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拝啓、彼方より ⑥

「ゴルドロス、ちょっと離れてろ。 ちょっと熱いぞ!!」


「OK、無茶するなヨ!」


作り変えた黒箒から陽炎を立ち昇らせながら、飛び掛かる小鬼たちを叩きのめして行く。

ゴルドロスが放つ弾丸については対抗策を身につけたようだが、打撃と高熱についてはまだまだ甘い。

一体一体、箒でぶっ叩いて行くたびに消し炭と変わっていく。 ここの耐久は見た目相応に低いようだ。


《マスター、数が多いです! このままだと時間切れですよ!?》


「分かってら、けど下手に大技も撃てない!」


護るべき対象が足場にある分、今までよりもやりやすいがそれでも下手な火力を振り回すと旅客機に被害が出かねない。

だが手をこまねいているとまた小鬼たちがこちらの攻撃を学習するかもしれない、黒衣に変身したのは間違いだったか?


「ブルーム、そのまま前線押さえて! 一旦ぶっ飛ばすヨ!!」


「おい、爆発物は駄目だぞ!?」


「ダイジョーブ! 頼むヨ、バンク!!」


ゴルドロスが新たにぬいぐるみの中から取り出し、放り投げたのは炭酸飲料の缶だった。

内圧によってパンパンに膨れたその缶は、真っ直ぐに飛んでくる小鬼の額に衝突すると――――弾けた。

明らかに見かけの体積以上はある内用液は、プルタブをめくりあげながら目前の小鬼たちの向かって盛大に噴き出す。 さながら指向性の水圧爆弾だ、直撃した小鬼は肉塊となって消し飛んだ。


「ふふん、これなら地上の被害もそこまでじゃないヨ!」


「そうだな、気の毒だが洗濯物については諦めてもらうか!」


内容物を全て噴き出した缶を蹴り上げ、新たな箒として再構成しながらもさらに小鬼たちをなぎ倒して行く。

こちらの猛攻に対し、相手も少し怯んだのか迂闊に踏み込むやつは減って来た。 物量で押してこないのは幸か不幸か。


『……少し気になることがある』


「悪い、手が離せないからそのまま話してくれ!」


『集団型の魔物は前例がいくつもある、しかしそれらはあくまで()()()()()()()()として扱われる場合が殆ど』


「つまりどういうことカナ!?」


『アリなどの社会性生物と同じく集団の利を優先し、個々の自我は薄い。 今の状況では怯えるよりも味方を盾に強襲を仕掛けてくると予測していた』


「……だけどこいつらは“自分の死”を恐れた」


今まで群体型の魔物と戦った経験は少なくない。 その多くは自己増殖を繰り返し、自分達の命を使い捨てては種族としての勝利を優先してきた。

だが、目の前の小鬼たちは過去のケースに比べるとやけに()()()に見える。


「けど怯えてくれるのは悪いことじゃないよネ、攻撃の手が緩むなら大歓迎だヨ」


『喜んでばかりもいられない、敵の行動パターンがこれまでの傾向から予測できなくなる』


気が付けばもはや間合い内に踏み込む小鬼は一匹もあらず、皆が皆遠巻きにこちらの様子を窺い始めた。

完全に俺の射程を把握したのか、ギリギリ拳ひとつ届かないほどの絶妙の距離を保ちながら牽制を続けている。

……こいつら、見た目以上に学習能力が高い。


《マスター、まずいですよ! 後ろの連中が旅客機の表面引っぺがして何か作ってます!》


「クソ、内壁まで穴開けんなよ……!!」


小鬼たちの手際は凄まじく、素材の剥ぎ取りから成型まで一瞬の出来事だ。

出来上がったものは銅板をつぎはぎして作られたメガホンのように見えた、ただしグリップの部分には引鉄が取り付けられている。

あからさまに何かを撃ちだす形状だ、小鬼もそのつもりでメガホンの切っ先を俺たちに向けて狙いを定めている。


「にゃろう、今はそう言うのが一番困る……!!」


メガホンから撃ちだされたのはバスケットボールほどの光の弾だ。

その弾道は味方を巻き込むように思えたが、光の弾は仲間の小鬼をすり抜けながら俺たち目掛けて飛来する。

弾速は遅いが回避は出来ない。 後方のゴルドロスや機体、そうでなくても目下の街並みに落ちれば確実に被害が出てしまう。


「ゴルドロス、下がれ!!」


「ブルーム!?」


ならば迎撃するしかない、相殺を目論んで振り抜く箒―――――をすり抜け、光の弾は俺の身体に接触した。

その瞬間、メガホンを握る小鬼の表情が愉悦の笑みに歪んだのが見えた。


《マス――――》


閃光、そして爆発。 強烈な熱と身体がちぎれそうな激痛が走る。

煙と熱に喉が焼かれて呼吸も苦しい、幸いにも体で受け止めた形になったおかげで、足元の機体への被害は軽微で済んだがこっちは重傷だ。


「指゛向性の……爆゛発……さっきの炭酸を真似しやがったな゛……!」


「ブルーム!! なんで……!?」


『受け止めなければ機体や地上への被害が予測された、しかしダメージは深刻。 継続戦闘は?』


「はっ、こんぐらい慣れてら゛ぁ……! ゴルドロス、お前゛は機内から生存者がいないか探゛してくれ……!」


「……死ぬ気じゃないよネ?」


「馬鹿言うな、策は゛ある」


スマホの中に回収したばかりの魔石をつぎ込み、傷の回復を図る。

すぐに白濁していた視界が回復し、焼けた喉の調子も戻って来た。 爆発で負った火傷はまだ全快という訳ではないが、この程度なら黒衣で慣れている。


「……ツヴァイ、ゴルドロスのサポートを頼む。 雑魚の相手は任せろ」


『了解、幸運を祈る』


短い応答ですぐに俺を残し、2人が離れる。

これでいい、あの2人になら救助を任せても信頼できる。 ただ問題は……


「……こっちが持つか、だな」


対処すべき魔物は一体だけではない、今の攻防の隙にも他の小鬼たちが思い思いの武器を製造し、構えている。

360度どこを見渡しても同じような武器はなく、効果や性能など見当もつかない。


《残り時間……そろそろ1分を切ります》


「……頼むぞゴルドロス、こっちも長くは待てそうもない」


状況は絶望的だが、俺が出来る事はただ一つ。

ゴルドロスたちの帰路を死守し、独りでも多くの命を守ることだけだ。

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