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零れた水は救えない ⑤

つららを突き刺したような悪寒は気のせいではない、自分に向けられた明確な敵意だ。

まあ、自分を倒した相手をのこのこ連れてやって来た奴を諸手で迎えてくれるほど無警戒ではない。


「ギャラちゃん、ちゃんと説明してほしいなー。 そいつはどういう事?」


「ヴぃ、ヴィーラ……もうやめよう! 私は間違っていたんだ、魔女の力を借りずとも解決できる方法はある。 だから……!」


「ふーん? なっるほどねー、ギャラちゃんはそっち側に着くって事ね、一体何吹きこまれたんだか」


「……ギャラクシオン、どうやら交渉は決裂みたいっすよ。 分かってはいたけど最初から聞く耳は無かったみたいっす」


見れば隣のそばかすも既に錠剤をかみ砕き、臨戦状態だ。

だが、無茶だ。 腹の傷も塞がり切っていない今、彼女に戦闘は出来ない。


「黙って出頭した方が身のためっすよ! 既に魔法局にはリーク済みっす、今なら罪も軽くなるしカツ丼もつけるっす!」


「はっ、バッカみたい。 今はクーちゃんが起こした騒ぎに夢中っしょ? こっちに人寄越す余裕があるわけないじゃん」


「……チッ」


こちらの虚勢もすでにお見通しだ、ヴィーラ……いや、ローレルの入れ知恵だろう。

あの得体のしれない女はとにかく頭が回る、()()()()()()()()()()()その予想が外れる事はない。


「でもまあウチもショックだわ、ギャラちゃんは仲間だと思ってたんだけどね。 ねえトワっち?」


「―――――回答が必要? だから初めからやめておくべきだった」


「っ……やはり居たか、トワイライト……!」


どこからともなく響くヴィーラの声にトワイライトの無感情な声が混ざる。

手負いのそばかすと私に対して相手はあの2人、まともにやりあって勝てる相手かどうか。


「残念だよ、ギャラちゃん。 なんて言われたかは知らないけどさ、きっと聞き飽きたような綺麗事に騙されちゃうなんてさ」


「ち、違う! 聞いてくれヴィーラ! 我は……私は!!」


「いいよもう―――――悪いけど、その杖砕くね」


「……! ギャラクシオン!!」


わずかな空気の揺らぎをいち早く察知して、そばかすが私の腕を引っ掴んでその場を跳ぶ。

次の瞬間、先ほどまで足場にしていたコンテナがまるで紙細工のように軽々とひしゃげて吹き飛び、夜の海へと落下していく。


「う、うわ……! す、すまん! 傷は大丈夫かそばかすよ!?」


「だぁーもう、おかげで開いちまったよ! あんにゃろうよくも花子を傷つけてくれやがったな!?」


「うわぁ急に入れ替わるな!?」


「うっせぇ、こちとらこういう魔法なんだよ!」


先ほどまで質素な灰色の衣装に包まれていたそばかすが、いつのまにか燃えるような赤い特攻服に衣替わっている。

確かこの状態だと「セキ」と言ったか。 突然入れ替わるとこちらも混乱する。


「へー、おしゃれな魔法じゃん? けど無理してんねぇ、その傷治ってないんでしょ」


「へっ、ちょうどいいハンデだろ? おい頭ギャラクシー、あいつの魔法はなんだ!?」


「ヴィ、ヴィーラの魔法は……」


「そんなの悠長に待ってやるかっての!!」


今度は私たちの身の丈ほどもあるコンクリ片が束になって飛んでくる。

普通ならこの程度、魔法少女なら食らわない、だが……



「舐めんじゃねえ! ぶった斬って……」


「ダメだ、あれはヴィーラが打ち出したものだ! 退け!」


雷を纏う剣を構えるセキを押し退け、急いで生成した黒球を瓦礫に向かって放つ。

黒球が持つ超重力に飲み込まれ、塵へと砕け散るコンクリ片。

それでも黒球の弾幕を抜けた小片が一つ、私の肩を打ち据えた。


「あぐっ!?」


メキリと嫌な音を立てて鈍い痛みが走る。

じんわりと赤いシミが滲みだすが、大丈夫だ。 折れてはいない、まだ戦える。


「おい、無事か!? どうなってんだあれ!」


「ヴィーラの……魔法は、“拒絶”の魔法。 あの鉄槌に触れたものは磁石のように吹っ飛んでくる……魔力を帯びた状態でな……!」


ヴィーラの鉄槌で叩いたものは魔法が掛かっている状態で飛んでくる、魔法少女が持つ物理攻撃耐性は役に立たない。

苦し紛れだ、と高をくくった魔法少女を粉砕する初見殺しの一撃だ。


「それに、我に気を掛けるな……来るぞ!!」


「分かってんじゃん、さっすがギャラちゃんッ!!」


私が片膝をついた隙を逃すわけもなく、闇に紛れる黒衣装をはためかせ、ヴィーラが空から降って来る。

真上からあの鉄槌を喰らえばぺしゃんこだ、迎撃――――


「……っ」


駄目だ、私の魔法ではヴィーラを殺してしまう!

鉄槌を止めるだけなんて器用な調整は出来ない、どうすれば……


「良いからまずはとっとと避けるんだ……よッ!!」


「ぬ、ぬわー!?」


思考が止まり、硬直していた私を蹴り飛ばし、セキが剣を構えてヴィーラのハンマーを真正面で受け止める。

だが武器の重量が段違いだ。 じわじわとヴィーラに押され、セキの足元がひび割れて沈んでいく。


「ヴぃ、ヴィーラ! もうやめろ、やめてくれ! 私達が争って何になる!?」


「不毛だよねぇ、だからさっさと終わらせようよ! ついでに邪魔な奴一匹潰してさァ!!」


「ん、にゃ、ろ……! 近づくなよ、ギャラクシー女!!」


「で、でも……!」


このままじゃヴィーラに押し潰されるだけだ。 だが私の魔法では助けに入ってもどちらかがただじゃ済まない。

駄目だ、これではただ私はただ足手まといになりに来ただけじゃないか。


「やめろ……やめて、ヴィーラ……我はお前を殺したくないし、()()()()()()()()()()()()()!!」


「……っ」


ほんの僅かだがヴィーラの力が緩んだ、その瞬間だった。



≪――――――BURNING STAKE!!≫


……赤い火の粉が、闇夜を舞った。

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