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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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269/639

祭りの場所はここか ④

「……そういえば、さっきの射的はどうやったんですか?」


「えっ? ああ、あれか」


別の射的屋を探す途中、ふとした疑問を投げかけるとブルームが「誤魔化す」という意味合いを含めた顔で笑う。

一件不可能にしか見えなかったぬいぐるみを倒したあの技、おそらく魔法絡みのイカサマだろうが何をしたのだろうか。


「……あれだよ、合宿で身に着けた新技。 あれをコルクにくっつけてパチンってな」


「新技……ああ、あの小技ですか」


海辺の合宿でブルームが戦略の幅を出すために身に着けた()()()()を思い出す。

なるほど、あれなら非変身状態の少ない魔力でも使えたのは納得だ。 体から離れた状態で起爆できるのは少し予想外だったが。


「しかし一瞬だったとはいえ魔法を使うのは感心しませんね、魔法少女とバレるリスクはあったわけですよ」


「あはは、その時はその時で何とかしてたって。 それにずるがしこい真似してなきゃこっちも魔法なんて使わないよ」


「当たり前です。 それでもあなたは色々と自覚が足りません、歩き方ひとつとってももっと淑女としての嗜みが……」


「やめてくれその手の話は聞きたくない……あっ、ほら、あれ射的屋じゃないか! 俺ちょっと行ってくる!」


「あっ、コラ! まだ話は終わってませんよ!」


私の話から逃れる様にわざとらしくブルームが駆けだす。

浴衣をバサバサとはためかせて走る姿には優雅は微塵も無い、まったく忙しないやつだ。


「アハハ、振られちゃったネ、サムライガール」


「振られてません! まったく……!」


「葵ちゃん……素直じゃない……」


「しーおーりーさーんー?」


「ご、ごめんなさーい……!」



――――――――…………

――――……

――…



「いやはや、魔法少女達は楽しそうだねー」


通信機越しに聞こえてくる楽しげな声を肴に啜る紅茶は不味い。

茶葉は自費でそれなりにお高いものを用意したはずだが、環境と気分の問題だ。

こんな閉塞した車の中、じゃんけんの敗北感が募る気持ちで飲めば何だって美味くはならないだろう。


「局長、しっかりやってくださいよ。 縁さんは現場に出張ってんですから」


「はいはい、まったく人手不足だからってなんで私がこんなことを……えーっと、これかな」


部下にせっつかれ、モニタと共に並んだ操作盤をイジリ、チャンネルを合わせるダイヤルを捻る。

そして魔法少女達が持つ通信機との接続を確認し、一つ咳払い。


「あーあー、聞こえているかね? あと30分ほどで時間なのでこちらに戻ってきてくれ、返事はしなくて結構。 それでは」


最低限のメッセージだけ伝えて、再度通信を切る。 

万が一第三者にこちらの通話を盗み聞かれていたり、反応を悟られたりすると不味いので通信は最低限だ。


「ふむ、こんな感じでよかったかね?」


「バッチリっす、局長素質ありますよ。 デスクでふんぞり返ってるだけの人じゃなかったんですね」


「電盤の操作一発で覚えるあたりは流石インテリっすね、あとはスペースを圧迫するその脂肪だけ何とかしてくれません?」


「君ら軽くない? 私局長だよ? 上司だよ?」


「自分ら上司は縁さんだと思ってるんで」


「いつも指揮取ってるのあの人ですし」


「そういうもんかね、うぅむ……縁くんももっと私に仕事振ってくれないかな」


仕事量で言えば、私より縁くんの方がずっと上司らしい振る舞いをしてきた。

部下からの扱いがぞんざいというか軽くなるのも仕方ない、せめて今くらいは印象回復に努めよう。

温くなった紅茶を飲み干し、少しでも役に立とうと通信機のマニュアルをめくった。



――――――――…………

――――……

――…



「……詩織さん、コルト。 今のは」


「ン、バッチリだヨ」


「私も……」


局長からの通信は問題無く2人にも伝わったようだ。

遠くにいるブルームも視線だけで返事をする、全員連絡は受け取ったか。


「あー、時間が立つのは早かったわね。 もうおしまいか」


「お疲れ様です。 まだ時間はあるので少しでも楽しみましょう」


「そうね、よーしそれじゃ次は金魚すくい! 後はおみくじも引きたいわ! それとそれと……」


指折り数えて名残惜しそうに屋台を見渡す彼女はまるで私たちと同じ子供のようだ。

残り時間を考えると全てを回る余裕はない、候補の中から優先順位をつけて縁さんの中で苦渋の選定作業が始まる。


「どっちが子供かわからないな、これじゃ」


「おや、ブルーム。 お早いお帰りですね、戦果はどうです?」


「なんとかな、ズルはしてねえよ。 ほら」


ブルームが突き出してきたのはシルクハットと蝶ネクタイを巻いたウサギのぬいぐるみだ。

流石に正攻法で手に入れただけあってサイズは小さいが、決して安い作りではない。


「詩織ちゃんにはこっちな、猫は好きか?」


「わぁ……盟友、ありがとう……!」


私に渡されたぬいぐるみとは別に、詩織さんにもモノクルをつけた猫のぬいぐるみが手渡される。

受け取った詩織さんも満面の笑みだ、そして1人だけ手持ち無沙汰な縁さんも満面の笑みで両手を広げていた。


「…………ごめん、2つしか取れなかった」


「……!!」


「なんで予想外みたいな顔してるんだヨ」


「大人げない……」


「わ、私も箒ちゃんから友好の証を貰えると思ったのに……!」


「なんか、ごめんな?」


羨ましそうな視線を向ける縁さんから隠すように、ぬいぐるみを後ろ手に隠す。

駄目だ。 これは私が貰ったから、あげない。


「へっへーん、私の方が大きいヨ!」


「ふん、分かってませんねコルト。 大きさよりも作り込みですよ、このサイズで服まで綺麗に着せられたこのウサまろに比べればあなたのクマなどただのすっぽんぽんですよ」


「はぁーん!? そういうならそっちだってズボンも履いてないそっちのほうが変態度高いんじゃないカナ!?」


「はぁー!? それを言いますか! 戦争です、戦争ですよこうなれば!!」


「やったろうじゃないカナ、向こうの屋台の輪投げで勝負だヨ!」


「おい、二人ともそこら辺に……」


「「箒は黙っててください(ヨ)!!」」


「…………はい」


委縮してしまっている3人を置き、コルトが指定した屋台目掛けて一直線に走る。

そうして私達は30分という残り時間をすっかり忘れ、コルトとの勝負の殆どの時間を消費してしまったのだった。

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