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魔法少女は許さない ⑧

「ガ、ハ……ッ! クッソ、反則かよテメェ……!」


『グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


図体がデカくなればそれだけ動きは鈍くなる……とはいうが、こうも周りが岩壁だらけの閉鎖空間では逃げまわるのにも一苦労だ。

しかもデカブツだけならまだしも、隙を見て足元から伸びるツタがちょっかいを掛けてくるのが鬱陶しい。

目の前にばかり意識を裂いていると文字どおり足を掬われる。


『おい、赤いの! 平気か!?』


「問題ねえ、ただあいつのパンチをもろに喰らっただけだ!!」


『それねぇ、大丈夫って言わないと思うんだけど~?』


『そうデスよ! 花子の身体は大丈夫なんデスか!?』


パンチ一発、飾りっ気もねえただのテレフォンパンチが一撃必殺級の威力になる。

正直なんで喰らって立っていられるのか不思議で仕方ない。 膝は震えるし視界は霞む。


『ええい、やっぱ花子なしであんな奴に勝つなんて無茶や!』


「駄目だ、こいつはオレたちが何とかする」


『無茶では? 既に一発貰って満身創痍なんデスよ!?』


「無理でもゴボウでもやるんだよ!! オレらがやらなきゃ誰がやるってんだ!!」


意地と気力で無理やり立ち上がるが、最悪な事に気分がノリ切らねえ。

あのデカブツ相手じゃ多少切ったり刺したりしたところで効果が薄い、電圧で焼きつくすにしても図体がデカすぎて無理だ。

……逃げるだけならできる。 別に逃げ道を封鎖されたわけじゃない、あれを倒したところでオレたちには何の得もない。


「…………チッ」


別に魔石なんて放って逃げりゃ良い、ブルームスターがどうなろうとオレたちには関係ない話だ。

例え魔石が敵の手に渡ろうが花子が無事ならそれが最善だ。 だが――――


「おいテメーら、闘争と逃走どっちがいい?」


『『『逃走』』』


「よーし、ぶっ飛ばすぜあいつ!!」


『言うと思ったわバーカバーカ! あほか、花子の身体やぞ!』


「花子なら逃げねえ、ならオレたちが逃げる訳にはいかねえよ。 あいつはすげぇ奴だ」


初めて出会ってから付き合いは短い、それでも花子の強さは知っている。

姉ちゃんが倒れた時、あいつはオレたちを呼び出した時に言ったんだ。 「()()()()()()()?」と。


「普通なら泣き寝入りがいいとこだ、だけどあいつは目の前の出来事から逃げなかった。 あいつはすげぇよ」


臆病で、後ろ向きで、自分に自信がなくて……それでも、花子はどれだけ打ちのめされようと前に進む事だけは諦めない奴だ。

あいつに必要なのはあいつの背中を押すことができる誰かだったんだ、だからオレたちが呼ばれたんだ。


「あいつが必要とするオレたちが、あいつの見本になれねえ真似ができるかよ! 気合い入れ直せよテメェら!」


『う~ん……それでも、その大事な本人を眠らせてるのは私達なんだけどねぇ』


「そいつは言うな!!」


『グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


「おめえもうるっせえんだよデカブツ!! 狭い場所で散々暴れやがって、崩れやがったらどうするつもりだ!!」


怪物の頭部はゴリゴリ天井にぶつかり、そのたびに土クズが天井からこぼれてくる。

ただでさえ適当に切り開いたような横穴なのに、いつ崩れるのか気が気ではない。

もし崩れたら全員揃って生き埋め……いや、相手は埋もれても問題ないのか? 人間ではないのだから。


『…………グモモ』


「……おい、待てお前? 今何かしらけるような事考えたんじゃ」


『グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


「てめええええええええ!! やりやがったな!!?」


藁人形が激しき頭を振り、天井に何度もたたきつける。

そのたびに天井から崩れ落ちてくる土クズの数は増え、ビキビキとクモの巣型にヒビが拡散していく。

崩落する岩石に阻まれるその瞬間、藁人形の勝ち誇った顔が見えた。


「面覚えたからなテメェ―――――逃げ切れると思うなよ」



――――――――…………

――――……

――…



この形態の問題点は、人間の姿からかけ離れるせいで本体との同調率が低くなるため、独立思考が鈍くなることだ。

簡単に言えば頭が悪くなる、図体の問題もあるが瓦礫からの脱出に大分時間がかかってしまった。

だがしかし、魔石も回収できたうえに邪魔な魔女を片付けられたのだから上々だろう。


『グモモ……』


圧死、とまではいかないが身動きが取れない状況には違いない。 

それになにやら調子も悪い様子だった、脱出するにしても私ほど簡単には進まないだろう。

なにはともあれ、棚からぼたもちの魔力リソースだ。 早急に本体へ与えて……


『…………?』


違和感に気付く、何かが引っかかる。

心象的な引っ掛かりではなく、何かに足を引っ張られるような感覚だ。

ふと、自分の足元を見る。


「……ふふ、ふふふふふ……やぁ~ねぇ~……自分達で脱出できないなら他人の力を借りればいいだけだものぉ」


――――――自分の足に引っかかっていたのは、目視が難しいほど細く伸ばされた電気の糸で繋がった釣り針だった。


「今度はおいかけっこかしら? 駄目よ~、勝ち逃げなんてぇ」


瓦礫の隙間から血まみれのまま這い出す、ゾンビのような魔女と目が合った。


「――――魔女(わたしたち)が許さないんだから、ねぇ?」

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