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片割れのU/限りなくクロに近い赤 ②

【ちょっとしたTips:ブルームスターの目】


一人称視点で描写する機会がなかったけどブルームスターの瞳はハイライトが無い

“燃える蹴り”を繰り出す時はちょっと光が戻ってくる

「……出来た」


珍しく皆が集まる作戦室にドクターが顔を見せ、登場一番に疲労の籠った声を漏らす。

その手には何やら金属製の箱の様なものを持っている、できたというのはもしや……


「解凍された銃弾の解析と……葵、君のアップデートアイテム……できた、できたぞ、ボクは頑張ったぞ……」


「ドクター、ということはその手に持ったものが!」


「ありがとう咲ちゃん! ドクペ、ドクペ飲みなドクペ!」


「ボク炭酸飲めない……」


その言葉を最後にドクターが床に倒れ伏した、安らかな寝息を立てているのでよっぽど疲れたのだろう。

手に握られた箱を回収して中を開くと、そこには綺麗にカッティングされた無色の宝石が収まっていた。


「これは……どう使うのでしょう?」


「詳しい事は咲ちゃんが起きないと分からないわね、とりあえず今は寝かせてあげましょう。 皆ー、手伝ってー!」


縁さんが一声かけると瞬く間に職員が集まり、素早い手際でドクターをソファへと寝かせる。

惚れ惚れするほど流麗な連携だ、流石この魔法局で働いているだけあって皆ただものではない。


「これは暫く起きそうにないですね……縁さん、私は少し外に出てきます。 ドクターが目を覚ましたら呼んでください」


「うん、分かった。 私はそろそろ帰ってくる局長の相手をしているから、見つかったらコルトちゃんと一緒に連れて来てね」


またか、まったく彼女は一か所にとどまるということができないのだろうか。

恐らく喫茶店でお兄さんと駄弁っているか、そうでなければアーケード通りのゲームセンターにでもいるだろう。

縁さんに返事を返し、私は作戦室を後にした。



――――――――…………

――――……

――…



「……なるほど、無くしたのはウサギの形をした財布と」


「そ、そそそそうなんです……」


何とか少女を落ち着かせ、ようやく話を交わせる段階まで来た。

……ただし場所は交番なわけだが。


「ひー君……未成年者略取は3月以上7年以下の懲役よ」


「それでも俺はやっていない!」


危なかった、ここに勤務してる警官がこのおっさんでなければ本気で豚箱行きだったかもしれない。

迂闊だった俺も悪いがそれでもこの扱いは一言モノ申す権利があると思うんだ。


「……それで、だいたいどのあたりで落としたのって心当たりはあるかな?」


「わ、分からないんです……けけけけど駅前でみ、見た時は確かにあったと思う……」


少女曰く、怪我が治った妹の快気祝いに手料理を振る舞おうと一人で食材を買いに来たらしい。

なんとも妹思いで泣かせる話じゃないか、財布を落としたので出来ませんでしたなんてオチを付ける訳にはいかない。


「残念ながら今日は財布の落し物は届けられていないわね……ひー君、プロとしての意見はどう?」


「人を財布拾いの達人みたいに言うな、こういうのは地道に探して行くしかないだろ」


「そ、そそそそうですよねぇ……」


少女ががっくりと肩を落とす、こういった落し物は時間がたつほど見つけ難くなる。

つまり行動は迅速に、落ち込んでいる暇なんてものはない。


「というわけで駅前から道のり辿ってみるか、案内してくれるかい?」


「へっ? て、てて手伝ってくれるんですか……?」


「乗り掛かった舟だ、こうなったらとことん付き合うよ。 なあおっさん?」


「そうよん、彼ってば顔は怖いけど頼りになる男の子だから安心して」


顔が怖いのはあっているけど一言余計だ。

サムズアップするおっさんを無視し、少女を連れて駅の方へ向かおうとするが、その時になってようやく少女の名前も聞いていない事を思い出した。


「あっ……ひ、緋乃(ひの)といいますっ! よよよよろしくです!」


「そっか、俺は七篠陽彩、よろしくな緋乃ちゃん。 それじゃぱぱっと見つけますか!」


おどおどした彼女の手を引いて、駅へと向かい歩きだす。

冷たくて細い腕だ、ちゃんと飯は食べているのだろうか、店まで引っ張ってたらふく食わせたい。


「駅から来たって事は家は遠いのか? わざわざ電車に乗って大変だったろ」


「いえ、あの、いいい妹の事を思えばこのくらい……!」


妹の話になると言葉尻に力がこもる、本当に妹の事が大事なんだな。

……少し、月夜の事を思い出した。


「……そっか、それで何を作るかは決まってるのかな?」


「や、焼きそばパンです……!」


…………何故焼きそばパン?



