよ、距離を……っ!?」
取ろうと羽箒を操ったその瞬間、視界が白く染まる。
暗闇に慣れたところに照射される、目がくらむような街中の光。
蛹に奪われていたはずの電力が回復し、消えていたはずの灯りが全て復活したのだ。
「く、そ……眩しっ……!」
《マスター! 避けて!!》
そして視界を奪ったこの隙が奴の狙いだったのだろう。
空中で無謀な姿をさらす俺へと向けて――――蛹の身体から、先ほどよりも強い雷光が放たれた。




