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鬼さんこちら ①

「シルヴァ、オーキス!」


「…………チッ」


珍しくローレルが感情をあらわにする、それだけ乱入者の登場が邪魔だったのか。

だがなぜ、今さらシルヴァたちが現れたぐらいで何をそこまで怒りを露にする?


「邪魔するよぉ、どうせ本物じゃないだろうけど……ここでなにしてたのかなぁ?」


「オーキス……本当にかわいくない子、昔からあなたはそうだったわ」


「あいにく愛嬌で生きていけるほど東京(ここ)は甘くなかったんだぁ、そして今はあんたに好き勝手されて大分腹が立ってる」


「あらそう、それは悪いことしたわね。 火の粉が降りかかる前に退散しましょう」


そういうと、ローレルの足元が花びらとなって崩れていく。

あれを叩いたところで本体にダメージが届くわけでもない、相手から帰ってくれるなら追い打ちを仕掛ける理由もないが……一つだけ聞くべきことがある。


「待て、ローレル! 俺たちより先にラピリスが来たはずだ、あいつをどうした!?」


「……あら、気になる? 仲がいいのね、あなたたち」


「冗談に付き合うつもりはねえぞ、話す気がないならそのままさっさと失せろ」


「ふふ、ふふふふふ……そうね。 あなた達が来るのが遅いからとっくに殺――――」


――――二の句を継ぐよりも早く、俺が投げつけた箒によりローレルの右頭部が焼失した。


「分かった、失せろ。 その話が本当なら次は確実にお前を仕留めるよ」


「ふふ、ふふふふふふ……! そうね、また会いましょう! 私もあなたには興味があるのよ、ブルームスター!」


廃駅内に狂った笑い声を反響させながら、ローレルの残り少ない体積が炎に巻き込まれながら消滅していく。


「ラピリスが駄目だったなら次はあなたにお願いするわ―――――ああそれと、早く全員合流しないと危ないわよ?」


最後の一欠けらが炭となるまで、彼女は決して笑顔を崩すことはなかった。


《マスター、いつの間に年上キラーのスキルを身に着けたんです?》


「シルヴァ、オーキス。 無事か? ここまでマンドラゴラたちに襲われたと思うけど……」


《もー、無視しないでくださいよー! 気ぃ張らなくても大丈夫ですよマスター、あの言い草ならラピリスちゃんはまだ無事ですって!》


ハクに指摘され、どうにか頭にたまった熱が放出されていく。

そうだ、ローレルが最後に吐き捨てた台詞からして既にラピリスと遭遇し……そして何らかの利用手段がまだ残っているのだろう。

だからこそラピリスが駄目なら次はお前だなどと通告してきたのだ。 俺に対して釘を刺す意味も兼ねて。


「……ラピリスの事も気になるが、今は全員の合流が先だ。 花子ちゃんは?」


「我々は運よくすぐに出会えたが……花子の姿は見ておらぬ」


オーキスもシルヴァに同意し、首を横に振る。

つまり今花子ちゃんは一人きりということになる……マンドラゴラたちが蔓延るこの地下で、だ。


「……まずいな、探そう。 今一人きりになるのは危険だ」


「う、うむ! しかしこの迷宮でどうやって……」


「オーキス、大分入り組んでるがこの地下の構造は分かるか?」


「ふぇ? ま、まあある程度なら……」


「なら大丈夫だ、こっちには最高のナビゲーターがいるからな」



――――――――…………

――――……

――…



「おうこら、待てやー!!」


だいたいわかった、4人だ。 主人格を除けば4人の人格がある。

一つは今まさに藁人形(わたし)を追いかけてくる似非た関西弁の斧使い。

剛力自慢らしく、こちらの妨害をものともせずに力づくで追いかけてくる。


「チッ、でかいナリしてせせこましい……! 次、任せるわ!」


「――――はいはい、任されたデス!!」


次に紫髪の二丁拳銃使い、こいつは遠くからちまちま電撃混じりの弾丸を飛ばしてくるが面倒だ。

体躯のせいで回避が難しい、おまけに弾丸を喰らうと磁力を帯びる特性がある。

電撃を喰らった箇所を自切することで誘引は避けられるが、いちいち体積を削られるのが鬱陶しい。


「―――――あ~ら~、その図体じゃ逃げる先も限られるでしょう?」


まただ、また入れ替わった。 足に釣り糸が引っかかる、今度はあの青いおっとりとした奴だ。

4人の中で一番手口が鬱陶しい、距離を離そうとするとすぐにあいつがでしゃばって邪魔をしてくる。

ならば数で壁を作ろうと、マンドラゴラたちを呼び寄せて襲わせるが――――


「オラオラオラァ!! 邪魔すんじゃねえ!!」


今度は赤い特攻服の魔女が顔を出す。

剣を乱雑に振り回す彼女は技術こそ拙いが、4人の中で一番速い。

肉体の速度だけではなく、反応速度もツタによる奇襲でさえも見てから反射的に斬り伏せられてしまう。


「逃がさねえぞテメェ……そいつを、おいて行きやがれ……!」


彼女が走る跡には点々と赤い血液が滴る。

なんてことはない、脱出こそ叶ったがあの魔女の負傷は深い。 このまま逃げ続ければ先に燃料が切れるのは相手の方だ。

相手をしてやる意味もない、ただ逃げ続けるだけで終わる。 本体に魔石を届けてしまえば“この私”の役目は終わりだ。


……そうだ、戦う必要はない。 合理的な判断だ。

それとも私は、あの死にぞこないを脅威とみなして逃げ回っているのだろうか?

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