――――――――…………

――――……

――…



駅まで戻り、彼女が歩いてきた道のりを再度辿って行く。

その足取りは真っ直ぐに最寄りのスーパーへ向かうのかと思えば、好奇心の赴くままといった感じに寄り道が多かった。


「こりゃ少し骨が折れそうだな……」


「ご、ごごごごめんなさい! どうしてもいろいろ気になってしまって……!」


すると彼女の足があるホビーショップの前で止まった、その視線はワゴンの中に紛れた人気ヒーロー番組の玩具に釘付けにされている。


「これは……仮面アクターの初回生産限定……!? なんでこんなところに……売れ残り? そうか、他の商品に紛れて……」


「緋乃ちゃん?」


なんだろう、おどおどしていた彼女の雰囲気が一変した。

戦闘時のラピリスに勝るとも劣らない鬼気迫る迫力の彼女は無意識にポーチに手を突っ込み、はっと我に返る。


「……レアなの?」


「レアものです!! これ見てください、これは初回生産分を表すラベルなんですけど今回のアクターはアイテムに気合いが入っていてこれには主役の限定収録音声や特殊効果音、さらには1話目で登場したひび割れた状態のアイテムや制作秘話が載せられたサイン付きDVDまで同封されてネット予約は秒で撃沈し店頭販売分も血で血を洗う激闘を巻き起こした伝説の」


「分かった! よく分かった! つまりこれが欲しいんだな!?」


「で、でもあの、お金が……」


だからといって千載一遇の出会いを逃すのは酷だろう、ワゴンの中の玩具を拾い上げてレジへと持って行く。


「これください」


「アリャッシター」


「な、なななななな七篠さん!?」


流石初回生産版、少し値が張るが無理をすれば払えないものじゃない。

大きめの袋に収められたそれを、目を丸くして固まる彼女へと渡した。


「ほら緋乃ちゃん、君のもんだ」


「だ、だだだ駄目です受け取れませんそんなの!!」


「妹のために頑張る君にちょっとしたプレゼントだよ、なあに気が済まなかったら財布が見つかった時に返してくれればいいさ」


口では「でも」とはいうがその瞳は目の前にぶら下げられた魅力に抗いきれていない。

やがて恐る恐る伸ばされた両手がしっかりと袋を掴み、愛するもののように玩具を抱きしめた。


「この御恩は……一生忘れません……!!」


「いやいや、良いって別に」


「……あれ、もしかしてその子さっきも店に来たっすか?」


不意にレジを打っていたバイトの子に話しかけられる。

緋乃ちゃんが頷くと、バイトはレジの下からウサギの形をした財布を取り出して見せた。


「あっ、そそそそれ……!」


「あー、やっぱ君の? 良かったぁ、可愛い財布なんだから無くしちゃ勿体ないっすよ?」


「あ、ありがとうございまひゅっ!」


台詞を噛みながら緋乃ちゃんが財布を受け取る。

そのウサギの耳には戦車やヒーローもののストラップがジャラジャラと括りつけられていた、うんそりゃ目立つわ。


「な、七篠さん! お金お返ししますねっ!」


「ああ、別に気にしなくたっ……て゛?」


彼女が財布を開くと、中にはくしゃくしゃのお札がみちみちに詰め込まれていた。

パッと見た限りそれは千や五千の色ではない、まさかあれ全部諭吉か……?


「はいどうぞ! あっ、お釣りは財布に入らないので結構です!」


「……さ、財布見つかってよかったね緋乃ちゃん……」


多分遠慮や冗談ではなく真面目に持て余すから言っているのだろう。

彼女はお忍びで遠出に来たお嬢様かなにかだろうか……?


「ありがとうございます、七篠さん。 本当に良かった、これで……」



 ―――――オオオオオオオオオオオオオオオオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛―――――



……大気が震え、周囲の空気が一瞬で凍り付く。

傍らに立つ彼女の喜びを遮るように、どこか遠い空で身の毛もよだつ雄叫びが轟いた。

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