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マジックタイム・ショータイム エピローグ

「……おのれブルームスター!!」


「まーだ言ってるよこの子っタラ」


夕暮れ時、店内ではアオがジョッキに注いだウーロン茶を飲み干してテーブルを叩いていた。

その姿は完全に飲んだくれたおっさんだ、お嫁に行けなくなるぞ。


「何か言ってやってくださいよ優子さん、縁さん。 いい年の娘がこの有様ですよ」


「あはは、私は命が惜しいので遠慮しておきまーす……」


「私らよりあんたの方が効果があるんじゃない?」


原因の俺が声をかけるのがバツが悪いから言っているのに、おのれ大人たちめ。

対してアオは既に2杯目に手を付けていた、お腹壊すぞ。


「いージャン、やらせてあげなヨ。 痛い目見ないと覚えないっテー」


「なーに言ってんですかコルトぉ、大体私はねぇ、あなたのその不真面目な態度が……」


「ギャー! 酔ってる、この人ウーロン茶で酔ってるヨ! ヘルプミーおにーさーん!」


「私のお兄さんになぁに絡んでるんですかこのぉー!!」


すまないなコルト、ストレスを与えた側の俺からできる事は何もない。

出来る限りアオの憂さ晴らしに付き合ってくれ、骨は拾う。


「はぁー……けどブルームスターちゃんにシルヴァちゃんかぁ、魔法局に登録してくれれば私も文句はないのになぁ」


「何か事情があるって事でしょう、しゃーないっすよ縁さん」


湯冷ましの水を啜り、縁さんが愚痴をこぼす。

彼女の立場からすれば胃が痛む事だろう、だが俺の正体は墓まで持って行くからどうか強く生きてほしい。


「はぁ~~~~……陽彩君、私がクビになったら雇ってくれますかぁ?」


「そういう話は店長に通してください」


「一度履歴書持ってきなさい」


ただ彼女の輝かしい経歴を考えれば考えにくい事だ、たとえクビになったとしても代わりにこの癖の強い魔法少女たちを制御できる人材がいるとも思えない。


「ちょっとおにーさん、今失礼なこと考えなかったカナ!? それといい加減助けてくれてもいいんだヨ!?」


「ですからねぇ私はぁ、あなたのその不真面目な態度に前々からダメだなって思っていたんですよぉ」


仕方ない、そろそろ飲んだくれた幼女に絡まれた幼女を助けるか。

程よく冷ました湯を湯飲みに注いでアオに差し出す。


「アオ、一旦落ち着け。 冷たいものばかりだと腹下すぞ」


「むぅ……ありがとうございます」


アオは湯呑を受け取ると一気に呷り、そのままテーブルに突っ伏した。


「あらら、酔いつぶれちゃったかしら?」


「えぇ……ただのお湯だよネこれ?」


「当たり前だ、未成年に酒なんか渡すか」


テーブルに突っ伏したアオは肩を上下させ、穏やかな寝息を立てている。

ここまで場酔いする奴は初めて見た、アオにも羽目を外す時があるんだな。


「ったく、我が娘ながら情けない……陽彩、悪いけど部屋まで運んでちょうだい」


「はいはい、失礼しますよっと……」


「ぷぷ、写真撮って後で見せてやるカナ」


自前のスマホを構えるコルトを尻目に潰れたアオを抱きかかえる。

持ち上がった体は軽い、これはちゃんと肉を喰わせないといけないな。


そのまま二階にあるアオの自室へと運んで部屋の扉を開ける、その中は綺麗に整頓され、埃1つ無い。

ただ本棚に収められた格闘技や刀剣に関わる本のラインナップは年頃の娘としてはどうかと思う、学校で友達とか居るんだろうかこの子は。


「よっと、着きましたよお客さん」


「うぅん……領収書くださぁい……」


《本当に寝ているんですかねこれ》


ベッドの上に寝転がしても起きるそぶりすらない、よほど疲れていたのか。

……疲れていたのだろう、無理もない。 子供が背負うには重すぎる荷だ。


小さな掌は荒れ、細かい擦り傷が絶えない。

はだけた衣服の隙間から覗く肌には青あざ……それに電撃でできたか、軽い火傷のような跡もちらほら見える。


