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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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修羅・抜刀 ②

【ちょっとした小話:杖の形状】

魔法少女が扱う刀や箒と言った『杖』、

色々と研究がされているけどその形状やサイズに際限はないとされている。

今のところ確認されているのは最小サイズが「ビー玉程度の球体」、最大サイズが「車」らしい。


……魔法少女でも無免許運転はいいのだろうか?

「あ゛ー……だっる、修復に血ぃ使い過ぎたー……」


打ち捨てられた病室のような部屋、その中でも比較的汚れの少ないベッドに横たわった創造主が唸る。

その顔色はいつもより青白い、己の修復作業に身を削り過ぎたのだ。


「だだだだだだだ大丈夫朱音ちゃん! ほ、ほら! アポカリプスウェット!」


「それきらーい、トマトジュース持ってきてー……あ゛ーまじで怠い。 しばらくなんもする気がしねえ」


変身も維持するのが億劫なようで解除してしまい、彼女はもそもそと布団の中へ潜り込む。

危なっかしいものだ、もし今魔物に襲われれば一たまりも無い。


「お前ー、寝てる間はきちんと創造主様守れよ。 そこらの魔物に負けるように作った覚えはねえからな」


『御意、身命を賭して貴方を護る所存である』


「かたっ苦しいわ、それとおねーちゃんは何か飯作っててー……」


「わ、わわ分かったわ! ……あっ、そうだ。 あのね朱音ちゃん、一ついい?」


「……なにさ」


眠りにつくところを遮られた創造主が不機嫌な顔を見せる。

珍しい、こういう時に姉君はなるべく創造主を刺激しない立ち回りをすると学習していたが、情報に少し修正が必要かもしれない。


「……あのね、今ちょっかい掛けている子たち。 あのままじゃたぶん()()()()から、もうちょっと待った方が良いかも」


「…………まじか、あ゛ー……じゃあ倉庫にしまってある試作何個か持ってって、好きに使って良いから。 何体かぶつけりゃいい感じに育つっしょ」


「わ、分かったわ! お姉ちゃん頑張ってくるから、待っててね!」


「あーもーうっさいなー早く行ってくれよもー……」


そして姉君は姿を消し、我が創造主は数秒もたたず深い寝息を立てて夢の中へと落ちる。

ただ独り、己だけが残された部屋に静寂が満ちる。


……さて、であれば己も受命を果たさねばなるまい。

創造主を起こさぬように窮屈な出入り口を抜け、通路の突き当りにある老朽化によって空いた大穴を潜り抜けて外に出た。


『……我が主は今、床に就いている。 何用か、己が聞こう』


『―――――ギルシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』


こちらの問いかけに殺気混じりの雄叫びが帰ってくる。

ぬたぬたと黄色い光沢を放つ蛇の様な細長い体、その先端にくっ付いた矢印のような三角形の頭には目や鼻はなく、ただびっしりと鋭利な牙が生え揃っていた。


創造主に与えられた己の知識から言葉を選ぶなら、『コウガイビル』という生き物の縮尺を拡大し、醜悪に加工したような魔物だ。


これは創造主の手が加わったものではないな、恐らくはこの地に蔓延る現生物……が()()()()()


『……物足りないが、丁度いい。 少し付き合って貰おう』


この首を刎ね、己に傷を負わせた戦士たちがあれ以上に強くなる。

その未来を想像するだけで心が踊る、無いはずの血肉が熱く巡るような錯覚が奔る、もはやこの昂りを発せずにはいられない。


『せめて五分、耐えて見せろ。 頼むぞ』


『ッルアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』


まずは喉を潰そう、主が目を覚ませば面倒なことになる。

……しまった、こやつらどのあたりが喉なのだ?



