ある少女の救出作戦 ⑧
「――――速やかに排除すべき」
「おおう……いきなり穏やかじゃないな」
「あっ、箒! おかえりー」
人目を避けてアジトへとやってくると、既に変身状態のヴィーラ、パニオット、そしてトワイライトが待っていた。
どうやら俺が到着する前に議論が始まっており、それも外部温まっているらしい。
「―――――新入り、何故ここに?」
「アタシが呼んだだけだし、魔女狩りに襲われたら大変じゃん」
「―――――変身用の錠剤も持っていないなら、魔女にもなれない。 襲われないのでは?」
「「…………あっ」」
ヴィーラとパニオットの声が揃う、確かに変身前の姿がばれてるわけでもないし襲われるはずがない。
まあその事にここまで誰も気づかなかったわけだが。 なるほど、このPTの頭脳はトワイライトが担っている訳か。
「そうだ……今錠剤切らしてて丁度渡してなかったわ」
「……うっかりしていた」
「――――バカなの?」
「容赦ねえなぁ……」
珍しく率直な罵倒だ、仲間内だと案外感情的な所も見せてくるのか。
「――――2人ほど連絡のない魔女がいる、同案件で倒されたと私は見る」
「……魔女狩りか、予想以上に侵攻速いし、マジでやばくね」
「――――だから早急な対応を求められる、貴重な薬を全て砕かれては困る」
「あー……その、魔女化の錠剤ってやっぱり希少な物なのか?」
「――――……新入りには関係のない話」
彼女の言う通り新入りだからだろうか、ヴィーラたちに比べても当たりが強い気がする。
いや、入ったばかりのぺーぺーに希少な情報を流せないのは当たり前か。
「アタシがいつもドクターかローレルっていう黒いおばさんから一瓶分の錠剤を貰ってんの、それを小さな瓶に小分けしてみんなに配ってるわけ」
「最近は消費も多いから、仕入れも大変」
「――――べらべらと喋るのは利口じゃない、新入りが魔女狩りの犯人ならどうする?」
「あ、あはは……」
冷や汗が流れる、トワイライトの指摘は当たらずとも遠からずなので気が気でない。
しかし薬の仕入れルートが聞けたのは思わぬ収穫だ、やはりカギを握っているのはドクターとローレルの2人か。
「ばっか言うなし、それより対処? それは賛成だけどさ、どうすんの」
「――――囮作戦」
「駄目、相手の素性も見えてないのに危険っしょ。 全員昨日の今日で本調子じゃないはずだし」
昨日……というのは例の倉庫での事件か。
未だ実感もないが、記憶のない俺が与えた被害はかなり大きいようだ。
「―――――……パニオットの魔法で索敵、接敵、分析は行える」
「1つ、問題がある。 ストックの消費が補充できてない」
「ストック?」
「私の魔法は量産化、魔法少女パニオットという存在を複製できる。 ただし媒体に植物の種が必要、できればマツボックリが最適」
「なんでマツボックリ……?」
「私もわからない」
まあ、本人も分からないなら永遠の謎だ。
それに問題は分身の媒体ではなく魔女狩りだ、疑問は一度頭の隅に置く。
「ちなみに、普段は魔女ってどんな活動してんだ?」
「うーんと……ムカつくやつぶっ飛ばしたり、魔物ぶっ飛ばしたり、魔法局に喧嘩売ったり……」
「……恨みを買うような覚えは?」
「えーと、ひぃ、ふぅ、みぃ、たくさん……」
何かを思い出しながら指折り数えていたが、途中で面倒になったのか数が飛んだ。
わかった、怨恨の線じゃ容疑者は絞りきれそうにもない。
「相手が分からない以上はどうしても待ちの姿勢になっちまうな、早いうちにどうにかしないとどんどん被害が増えるぞ」
「―――――なんで新入りが仕切ってるの?」
「まあまあ、変身はしてないけど頭いい奴だよ箒は」
「卵焼きも作れる」
「――――……そう」
とうとうトワイライトも考える事を放棄してしまった。
だが確かに今のは少し迂闊だったか、気になる事は多いが出しゃばり過ぎても怪しまれる。
「とりま箒はまたうちに泊まりなよ、それかこのアジト使っていいから」
「俺はっつったって……ヴィーラたちはどうするんだ?」
「決まってるっしょ、全員で魔女狩りを返り討ちにしてやるし」
「3人揃えば何とやら、負ける気しないはず」
「―――――大丈夫なのだろうか」
「俺に聞かれても……何とも言えないなぁ」
――――――――…………
――――……
――…
《……で、どうする気ですかマスター? のんびり自宅待機する気はないでしょうし》
「そうさなぁ」
ヴィーラたちの作戦会議に時々口を挟みながら、時刻は既に20時だ。
魔女3人組はすでに作戦のため街中へと躍り出て行き、アジトに残ったのは俺一人。
つまり周りには誰もいない、安心してハクとの通信ができる。
「メールで連絡もきたが、ラピリス達も行動を始めている。 このまま2組がかち合う可能性は低いと思うか?」
《まったく、街中で出会ってしまったらそのままドンパチ始まるでしょうね》
「そうだよなぁ」
魔女狩りが先か、魔法局が先か。 どちらにエンカウントしても戦闘は避けられないだろう。
魔法局との遭遇はできれば避けたいリスクだ、今はまだその時ではない。
「まあ……俺たちも行くしかないな。 準備は良いか、ハク?」
《こちらも錠剤は少ないんですけどね、無駄足だったらもったいなくないですか?》
「これはお守りじゃないんだ、使える時に使わないとな」
懐から錠剤の入った小瓶を取り出し、一つを口に放り込む。
噛み砕いた途端、背中に鳥肌が立つほどの怖気が走る。 ロウゼキ監修の下でのテスト含め数回目の変身だが、この怖気は慣れない。
「うー……さっむ、なんでこんな冷えるんだろな」
《それについては分かりませんね、行くならさっさと行きましょう》
変身を終えた俺は、そのままヴィーラたちの姿を探すために街中へ飛び出した。