白雪が降るころに ③
「目隠しで飯食えってどんなプレイだし……」
「文句言わないでください、外食まで譲歩したのですから。 次ポトフ行きますよ、熱々です」
「あのさあ、なんで目隠しで難易度高いもん頼むの!? アンタこの状況楽しんでない!? ちょっと待って心の準備があっぢゃあああああああ!!!!」
「―――――とてもうるさい、お肉美味しい」
「ヴィーラ、無力な私たちを許してほしい。 サラダ美味しい」
「ねぇ、なんであたしだけ拷問みたいなメニュー押し付けられてるの!? パニパニもトワっちももう少しリーダー労わらない!?」
「「もうリーダーではないので」」
ヴィーラ、パニオット、そしてトワイライト。 かつて魔法少女事変にて苦しめられた3人の魔女が目の前のテーブルで食卓を囲んでいる。
アオがリードしているとはいえ、三人とも目隠しの状態で器用に物を食べるものだ。
約一名だけわざわざアオが温め直した高難易度の食材を押し付けられているが。
「くぅ……くそぅ……熱いけど美味しい……完食したぞぉ……!」
「では次はおでん行きますね、がんもどきからどうぞ」
「まだ夏なんですけど!?」
《いやー、にぎやかですね》
「そうだなぁ……」
つい最近まで敵対していたというのに卓を囲む4人は仲良し……いや、アオは積極的に仕返しをしているようにも見え……いやでも……うん、仲良し。
トワイライトも河原での戦闘後、会う機会がなかったから心配だったが、元気そうで何よりだ。
「コーンポタージュには少し行儀悪いですがパンを浸して食べると美味しいですよ、こうブチっと」
「ブチっ――――ブチっと……腕、腕が―――――ちが、わた……そんなつもりじゃ……」
《しっかりトラウマ刻んでません?》
「何のことだろうなぁ……」
脅して悪いなとは思うがあの状況では仕方なかったと思いたい。
……食後のデザートは豪勢に振る舞おう、それと気になるのはあれから父親とどうなったかだ。
「というかトワっちさー、あれからクソ親父とはどうなったん? なんかニュースになってたけどさ」
「―――――児童保護施設の人に、お父さんとは距離を取ろうと言われた……私はそれが正しいと思う」
「……寂しい? 清々しい?」
「たぶん、どっちも――――以前の親子関係は、間違ってたんだと思う」
「そっか、気づけたなら良いじゃん。 そのうちシャバに出てきた親父ぶん殴れると良いね」
「うん―――――でも、錯乱が酷いから精神病棟と行ったり来たりだって」
《マスター、あの……》
デザートはメニューの中で一番高い奴にトッピング盛り盛りで提供しよう。
うん、まあ、脅しつけた俺のせいだろうけど……錯乱するほど怖かっただろうか、あの時の自分。
――――――――…………
――――……
――…
「あんたさぁ、ここのコックの人が好きなん?」
「ぶっ」
唐突に切り出された話題に口に含んでいたパフェを危うく噴き出すところだった。
そしてその反応だけで答えとしては十分だったのだろう、目隠しを付けたままニマニマと笑うヴィーラの顔が憎たらしい。
「…………どこで気づきました?」
「んー、なんか声? あんたさぁ、コックの人に話しかける時だけ少し声高くなってるっしょ」
「ははは何をそんな馬鹿な事を、そんなわけないですよええ」
ないでしょう?と確認の視線を他の2人に投げるが、2人とも目隠しのまま首を振るばかりだ。
「なるほど、流石魔女の統領だけありますね。 流石の洞察力です」
「いや、あんたが分かりやすすぎるだけだわ。 てか場所特定したんだけど、私前ここ来たことあるし」
「場所が判明したのなら目隠しも意味ないのでは?」
「――――同意、そもそも非効率が過ぎる。 店のチョイスも不明瞭……もしやここ、あなたの実家……」
「はい、食べたなら行きますよ! 全員車に乗って、強制連行です!!」
「あー、待って! まだパフェが残ってる!」
「テイクアウトでいいぞー」
「あざます!!」
ラピリスに背を押され、3人が退店していく。
デザートの容器はアオが回収してくれるだろう、それより正体がばれそうだったが大丈夫だろうか。
《いやー、3人とも後遺症なども無く元気そうで何よりでしたね。 アオちゃんは大変そうですけど》
「そうか? あれは本人も結構楽しんでたと思うぞ、久々に羽も伸ばせたんじゃないか」
ここ最近は魔法少女も多忙を極める、家に帰れず魔法局や近くのセーフハウスで寝泊まりすることも一度や二度ではない。
本人も退院したばかりでフラストレーションも溜まっていただろう、食卓を囲む事で全員のガス抜きができたなら幸いだ。
《食器の片づけ手伝いますよ、今実体化して……って、あれ? また誰か来たみたいですよ》
「ん? アオたちが忘れ物でもしたか?」
がらんどうの店内にカランカランとドアベルが響く、アオたちが戻って来たのかと思ったらどうやら違うらしい。
――――――扉の前に立っていたのは、白いワンピースを着た一人の少女だった。
「……ああ、やっと会えた。 久しぶりだね、お兄ちゃん」
 




