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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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491/639

協奏曲は鳴り止んで ①

ジャラジャラと空から魔石の雨が降り注ぐ、まるで金貨の雨だ。

魔物の密度で言えばペストの時に迫るかもしれない、その数が全て魔石に変わったんだから回収できる量も圧倒的だろう。

ゴルドロスが見ていたら狂喜乱舞する光景に違いない、本人が意識を失っているのが残念だ。


「……結局、お前の装甲は最期まで貫けなかったんだ。 そこだけは喜んだって良いぜ」


「――――キ―――ギュ――――ガ――――……!!」


頭部が綺麗に吹き飛んだ蜂女の身体がジタバタとのたうち回っている、首の断面からは血の泡を吹きながら空気が漏れているだけだ。

その指の末端は既に光の粒子となり、消滅が始まっている。 消滅は時間の問題とは言え、恐ろしい生命力だ。


《マスター、念のためトドメを刺しておきますか?》


「いや、いい。 近づいて最後っ屁を喰らう可能性もある、それに……」


俺の身体を纏っていた力が、金色の炎となって霧散する。

赤でも黒でもない、いつもの姿に戻ったが毒の影響は綺麗に消えている。 本当にギリギリだった。


「俺も、限界……だな……っ」


「―――はい、お疲れ様です。 あとは任せてください」


自立する余力もなく、その場に倒れようとした俺の身体を、よく知る腕が支えた。


「……なんだよ、遅かったじゃないか」


「申し訳ありませんね、マエストロの避難が先だったもので。 あなた達が周りの魔物も蹴散らしてくれたおかげで実にスムーズでしたよ」


「どういう状況ですのこれ? ゴルドロスは気絶し、建物は壊れ、ブルームスターも満身創痍……」


『敵は頭部を消し飛ばして余命数十秒、実に興味深い』


「色々あったんだよ……説明は、あとで……ゲホッ!」


咳と共に血の塊が飛び出し、べしゃりと地面に赤いシミを広げた。

毒は消えたとはいえ、それまでのダメージが帳消しになるわけじゃない。 こりゃ内臓からやられてそうだ。


「ほ、ほあー!? 衛生兵、衛生兵をお呼びなさい!」


『お姉は掌にクールビューティと3回書いて飲み込むべき。 ブルームスターには急速な治療が必要』


「待ってください、今シルヴァの元へ連れて行きます」


「あ゛ー、その前に魔石を回収してくれ……もったいないし、回収すりゃある程度自己回復できる……」


カラン、と背後で乾いた音が鳴る。 思い首をそちらに向ければ、丁度蜂女が完全に消滅したところだった。

あとに残されたのは野球ボール大の六角形をした魔石。

大きさは中々だが、色合いはかなりくすんだもので泥にまみれているようだ。


「……それがお前の中身か、醜いもんだな」



――――――――…………

――――……

――…



「貯゛金゛が゛底゛を゛尽゛い゛た゛ヨ゛!゛!゛」


「あの状況じゃ仕方なかったんだ……すまん」


数十分後、ようやく目を覚ましたゴルドロスが俺へと恨みがましい視線を突き刺しながら、空っぽのポーチを逆さにして振るう。

大量に湧いて出た魔物の殲滅、蜂女への反撃、その他もろもろの費用のためにかなりの魔石を消費してしまった。

どうやらというか当たり前というか、灼火体で使用した魔石は変身解除後もゴルドロスへと引き継がれてしまったようだ。


「回収した魔石もブルームスターの回復に使いましたからね、残りの魔石も魔法局が研究用に確保する分を差し引くと……」


『計算するまでもなく赤字、ご愁傷様』


「おうおうおうおう……」


「わ、我が拾った分を譲るぞ……?」


「ふん、そんな石ころでめそめそと情けないのう」


頬に大きな絆創膏を張った爺さんが不機嫌そうに鼻を鳴らす。

傷こそ浅いとはいえ、あの乱戦の中では無傷の脱出は叶わなかったようだ。

それでもこうして全員が無事のままで事態が片付いたのは僥倖だろう、爺さん以外の魔法少女たちも大した怪我は負っていない。


「……と、いうわけで。 そろそろこの手も外しちゃくれないか?」


「却下します、一番の大怪我があなたなんですよ。 少しでも動けば頸椎を外します」


「なるほどなぁ、だからさっきからラピリスは俺の首根っこ掴んでいるんだな?」


「大人しくはなるでしょうがトドメの一撃になりますわね、それ」


万力の如く握力で首を絞められているのは俺の意識を落とすためかと思ったが、命ごと刈り取るつもりだったのか。