――――――――…………

――――……

――…



街角にそびえ立つ今は誰も使っていないビルの中。

取り出したスマホに表示された時刻は12:30、昼時か。 


「……というわけで、準備はいいか?」


《いつでもー……と言いたいですけどねえ、まだ変身は反対ですよ私は》


画面の中の魔人は文句を言いながらも変身アプリを手に取り、構えている。

仕方がないだろ、本番の時にスリップダメージのせいで動けませんでしたなんてのはごめんだ。

窓の外は薄暗い路地と向かいに立てられたビルの壁しか見えない、ここなら誰かに見られるような心配もないだろう。


≪Are You “Lady”!≫


「へんし……うぐっ!?」


いつもの音声が流れ、全身が黒炎に包まれ―――熱い痛みに襲われる。

それは前回よりと同じ、いやもしかすればもっと酷いかもしれない。


《マスター、大丈夫ですか? やっぱり止め……》


「いや、良い……もう、収まった……っ」


体を覆った黒炎が痛みと共に晴れる、変身が完了すれば落ち着くのは前回と変わりないらしい。

炎に焼かれるような激痛だったがやはり身体には外傷は一切ない、せいぜい白い肌に脂汗が滲んでいるくらいか。


しかし暑い、たまらず近くの窓を開いて顔を出す、路地を吹き抜ける湿気った風が心地いい。


「ふぅ……んで、こっちのほうは結局反応無しか」


《うーん、変身し損ですね。 何なんでしょうこれ》


全開に開いた窓に背もたれながら、例の透明アプリを触ってみるが結局何の反応も示さない。

変身すれば何らかの効果が現れると思ったが……あてが外れたか。


「あれだけ苦労してすぐ変身解除するのももったいねえな、ついでに色々ためし……うっ」


《おっと、大丈夫ですかマスター》


「ああ、大丈……夫?」


変身時のダメージが残っていたか、ふとした拍子に立ち眩みに襲われる。

それ自体は大したことはなかったのだが……ふらついたせいで足を滑らせた、窓から身を乗り出した状態で。


《あっ》


「あっ―――ぶっふぉ!?」


コンディションは最悪、ぼやけた頭じゃ羽箒も出す暇もない。

悲しきかな、重力に逆らえない魔法少女はそのまま2階の窓から真下のゴミ捨て場へと顔から突っ込んだ。


「ぶへっ! ぺっぺっ、苦っ! 何か口に入ったぁ!」


《うぎゃあばっちい! 汁が! 袋から得体のしれない汁が!》


埋もれたごみ袋の山からもがいて顔を出す、よく分からない生ごみの様なものが口に入ったが大丈夫だろうか。

大丈夫だろうきっとうん、魔法少女は腹も下さない、たぶん。


「……ブルームスター?」


「ハァ……ハァ……だれ、だ……?」


何とかゴミの山から抜け出した時だった、聞き覚えのある声に話しかけられる。

真昼の高い日差しに照らされた街通りに立つその人物は、暗い路地裏からでは逆光で見えない。

聞き覚えのある声だ、それこそすごく身近な……なのになんで思い出せないんだろう?


「何をやっているんですか貴女は、こんな所で変身までして」


「ラピ……おまえか、ビックリさせるなよ」


光に目が慣れてきてようやく顔が見えてその正体が分かった。

一日ぶりのその姿に何だか安堵してしまう、だがこの状況は少し不味いな。


いつもの調子なら「おのれブルームスター!」なんて感じで切りかかって来てもおかしくない。

幸い彼女はまだ非変身状態だ、杖を取り出した隙をついて、この狭い路地を使えばなんとか逃げられるか……?


「……()()()()()()?」


「――――へっ?」


しかし掛けられた言葉は予想外のものだった。

罠か? いや違う、その眼は心底こちらを憐れみ、心配しているようで……


「なんだか顔色が優れないようですが……それに汗もすごいですよ? どこか体調でも悪いんですか?」


「い、いや。 平気だよ、ほらこのとお……あれ?」


勢いよく立ち上がって見せようとして、初めて脚に力が入らないことに気付く。

何度か試してみても結果は同じだ、脚に力が入らず転んでしまう。


「ちょっと、本当に大丈夫ですか!?」


「だ、大丈夫だって! クソ、なんで……!?」


頭が痛い、墜ちた時に何処か打ったか? いや、この身体に魔力の無いダメージは通らない。

なら何故だ? なんで、こんな惨めな……。


「ええっと、縁さん……いや、この場合はドクター……? ええいもう、ちょっと肩借りますよ!」


いうや否や駆け寄ってきたアオが俺の肩に手を回して担ぎ上げる。

抵抗しようにも力が入らない、一体この体はどうしてしまったんだ……?


「私の家、ここから近いんです。 あなたの状態は分かりませんがここにいるよりはマシなはずです、今から救援を呼びますから大人しくしていてくださいよ!」


「知って、るよ……」


不味い、この状況は非常に不味い。

このままずるずると魔法局まで連行されてしまえば終わりだ、それだけは避けなければ。

しかしアオにがっつりとホールドされた腕は外せず、成す術がないまま俺はそのまま店まで連行された。

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