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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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祭りの場所はここか ②

「ほらほら、皆遅いヨ」


「もう、あまりはしゃいじゃダメよコルトちゃん。 迷子になっても知らないからね」


「同じぐらいはしゃいでいた人のセリフとは思えないな」


「ノーコメントで」


早足で駆ける縁さんの後についていくと、立ち並ぶ出店に目移りしているコルトとはすぐに合流できた。

その手には既に出来立てのたこ焼きが握られている。 隣を歩くブルームも呆れた様子だ。

しかし縁さんもコルトを嗜める気配はない、この2人を引っ張って歩かなければいけないのだろうか。


「どっちが保護者か……わからないね……」


「詩織さん、結構言いますね」


彼女がここまではっきりものをいうとは相当だ。

この2人の手綱、私がしっかりと握らねば大変なことになるかもしれない。


「見てこれ、すごいヨ。 チョコたこ焼きだってサ、タコの代わりにチョコ入ってるんだヨ」


「どうりで持ってるものの割にはなんか甘い匂いすると思ったら。 甘いのか?」


「一回食べてみればわかるヨ、ほらほらサムライガールも!」


「いえ、私は……あっふ! あっふい!?」


断ろうと開いた口の中に突っ込まれたたこ焼きを反射で咀嚼すると、中からはトロトロのチョコが溢れ出して口内を蹂躙する。

カリカリの香ばしい生地にチョコの甘さは確かに目新しさはあるが、ダメだこれは。 出来立て熱々は凶器だ。


「ひゃにするんですかバカコルトぉ!!」


「にゃはは、こういう時は仏頂面より楽しむもんだヨ。 お味はいかがカナ?」


「まあ悪くはないですがお兄さんの料理の方がおいしいですね!」


「い、いやぁそこまでじゃないと思うぞ……」


「は? あなたに何が分かるんですか、ひっぱたきますよ」


「理不尽」


確かに熱ささえ過ぎてしまえば味わいは面白いが、見た目の意外性から来るところが大きいだろう。

一口二口は楽しいが、お菓子はお菓子で、タコ焼きはタコ焼きで楽しみたい。


「はいはい、喧嘩しない。 コルトちゃんもあまり一人で駆けだしちゃ駄目よ? 何が起きるか分からないんだから」


「はいはーい、ユカリも一つどうぞだヨ」


「ん、美味しい。 さーてそれじゃ次はどこ回ろうかしら!」


「時間は有限だからネ、向こうに輪投げあるヨ! 射的におみくじも!」


「全部回りましょう!!」


「ええいもう、誰が収集付けるんですかこれ!!」


「あ、葵ちゃん落ち着いてぇ……」



――――――――…………

――――……

――…


「ほい、アオ……葵。 ラムネ、良く冷えてるぞ」


「ありがとうございます……」


ブルームから差し出されたラムネを受け取る。

夏の暑さに火照った体へ結露が滴るラムネ瓶の冷たさが染みる、昨日も飲んだがやはりいいものだ。


「水分補給と休息はしっかりとな、特に今日は連れ回されるだろうし」


「そこの三人、休んでないで次行くヨ次!」


「待てコルト、飛ばしすぎだ。 そのペースじゃ最後まで持たないぞ」


「むぅ、一理あるネ……しょうがない、自分もちょっと休憩だヨ」


一度上がりきったテンションを宥め、私が座るベンチの隣にコルトが腰掛ける。

その額にはしっとりと汗が浮かんでいた、本人も気付いていないようだがあのままのペースでは先に暑さにやられて倒れていたかもしれない。


「今のうちに次どこ回るか考えときな、食べ物系はしばらくいいだろ?」


「そうですね、最初のたこ焼きにりんご飴、綿飴、ベビーカステラときましたから……」


「……体重が、心配」


「ふふふ詩織ちゃん細かいことを気にしちゃダメようふふふふふ」


詩織さんの呟きを笑顔のまま制止する縁さん。

普段体を動かす私たちと違い、デスクワークの多い縁さんは本日の摂取カロリーから目を背けなければお祭りを楽しめないのだろう。

この後に必要な運動量はかなり過酷なものになるのだから。


「ゴミはこの袋に集めろよ、間違ってもその辺に捨てないように。 コルト、口にカステラのカケラついてるぞ」


「……盟友、なんだかお姉さんみたい」


「おねっ……」


「そうね、葵ちゃん達と年齢は離れてないのに大人びて見えちゃう」


「良いですね。 箒お姉さん、ビン捨てといてください」


「姉じゃねえ! カン・ビンのゴミ箱は向こうだよ、自分で捨ててこい!」


いけないいけない、ついつい彼女の硬直する表情が面白くてからかってしまった。

お兄さんに知られれば怒られるところだ、大人しく飲み干したビンは自分で捨ててこよう。


「……ン?」


「どうしましたコルト、また珍妙な出店でも見つけました?」


「違うヨ、ほらアレ」


コルトが指を差した先、ちょっとした人ごみの隙間から覗く姿に見覚えがある。

高そうなカメラやマイクを持った大人たちに囲まれ、それでもなお毅然とした受け答えで振る舞う輝鏡さんの姿だ。


「輝鏡さ……」


「待て、葵。 俺たちが今話しかけても分からないだろ」


「なぜです……あっ」


そうだ、昨日顔を合わせたのは変身した状態。 変身前の私達たちと輝鏡さんは面識がない。

仮に今話しかけたとしても、魔法少女が纏う認識阻害の力により、彼女に余計な混乱を招いてしまうだけだ。


「そだネ、どうせまた後で顔合わせる事になるヨ。 忙しそうだし今は邪魔しないようにしなきゃネ」


「……縁さん、彼女についてどう思います?」


「曖昧な質問ね、葵ちゃん。 うーん、遠目で見た限りじゃよく分からないけど……あの年の子にしては感情を隠すのが上手いわね、インタビューもしっかり答えているように見えるけど内心ストレスが溜まっているんじゃないかしら?」


「……葵、何考えてるかはわかるけど一人で暴走するなよ?」


「言われずとも分かってますよ。 ありがとうございます縁さん、変な事を聞いてごめんなさい」


「いえいえ、どういたしまして」


今は何を聞いたところで彼女も答えてはくれないだろう。

焦ってはいけない、まず集中すべきは目の前のお祭りを無事に終わらせることだ。


「……さ、そろそろ休憩もこのくらいにしてもう一度出店回りましょう! 向こうにねレモン塩焼きそばなんてものが売っているらしいわ、これは食べなきゃ損でしょ!」


「ほうほう、そりゃいいもの見つけたネ! 売り切れる前に行くヨ!」


「まだ食う気か……太るぞ?」


「「お祭りは0カロリー!!」」


「無茶苦茶じゃ、ないかなぁ……?」


コルトたちの後を追い、空の瓶をゴミ箱に捨てて席を立つ。

……ふと振り返る。 既に人ごみで視界は断たれ、輝鏡さんの姿は見えなくなっていた。

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