ラピリスは俺の事をゾンビか何かと勘違いしていないだろうか。


『一時的とはいえ致死性の劇毒を受けている、内臓までダメージが届いていると予想。 メディカルチェックを受ける必要がある』


「魔石で回復はしたんだ、急ぎじゃなくていいよ。 それより民間の被害者は?」


「0だヨ、元々人気のない場所を選んだからネ。 せいぜいそこの死にぞこないくらいカナ?」


「誰がじゃ小娘、お主らもいずれこうなるんじゃぞ」


「そっか、軽口を叩ける気力があるって事は大丈夫そうだな」


「……ふん」


バツが悪そうに爺さんが顔を逸らす。

本当は言いたい事がもっとあるんだろうが、今は様々な感情が渦巻いて言葉が出てこないはずだ。

だから俺は何も言わず、一つだけハクに食わせずにとっておいた魔石を放り渡した。


「ぬおっ? これは……」


「蜂女だったものだ、あんたの仇だろ」


緩い放物線を描き、爺さんの手元にすっぽり収まったのはくすんだ琥珀色の魔石。

なんとなく使う気も起きずに隠し持っていたものだ、魔石の状態なら常人にも害はない。


「…………そうか、倒したのか」


「ああ、あいつは俺たちが殺したよ」


「うむ、そうか……そう、か……っ」


爺さんが肩を震わせながら、その場に膝をつく。

その瞳から零れた雫は俺が見てはいけない気がしたので、何となく視線を外した。


「おお……おおぉおぉぉ……! これが……こんな、ものに……っ!」


決して納得ができるものじゃない、それでも復讐は果たされ、禍根は断ち切られた。

きっと爺さんは涙を拭い、また立ち上がれる。 奪われたものはあまりに大きいが、時間は傷をいやしてはくれないのだから。


……もはや瓦礫の山とかしたコンサートホールの向こうへ、真っ赤な夕日がじわじわと沈んでいった。

灼火体・金華天壌

ゴルドロスの意思と接続し、強化された灼火体の一形態。

服装にミリタリ色が強く押し出され、ブルームスターの頭髪が金髪へ変化。

腰に下げたポーチからはゴルドロスと同じく魔石が詰まっている。

さらに別のポーチに魔石を投入することで、「金額」に応じた様々な物品を引き出し可能。

ゴルドロスの魔法を踏襲しているが、ここから魔石を追加で消費することで、物品に“追加オプション”を設定できる。

クマのぬいぐるみに「巨大化・自立機動」、グレネードに「爆風強化」、銃器に「自己複製・威力強化」など。

物品が持つ本来の機能を損なわない限り(*1)、消費した魔石リソースに応じた無限のカスタマイズを施せる。

(*1:ぬいぐるみの腕を硬化する、など本来の機能を損なうオプションは消費魔石のコストパフォーマンスが著しく悪くなる)


黒騎士のような単体で強力な相手に立ち回るには燃費が悪いが、フレンドリーファイアを気にしなくてよい1VS多の状況下で最大の力を発揮できるだろう。

「対多戦力特化型」、それがこの姿の特徴である。


本来の灼火体に加え、以下の武装が追加されている。


・ダモクレス

腰に差したサーベル、およびこのサーベルを複製したものの総称。

魔石を1つ消費するごとに1つの複製を生成可能、強度や性能は魔石の質に比例する。

なお、複製物が召喚される座標は以下の条件を満たすものの頭上である。

-------

・ブルームスターに敵対し、攻撃の意思がある。

・ブルームスターと互いに視認できる範囲に位置する。

・魔力を有している。

-------

頭上に召喚されたサーベルはそのまま重力に従い、対象の頭部へ突き刺さる。

あくまで自由落下速度による攻撃であるため、極端に堅い場合や高速で移動している場合は効果が薄い。

それでも死角からの攻撃はブルームスターを驕り、侮り、傲慢なものほど命中する。

なお、使用者に油断や驕りがある場合、低確率で本人の頭上に召喚されてしまう。


・ラインゴールド

腰に装着されたポーチ群、主に魔石が収納されている。

見た目以上の収納容量を持ち、周囲の魔石を自動的に回収する機能を持つ。

また、ポーチの封を決められた期間閉じる事により、収納された魔石の質・量を増やす「定期預金」機能を持つ。 最低預金期間は1年、利率は1割。

ポーチ内の魔石はゴルドロスが保有していたものを引き継いでいる。


一つだけくすんだ金色のポーチが存在し、魔石を投入することでゴルドロスと同様に物品の引き出しが可能。 焦りがあると目当ての品を取り出しにくい。 

稀に本来のものより性能が良い上位互換物を取り出せる。 排出率は0.0025%、天井はない。

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