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協奏曲は鳴りやんで ②

「うーん、何というか半分夢を見て居た感じカナ?」


「私も同じです、十中八九あの特殊形態の副作用でしょうね」


「灼火体な、ありゃ強力だけどラピリス達が無防備になるのはリスクが高い」


蜂女を倒してから数時間後、ようやく散らばった魔石の回収を終えた俺たちは、全員装甲車に乗せらせて帰路についていた。

舗装されていない道を進むたびに揺れる座席は居心地が悪い、なにせ俺が座る座席はラピリス達の手により荒縄で身体が固定されている。 何故だ。


「なあ、縄が食い込むからこれ外して……」


「重傷人は安静が基本です、ゴルドロス製の縄なのでそう簡単には外れませんよ」


「魔力宿ってるから痛いんだよ! 車が揺れる度に!」


『そこ、うるさい。 あまり騒ぐと傷が開く』


理不尽な扱いに抗議の声を上げていると、無線機越しに鋭い叱責が飛んで来た。

今さら逃げる気も暴れる気もないってのに、自業自得だが相変わらず信用がないもんだ。


「それにしてもその灼火体ですの? 変身条件が曖昧ですわね、常用するにも不安定すぎませんこと?」


『こちらで観測したデータを解析に回すことを提案、何らかのヒントは得られるかもしれない』


「ああ、よろしく頼むよ」


灼火体、今回で三度目の変身となるが……黒衣のような変調は今のところ感じない。

ゴルドロスも軽く検査を受けていたようだが、身体のどこにも異常はない。 もちろん誰かに忘れられているなんてこともなかった。

……本当に何のデメリットも無いのだろうか? だとすれば、灼火体はブルームスターの切り札としてこれ以上ないほどに有用だ。


《マスター、気づいてますか? アプリの方も回復してますよ》


「……ん」


縛られたまま、目の前に召喚したスマホの画面には赤いアプリが煌々と輝いている。

やはり魔石の吸収が条件なのだろうか、確かに今回は回復のために結構な量を吸収した。

それにしては1度目、2度目に比べてもだんだんと……


「……()()なっているような気がするな」


「ブルーム、なにか言ったカナ?」


「ああ、いや。 ただの独り言だよ」


「気分が悪い場合は早めに申告してくださいよ、あなたのあの姿もまだまだ不明点が多いんですから」


「それだけどネ、私やサムライガールと合体できるならサ。 他の魔法少女でも試せないカナ? 例えば……」


「……うむ? わ、我の事か?」


全員の視線がシルヴァに集まる。 ラピリス、ゴルドロスと来れば順番としてはシルヴァが妥当だ。

それに今回のようなぶっつけ本番は心臓に悪い、可能ならば事前に打ち合わせや変身形態の確認をしておくのが無難だが……


「言っておくがやるなら慎重にだぞ。 本人の同意も必要だが、一度アプリを使うと今度はまたいつ変身できるか分からないんだ」


「わ、我は合体に異論はないぞ! 格好いいのでな!」


「合体というのも聞こえが悪いですわね、仮に“相乗”とでも呼びましょうか」


「より格好良くなったぞ!!」


「嬉しそうだネ、シルヴァーガール」


「だからやるなら慎重にだな……」


まあ語るだけなら自由か、それに検証の過程でどの道アプリの使用は発生する。

俺の予想通り、魔石の消費で回復できるならそれで問題ない。


「……まあ、何もないならそれでいいか」


灼火体の変身条件が初期に比べて容易くなる状況を、何故か素直に喜ぶことができなかった。



――――――――…………

――――……

――…



温くなったコーヒーを啜りながら、我ながら引きこもりの才能があるものだと改めて感心する。

濃密な魔力の中でここまで生活基盤を整えられる魔法少女が他にいるだろうか、いやいない。

“無限水源”から引っ張った水道で風呂を沸かした時は、思わず目頭が熱くなったものだ。


「こうなると……いちいち外に出るのも億劫だなぁ……」


最近、独り言が増えて来た。 他人と関わる機会が極端に減ると自己防衛本能で自分との会話が増えるという。

そろそろ気晴らしついでにブルームスターへの中間報告が必要だろうか、気乗りしないが明日当たりに通話を試みよう。

第一魔力研究施設に入り浸って何日が過ぎただろうか、膨大な資料の山に埋もれていると時間感覚が薄れてしまう。


「次は時計を作ろうか……魔力の影響を受けないアナログで正確さを求めるとなると……ああダメだダメだ、主目的の作業が進まなくなる」


この研究施設に散らばる情報は圧倒的だ、量も多いが10年の月日による劣化が痛い。

紙は風化し、電子機器内のデータもサルベージに労力を要する。 

災厄の日に失われたブラックボックスを紐解くには、自分一人ではマンパワーが足りない。


「だが泣き言も言っていられないな……なに、ローレルよりはマシだろう」


かつて桂樹 縁として働いていた彼女のワークペースは、今となってはどこまでが演技だったか分からない。

自分の存在をくらますために無能な上司を用意したのが自業自得とはいえ、消費を上回るペースで積み重なる書類の束は傑作だった。


「ああ、それでもせめてもう少し人手があれば―――」


「―――じゃあ終わらせてあげよっか、その作業」


「…………は?」


唐突に背後から聞こえて来た凍り付くような声と共に、私の胸を巨大な氷柱が貫いた。

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[一言] ど…ドクタァァァー!!!
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