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蒼炎燃ゆる ④

「……届いた、か?」


繭から伸びた腕が届く間合いの外、辛うじて原形を保っていたビルの屋上で呆然と立ち尽くす。

最後に見えたのは振り下ろされる腕になすすべなく叩き潰されたブルームスターの姿だった。

心臓が凍りついてしまいそうだが、顔を伏せるわけにはいかない。 果たして私達のの魔法は届いただろうか。


「し、シルヴァ……どうなった……?」


「見えねえっす……体が動かねえっすぅ……」


「分からぬ、ここからでは良く見えないが……きっと大丈夫だ、盟友は死なない」


今すぐにでも加勢したいが、魔力がない我々では足手まといになるだけだ。

そもそも魔法少女ですら害となる魔力濃度、迂闊に近づけばそれだけで死に至る。

……盟友がなぜそんな猛毒の中で問題なく動けるのかは定かではないが、我々の希望はもはやブルームスターしか残されていない。



――――――――…………

――――……

――…



確かにとらえた、逃げる隙も与えずに。

ブルームスターの身体は繭から伸びた腕によって叩き潰された。

逃れる術はない、あの腕に振れたものはすべて魔力に変換されて実体を失う――――――これで終わりだ。


『ギキャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』


「ええ、よくやったわ……けど油断は禁物ね」


そうだ、確実に叩き潰したはずだ。 だけど私は信用しない。

どれほど念入りに滅ぼそうとゴキブリのように這い出して来る、何度も、何度も、何度でも。 

ああ、そう考えると死体が残らないのはこの魔法の数少ない欠点か。


『ギイイイイイアアアアアアアアアア!!!!』


私のそんな意志をくみ取ったのか、はたまたよほど掌に付けられた傷が頭に来たのか、繭は何度もその拳を振り下ろす。

握りこぶしの隙間から滲んだ血が飛び散るたびに、地面に付着した箇所が魔力となって消滅していく。

もはやこの周囲に東京だった面影は微塵も残されていない、たとえ生き延びていたとしても隠れる場所などどこにもないだろう。


「けど、念には念をね――――」


繭から伸びた腕に吹き散らされた根を再度集結させ、辺りの動体反応を探す。

ここまで使ってこないという事は羽箒は使えないと考えて良い、あの斬撃を飛ばす箒にリソースを取られているか、材料のストックが尽きたかだ。

どれほど息を殺そうと地を踏みしめればその振動を捉え、根が襲い掛かる。 抜かりはない布陣……のはずだ。


「…………反応が、ない?」


周囲をくまなく探す、しかしブルームスターらしき動体反応はない。

自らの感覚を疑い、何度も確認するが結果は変わらない。 少なくとも根が届く範囲には動く生物は私達だけだ。

本当に奴を倒した、のだろうか……?


『ギギギィ……』


何度も腕を振り下ろすのに疲れたのか、繭の動きが鈍る。 そのおかげでもうもうと漂う土煙もようやく晴れて来た。

反応がない以上は当然だが、ブルームスターの姿はない。 

あるのは拳を叩きつけれ作られたクレーターと、斬撃の痕跡くらいだ。


「ふふ、なによ……最期は随分と呆気なかったじゃない――――」


胸に溜まっていた息を大きく吐き出す、たった一人の魔法少女に警戒を重ね過ぎたか。

所詮は子供一人。 見ろ、結局は跡形もなく消えて残されたのはわけのわからぬ斬撃の痕――――?


……何かおかしい、違和感を感じる。 

そうだ、何度も拳を叩きつけられた場所に何故斬撃が残されている? 周りの地形ごと押し潰されて掻き消えてもおかしくはないはず。

それが残されているという事は…………


「…………シルヴァとオーキスにはいくら感謝しても足りないな」


「―――――!!」


二度と聞きたくなかったその声は、あまりにも近い距離から聞こえた。

忌々しい白いマフラーが視界の端をかすめ、そよぐ風が鎌鼬と化して辺りに振りまかれる。


――――繭の掌に箒を突き刺し、私を見下すブルームスターの姿がそこにはあった。

 

「ブルーム、スタァー……!! あなた、どうやって!?」


「オーキスが斬り裂いた異次元空間に逃げ込んだ。 よく考えたよ、自分の魔法で引っぺがした切り口を紙飛行機にしてここまで飛ばすなんて」


ブルームスターの片腕には赤い髪の毛が一房握られている。

あれはオーキスのものか、術者の身体の一部を装備することで異空間への通過制限を乗り越えたとでも?

初撃は異空間に潜って躱し、その後に何度もたたきつけられた拳に合わせて箒を突き刺してここまで―――――


「箒が消滅しないか大分怪しい所だったけどな、賭けには勝ったぜ。 おかげでここまで近づけたよ!」


「どこまで私の邪魔をする気か、ブルームスタァー!!」


ブルームスターが箒を引き抜き、重力に任せてこちらへ落下してくる。

弾丸はこの距離では振り回せない、根は地上からこの距離までのバスには間に合わない。

腕を変形させ作った樹木の槍は、無数の斬撃によって切り伏せられる。


「なんなの……一体何なのよ、その箒は!?」


「さあな、でも――――持ち主に聞けば何か分かるかもな」


その言葉でようやく奴の狙いを察する。

このまま奴が落下すれば、その先に待ち受けるのは腕が生える根本……つまり繭に出来た裂け目だ。

奴の狙いは、その中に沈んだラピリスの身体にほかならない。


「やめろ……やめなさい、あの子はもう助からない! 無駄死にだわ!!」


「たとえそうだとしても―――――」


伸ばす手をすり抜け、ブルームスターの体が目の前を通過する。

ただ過ぎゆくその瞬間、彼女の箒から発生した斬撃が私の掌を斬り裂いて行った。


「――――俺はきっと、同じ事をしたと思うよ」


そのままブルームスターの身体はひび割れた繭の隙間へと落ちていく。


……どぷん、という水音だけがやけに鮮明に聞こえた。

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