どれもこれもが痛ましい、これから暖かい季節になろうとも袖の短い衣類を着る事をためらうほどに。

治る傷だと思いたい、将来に残るほどの傷でない事を祈る。

あわよくば、彼女がこの先これ以上傷つく事が無い未来を……


「……大丈夫、大丈夫だ、アオ。 もうお前が戦う必要はないんだ」


「んん……おにい、さん……」


指で髪を梳くように眠りこけた頭を撫でる、さらりと指をすり抜ける髪は黒く美しい。

10年も過ぎれば立派な美人になるな、そんな事を思いながら起こさないようにそっと部屋を出た。


《……そういえばマスター、あの氷漬けの弾丸ってどうなりました?》


「………………あっ」


すっかり忘れていた、そういえば事の発端はあの弾丸だ。

放っておくとまたシルヴァが追い回されかねない、連絡は早い方が良い。

手早く済まそうとスマホを片手に、一階の裏口から外に出た時だった。


「……あらぁん? やだ、今日ってお休み?」


「んっ?」


表の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた、サンダルを履いてそちらの方に顔を出すと同じく見覚えのある顔。

男島のおっさんと詩織ちゃんの2人が扉の前に立っていた。


「おっさん、こんな時間に何か用か?」


「あら、ひー君! 丁度良かったわ、今日ってお休みなの?」


扉には「準備中」の看板が掛かったままだ、優子さんが間違えたなこりゃ。


「あー……ちょっと待ってくれ、店長に聞いてくる。 多分OKだとは思うけど」


「よかったわ、今日はひー君のお店で食べようと思ってたからお腹ペコペコよ。 ねっ、詩織ちゃん?」


「う、うん……」


「そりゃ有難い、存分に腕を振るわせてもらうよ」


事情を話せば縁さんとコルトも納得してくれるはずだ、ただコルトはともかく縁さんはうっかり魔法少女の情報を漏らさないか心配だが……


まあ大丈夫だろう、信じよう、うん。

さて食材は何が残っていたかな? 確か下ごしらえの済んだ鶏肉がまだあったはずだからそれと、あとはシチューも温め直して……



《……シルヴァちゃんに連絡しなくて大丈夫なんですかねー?》


ハクのつぶやきは誰にも届くことはなく夜の闇へと消える。

後日、そのせいでもうひと悶着起きることになるが、それはまた別の話……

白銀宮詩織(魔法少女名:ダークネスシルヴァリアⅲ世) 杖:変身発症チューニシフター


前髪で瞳を隠した大人しい文学少女。

ただしそれは世を忍ぶ仮の姿、その正体は魔法少女ダークネスシルヴァリアⅲ世その人である。

変身前後で性格が大きく変わるが二重人格などではない、ただ気分がハイになっているだけ。


好きなものはプレーンシュガードーナッツ

苦手なものは魔法少女ラピリス


変身時の姿は全身黒のコーデに片手には包帯をぐるぐる巻いた将来後悔しそうなスタイル。

包帯の巻き方は忘れていない、外しても黒い炎は出ない。 ただの飾り。


固有魔法は羽ペンで綴った詩を魔術に変換・超高質で出力する「文字の魔法」

魔術の出来は詩の長さと本人のノリに比例する、最高に筆がノれば短文でもかなりの威力となる。

筆のインクは自身の魔力から作られ、そのずば抜けた魔力量と相まってほぼ無尽蔵と言っても過言ではない。

消費する魔力も出来上がった魔術ではなく書いた文字数に比例するため効率も良い


ただし紙など文字を書く媒体が必要で大技を用意する場合は隙も大きい、

筆がノらないときはとことんダメでムラが激しい。


魔法少女としての根底にある願いは“変わりたい”

臆病な自分が嫌いで、物語に出てくるヒーローのようになりたいと願った。

故に憧れのヒーロー像を演じる事で作り上げたのがシルヴァという魔法少女である。


名前の由来はとにかく中学二年生っぽい名前を5秒で考えたもの

本名は本の「栞」から。


初案ではかなり腐れていた、しかし非変身状態のアクがエグすぎるとシルヴァが霞むということで大人しめに。

メカクレはいいぞ。

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