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魔法少女は許さない ⑥

「ハク、こっちで合ってるか!?」


《わっかりませーん! 私は反応を辿ってるだけです、こんな道がぐにゃぐにゃだとどこが正解かなんて分かりませんよー!》


「だよなぁ! その事にもっと早く気付くべきだったよなぁ俺たち!!」


『キイイイイイエアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』


地下迷路の逃走劇が始まってから十数分、後ろから追いかけてくる草木の化け物たちの数はどんどん増えている。

一体一体は大したことはないが、全員それなりに“堅い”のが面倒くさい。 雑な攻撃じゃ撃退にもならない。

しかもこの洞窟に生い茂る草木にまだまだこいつらが潜んでいるんだから嫌になる。


《バーッて焼き払いますか、今ならだれも巻き込みませんよ!?》


「こんな所で炎を焚いたら酸欠まっしぐらだ! それに魔力も無駄遣いできねえ!」


《もー、いちいちやり方が鬱陶しいですね敵さんは!》


「性根の悪さが染み出てるな、年の功ってやつか」


『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!』


《マスター! マスター!! なんか怒らせていませんか!?》


「まずい、地雷だったか!!」


本体と意識を共有しているのか、いやそれ以前にこちらの言葉が分かっているのか。

気のせいか無機質だったはずの奴らの顔に怒りの色も滲んで見える。


「ハク、また分かれ道だ! どっちだ!?」


《右……は先客がいますね! 左行きましょう左!!》


ハクの言い方からして右の方が正解のルートなのだろう、だが二又に分かれた道の右方からは、目一杯に広がったマンドラゴラたちの群れが押し寄せてくる。

とてもじゃないが正面突破できる物量ではない、自然と選択肢は左の道に限られるだろう。

右に比べ、左の道は()()()()()()()()()()()()


「……なあ、ハク。 気づいてるか?」


《えーえー、分かってますよ! 明らかに誘導されますねこれ!》


先ほどからハクが誘導する道はことごとく塞がれている。

片や遠回りになるような道のりだけは気持ち悪いほどに空いている、何らかの意図を感じるなという方が無理があるだろう。


「ローレルはシルヴァたちの位置を把握してるのか? だとすればこれは合流させないため……」


《マスター、待った! あれ見てください!》


狭い道のりを抜けると、開けた人工的な空間に躍り出る。

10年前まで使われていた地下鉄だろう、今は走る電車も通勤する人間もいないが。


「…………電車で来た、って訳じゃないよな」


「―――――そうね、丁度いい場所があったから待ち伏せさせてもらっただけよ」


閑散としたホームの真ん中で、黒い喪服に身を包んだローレルが待ち構えていた。

後ろから迫るマンドラゴラは狭い通路にその身体を詰まらせ、退路を塞いでいる。

また、目に見える範囲の出入り口は丸太のように太いツルによって封鎖されているのが見える。


「なるほど、まんまと閉じ込められたなこれ……」


《もしかして年の功って言ったの相当怒ってるんじゃないですか?》


「ふふ、ふふふふふ……」


………………それだけはないと思いたい。



――――――――…………

――――……

――…



夢を見ていた。 セピア色に色あせた風景が目の前に展開される。

思い出すのはほんの少し前、私がまだ魔女にすらなっていない時の事。

初めてお姉ちゃんがいなくなった、あの日の事だ。


病院のベッドでお姉ちゃんが寝息を立てている。 細い腕には点滴の管が通り、まだ生きているという証拠が心電図となってベッド横のモニターに写される。

この表示が次の瞬間にも止まってしまいそうで恐ろしかった。


「…………どうして」


どうして、お姉ちゃんは魔女になんてなりたかったんだろう。

お姉ちゃんは立派な魔法少女だった、それも誇り高い始まりの10人の中の1人。

魔法少女に憧れる理由なんてなかったはずだ、頭の中に浮かび続ける疑問の答えは出てこない。


お母さんは泣いていた。 お父さんだって怒っていた。

お姉ちゃんはもう魔法少女を辞めたんだ。 魔力が無くなって、普通の女の子として生きられるはずだった。

なのに、なぜこんなことになってしまったんだろう。 


――――手がかりは、お姉ちゃんが握っていた錠剤だけだった。


『……なにビビってんだよ、お前が望んだんだろ? 喜べ、お前は今日から魔法使いだぜ』


『よろしくね~、いきなり4人も押しかけちゃって大変だとは思うけどぉ』


『なんや元気ないな、どないしたん? ……そーか、姉ちゃんが……泣ける話やなぁ』


『それなら待ってるだけじゃ駄目デスね、こっちから奪い返しにいくのデス!』


初めてできた友達たちはとても賑やかで、とても混乱した。

なにせ目の前にいない、私の空想だけの存在なのだ。  話ができるのはこうやって頭の中だけで、面と向かって会うことは出来ない。

変身して鏡を見ればそれぞれの格好は分かるが、あくまで本体は私なのだから変な感覚だった。


「……そうだ、私は結局皆に背を押されるだけだった」


ほかの魔女を狩ろうと、お姉ちゃんが目を覚まさないようにした元凶を倒そうと誘ってくれたのは4人だった。

私は何もしていない。 ただ腕を引かれるまま、戦闘だって全部彼女達がやってくれた。

私が()()()()()()()()。 結局自分は怖くて殻にこもるだけで何もしない、一人じゃ何もできない。


お姉ちゃんがいなくなったから代わりを求めた、醜く卑しい私の心。 それが私という魔女が生み出した罪だ。

私はどこまで行っても自分じゃ何もできなくて代わりにやってくれる誰かを求めていた。


―――――私には、「ローレルを倒して消えてくれ」なんて……彼女達に言える資格なんてなかったんだ。

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