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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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嫉妬の対価 ①

天狗になっていなかった、と言えば嘘になる。

自分が描いた楽譜を、自分が指揮を執る。 満足のいかない演奏を垂れ流す奴がいれば、指揮で矯正していけばいい。

ただそれを繰り返し、自分好みの楽団を作り上げたときには幾億もの金が稼げた。


別に苦労がなかったわけではない、ただそれを乗り越えて愛する者と結ばれ、愛しい孫娘も出来た。

自分の人生は「勝ち」だと慢心はした、だがそれの何がいけない。 事実だろう?

長年にわたり十分努力は積んだはずだ、これほど老いるまで現役を走り続けたはずだ。


慢心の罰が“これ”だというのなら、この世に神はいない。


「――――――!!!!」


その金切り声が自分の喉から漏れたものか、赤い返り血に染まった魔法少女が叫んだものか、よく覚えていない。

ただ、掌の内から零れる孫娘の血と熱だけがくっきりと脳裏にこびりついている。

辺りに立ち込める黒煙と炎と魔物の鳴き声が入り交じり、それは今まで聞いた中で最もひどいオーケストラだった。


―――燻る炎と瓦礫の向こう側に、指揮者の姿を見た。

とても人のものとは思えない双眸がギョロギョロと蠢き、私の姿を舐め回すように見つめている。


その影は笑っていた、既に遺体となっていた孫の身体を抱き寄せる私を見て。

人間を殺すでもなく、街を壊すでもなく、魔物の癖に“それ”は私を見下ろして笑っていたんだ。


まるで人間のような悪意を抱えて、奴はじっと口角を釣り上げていた。



――――――――…………

――――……

――…



「……と、いうのが私の聞いた話だヨ」


「なるほどな……」


抉れた足に添え木と包帯を巻きつけながら、ゴルドロスの報告に耳を傾ける。

足は痛み止めなども処方してもらい、戦闘はまだ厳しいとしてもかなり楽になった。

お蔭でこうしてゴルドロスの話にも集中できる。


「ブルームはどう思うカナ、この話」


「ボケてるってわけじゃないだろ、少なくとも爺さんはその魔物のせいだと思ってるって訳だ」


本人が話すことが全て事実とは限らないが、無視できるような内容じゃない。

当時の様子は分からないが、何も襲わず壊さずに爺さんだけを見て笑っていたというのなら、無関係とは考えにくい。


「ブルームも言っていましたよね、“何か気に入られるような心当たりはないか”と」


「ん? ああ、まあ勘みたいなもんだけどな」


原因が爺さんにある、というのならこれまでに襲われた状況の食い違いが気になった。

旅客機で襲われた状況が一番謎だった、他の状況に比べてもっとも爺さん自身の危険性が高い。


「あれはいま思うと……嫉妬だったんじゃないかなって」


「嫉妬、ですか?」


「爺さんが日本まで()()()のが気に食わなかったんだ、俺を狙った時だって同じようなもんだよ」


前者は逃げられた怒りで衝動的に仕掛けたが、後者は邪魔者だけを撃ち抜く程度には頭が冷えたのだろう。

ハクと話した時は冗談だと笑ったが、魔物が爺さんに執着していると考えると筋が通ってしまった。


「魔物が人間にネ、にわかには信じられないカナ」


「ですが、これまでジョージ氏は魔物に襲われながらもほぼ無傷で今日まで生きています。 裏で操る誰かがいたとすれば……」


考えられない話じゃない、と続く言葉はつぐまれた。

問題はこの仮説が正しいとなると、小鬼のように他の魔物を操る奴がいるという事だ。


「爺さんをアメリカに送り返すのは危ないな、旅客機の二の舞になる」


「良い性格してるヨ、ほんと……帰せない以上は私達で対処しないと駄目だネ」


「国際問題まで発展する可能性もありますよ、ひとまずは裏で手を引く魔物がいるという前提で動きますか」


……もしかしたら、爺さんはそこまで読んで命がけで日本までやって来たのだろうか。

軋轢がある本国の魔法局には腫れ者扱いを受けている、ならば知り合いがいる中で頼れそうな別の魔法局へ問題をこすりつければ手伝ってくれると。


「とりあえず当人には護衛を付けた状態で、しばらく謎の狙撃が届かない地下に匿いましょう」


「そろそろシルヴァーガールたちの解析も終わる頃カナ? 全員揃ったら一度ミーティングだヨ」


「「それまでブルームは安静にしているように(ネ)」」


「信用ねえなぁ……」


《残念ですが当然の処置でしょうよ》


どの道この足じゃ遠出も難しい、シルヴァたちが戻ってくるまでは言う通り大人しくしている他ない。


「それで肝心の黒幕についてだが、ゴルドロスとシルヴァが協力すれば索敵できるか?」


「なに言ってるのサ、こっちから探し出す必要はないヨ。 勝手に向こうから来てくれるからネ」


「おいおい、忘れたのか? 相手はこっちの魔力感知外から攻撃を……」


「あなたも忘れていませんか? 潜み隠れる相手なら、こっちには最高の切り札がいるじゃないですか」


切り札、とんと見当がつかないがそんなものがあっただろうか。

そんな俺の顔を見て察してか、ゴルドロスは自分の腰に下げたぬいぐるみの腹を軽く叩いて見せる。


『―――モキュッ!』


「……ああ、なるほど」


ぬいぐるみの中から聞こえた鳴き声は、俺の中の疑問を全て氷解させた。

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