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鬼さんこちら ⑤

全身の力が途切れたかのように、少女の身体が倒れ伏す。

その身体から零れる鮮血は死を迎えてもおかしくはない量だ。

魔女にしては奇妙な相手だったが、その違和感を払拭する機会もなく……奴は死んだ。


『――――――……』


本体に持ち帰れば珍しいサンプルとして喜びそうだが、この魔石だけでも十分だろう。

触媒が魔法少女1人だけではやはり心もとない、ここは少しでもリソースを確保して賢者の――――


『…………?』


何かが皮膚を刺したような気がした。 巨大な藁人形と化した自分の腕を確かめるが、何も無い。

気のせいか? いや、肌を刺すピリピリとした感覚は未だ残っており、それどころか段々と刺激は強くなっていく。

―――――それは、息絶えた魔女の身体から感じられるものだった。


「…………へ゛、ん゛……」


完全に沈黙していたはずの少女の口から、血反吐を伴う言葉が漏れる。

反射的に伸ばしたツタの槍は少女に届く前に見えない何かによって切り落とされる。 まるで、誰かが少女の事を守っているかのように。


だめだ、言わせてはいけない。 奴らにその言葉だけは言わせてはならない。

奴らはその言葉と共に、何度だって立ち上がって来るのだ。


「し……ん……!!」


少女は自らの血だまりから取り上げた携帯電話を掲げ、その言葉を宣言する。

瞬間、ほとばしる雷光が彼女の全身を包み込んだ。



――――――――…………

――――……

――…



不思議と理解できる。 初めて変身する力だというのに、身体によくなじむ。

まるで誰か傍に立って懇切丁寧に使い方を教えてくれるかのようだ。

……いや、実際に私には彼女たちが付いている。


≪――――おう、()()()()()()()?≫


「……“1分”で頼むっす」


開いたガラパゴスケータイのボタンを押下し、画面を閉じる。

カチリとしっかり蓋が閉じた事を知らせるクリック音が鳴ると、電撃を帯び始めた携帯電話が巨大な剣の形を成す。

それはセキさんが生成する片手剣よりもサイズが大きい、バスターソードと形容するような大きさだ。


『グオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


「よくもセキさんたちをやっつけてくれたっすねぇ! ここから先は自分達の独壇場っす!!」


藁人形が咆哮を上げ、地面に両手を叩きつける。

ひび割れる地面の下から湧き出て来たのは丸太ほどの大きさを持つ藁の鞭、これまで襲ってきたツタやイバラに比べれば威力も大きさも段違いだ。


≪大丈夫かしら~? 準備運動にはハードすぎる?≫


「いいや、全然。 むしろ歯ごたえがないんじゃないっすか……ねっ!!」


大地を蹴ったその瞬間、飛来する藁の鞭を真正面から切り裂き――――――瞬きする間もなく藁人形と鼻が触れ合う距離まで肉薄する。

感情が読めない藁の隙間から、相手が目を見開いたようにも見えた……が、驚きたいのはこっちもだ。


「は、速すぎるじゃないっすかぁ!?」


≪馬鹿、チャンスだよチャンス! 叩き切れ!!≫


「わったった、そうだそうだ! ……っと!!」


セキさんの声に急かされて剣を振り上げるが、こちらが我に返るよりも早く体制を取り直した藁人形が自らの身体から無数のイバラを伸ばす。

たまらず藁を蹴って飛び退くが、今度は下がり過ぎた。 勢いあまって岩肌に背中を叩きつけてしまった、


「あいったー!? ま、魔女とは段違いっすね魔法少女って……!」


≪馬鹿、()()1()()使()()()()()()()()! 早く蹴り付けねえとガス欠すっぞ!!≫


「分かってるっすよ、残りは!?」


≪45秒だ、使い方間違えるなよ!!≫


大剣と化した携帯電話からセキさんの激励が響き、通話が切れる。

大丈夫だ、まだ時間には余裕がある。 それに今の一合で何となく感覚も分かった。

息を整え、残り43秒。 体から零れる砂を振り払いながら、再度藁人形に向かって突撃を始める。



――――――――…………

――――……

――…



―――――最悪だ、まさか魔女が魔法少女になるとは。

想定していなかったケースではない、しかしあり得るはずがないと斬り捨てていた。

桂樹 縁だからこそ断言できる、魔女に身を堕とすような精神では魔法少女に至れないと。


だからこそ目の前の魔法少女はブルームスターよりもイレギュラーな……いや、思考と議論は後だ。

今必要なのは目の前の目標に対する分析、おそらく魔法少女に目覚めた事でその性質は大きく変化している。

以前が「電気」と「磁力」なら今は何だ? 先ほどの超身体能力から考えるに単純な身体能力の強化?


車掌を思わせるような襟の高いコート、杖は今もなお電撃を纏うあの携帯電話で間違いない、それに先ほどから彼女の身体から零れる砂は何だ?

それに先ほどまで致命傷を負っていたはずの彼女から、一体どうしてあれだけの魔力が湧き出している?


「ぼーっとつっ立ってるとぉ……脳天、叩き切るっすよ!!」


『……!!』


わたわたと不格好に剣を構え、魔法少女が再び地を蹴る。

正体は分からないがあの急加速で突っ込まれるだけでも脅威だ、だが直線的な動きなら幾ら速かろうが対処は出来る。

突撃のタイミングに合わせ、地面に仕掛けたツタを引き上げて壁を――――


「――――遅いっすよ」


『っ!?』


地中から急成長させたツタが防壁を作る本のコンマ数秒のラグ。

その僅かな遅れ、壁が形成されるよりも早く―――――彼女の姿は目の前にあった。


「残り39秒――――よぉく数えておくっす、あんたのタイムリミットを!」

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