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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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爪痕は深く、傷ましく ②

『一体どうなっているんだ!!』


閑静な会議室に耳障りなノイズが響く。

広い室内に設置されたモニターの一部、息を荒げる老人が机を殴りつけた音だ。


『分かっているのかね、今回の魔女騒動で我々に齎された被害が! その上肝心の槻波はだんまりを決め込んでいるだと!?』


「えろう気張ってはるなぁ青森はん、重傷なんやから顔出せないのは当たり前とちゃうのん?」


『し、しかし……しかしだ、奴は今回の責任はどうするつもりだ!』


「責任なぁ、そないなこと言うならローレルの正体を見抜けなかったうちら全体の落ち度やわぁ」


むしろ彼はその中で唯一桂樹 縁を疑い、そしてその身を案じた人間だ。

被害が現状でとどまったのは逆に彼の功績ともいえるだろうに。


「ほな、何を求めますのん? クビ切るのはあかんよ、代わりもいないうちに2人も重要なポストが抜けるのは困るわ」


『……それでも、何か処分を決めなければ世間は納得するまい』


『そうだ、魔法局の中に犯人がいたと言うことが問題なのだ。 責任者である彼への追及は免れられまい』


責任と来たか、しかし彼らの言いたい事も分かる。

今も京都本部の外にはマスコミの影がちらついている、私が外に出るのを待ちわびているだろう。

この魔女騒動が起こした波紋は大きく、ちょっとやそっとの防波堤では収まりはしない。


『世間を満足させるには生贄が必要なのだ。 本部長、あなたも分かっているだろう』


「それこそ魔女のように、か。 うちは反対やわぁ」


魔女裁判のごとく1人火あぶりに掛けて「はい解決」で済むならそれも手段の1つ。

だが彼の犠牲で収まらなければまた次の誰かが必要となる負の連鎖が続く、実に不毛だ。

それに彼は生死の境をさまよって目覚めたばかり、矢面に立たせるのはあまりにも酷だろう。


「マスコミの対処はうちが出るわ、こないに愛らしい顔が出て来ると相手さんも詰問しにくいやろ?」


『『『『『………………』』』』』


「んー? なして皆して黙るん?」


静寂に包まれた会議を誰かが咳払いして仕切り直す。

皆が皆気まずい顔をしながら今の話題には触れないつもりのようだ、解せない。


『……問題はもう一つあるぞ、ローレルを討滅したのは誰だ?』


「東京に出向いていたのはラピリス、シルヴァ、オーキス、ブルームスターに魔女が沢山とうちは聞いてるなぁ」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』


『そうだそうだ、魔法局のサーバーに一切記録がない。 たとえ野良であろうとも履歴が0というのはあまりにも不自然だろう』


「………………ああ、忘れてはるなぁ」


『……? 本部長、我々にもわかりやすいように頼む』


「堪忍、こっちの話やさかい。 それについてもうちが上手いこと片付けておくわ」


『上手いことというがね、正体不明の魔法少女があの場にいたのが問題なのだ。 だいたい……』


「あっ、ちょい待ってな。 腸から血ぃ溢れて来たわ、うちもさっきまでドンパチしとってなぁ」


『待て、初耳だぞ本部長! 魔女にやられたのか!?』


「うふふ、魔法少女ロウゼキも無敵やないから多勢に無勢はほんになぁ。 うちも年やろか?」



――――――――…………

――――……

――…



「ぶん殴りますよ」


「起きて一言目がそれかよ……」


医務室に赴くと、丁度目を覚ましたアオと鉢合わせた。

既に大方の処置は終えているようで、腕に繋がった点滴台を支えにして立っていられるまでは回復したらしい。


「あなたも大層な怪我を負っているというのに何平気な顔して歩き回ってんですか、まずは治療! そして安静にしなさい!」


「い、いや。 見ての通り無事だよ無事! ケガもそんなにひどくないんだって、ほら!」


「服をめくって見せるんじゃないですよ、はしたない!」


腕や腹を見せて怪我が少ないことを証明するが、余計に油を注いでしまった。

それでもここまで怪我が少ないのは何故だろうか、確かに片足を斬り飛ばされた時にかなり“希釈”したが、その後の戦闘で負った傷も大分消えている。


「……彼女の助力ですか? いえ、しかし……」


「ん、どうした?」


「何でもありません。 それとひとつ聞きますが、あの黒い姿にはどれだけ頼りましたか?」


「………………あー……」


人を殺せそうな視線が俺を貫く、アオは黒衣のデメリットについてすでに察している。

どうやって誤魔化そうか、知ってしまえば彼女は今後の変身を止めるに違いない。


「誤魔化そうとしても無駄ですからね、私ははっきりと覚えています。 嘘偽りなく答えなさい」


「…………10分以上は使ったな」


応えると同時に、鳩尾にアオの拳が軽く当てられる。

体重も乗っていないけが人の拳、まるで痛くないが思わず一歩後退してしまった。


「その力の代償、“忘れられる”だけでは済まないのでしょう……? なら、あの赤い姿はどうなりますか……!」


「……あれは、俺もよく分からない。 けど黒みたいなデメリットは今の所――――」


()()()()()でしょう!? この先取り返しのつかない代償がないと言い切れますか!?」


青が激情を露わにし、俺の肩をゆする。 

彼女の瞳には涙が溜まっている、真剣に俺の身を案じての言葉だ。

俺はアオの言葉に対してすぐに答える事が出来なかった。


「最近あなたが戦う姿を見るたび、嫌な悪寒が走るんです……目を離せばすぐにでもどこかに消えてしまいそうで……」


「…………あお、い……」


「今回の事件は終わりました、お願いですからもう戦わないでください。 でなければ……あなたはいつか死んでしまう」


首を縦に振るうわけにはいけない、それでも俺は「いいえ」という言葉が出てこなかった。

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