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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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茹だるような暑い日の話 ③

「ふぃー、外はヤバいぞ。 今年最高の猛暑だってな」


「うへぇ、そりゃ大変だネ。 ご苦労様ー」


額に汗を浮かべ、両手に抱えたビニール袋を降ろしたおにーさんがぱたぱたと服を仰ぐ。

窓から見える外の日射は先程よりさらに増している、見える景色だけでもこれはしばらく外を出歩くのも躊躇する惨状だ。


「お疲れ様ですお兄さん、水分はしっかりとってください。 買い物は運んでおきますよ」


「いや、自分で運ぶよ。 それより2人は遅めの朝食かー? コルトはともかく詩織ちゃんも」


「お、お邪魔してます……」


「ちょっと、ともかくってなにカナともかくって」


「ははは悪い悪い、一品だけじゃ栄養偏るだろ。 サラダとデザートもつけるよ、今日はプリンだ」


「うーむ、それに免じて許すヨ!」


シチューランチにサラダとプリンまで付属するとなれば許すほかない。

調理場に入ったおにーさんの動きは機敏だ、冷蔵庫を開けてからの動きにも迷いがない。

ここまで閑古鳥が鳴いている店でも、一切手を抜かない姿勢は見習いたいものだ。


「今日はどうせお客さんも来ないしな、ついでに余った食材の処理に付き合ってくれよ」


「その代わり美味しくしてネー、カロリーも安いという事なしだヨ」


「ははは、喰った分は動け」


「い、良いんですか……?」


「ああ、構わないよ。 どうせ今日はみんな祭りの方に行くだろうしな」


「ン? お祭り?」


飲み干した麦茶のグラスをテーブルに置き、お兄さんの方に視線を直す。

お祭り、なんだか聞き捨てならない言葉が聞こえて来た気がした。 そんな楽しいイベントをこの私が知らなかったとは。


「ああ、東京復興記念だとかで夏祭りやるんだってさ、まあ本当は皆都合付けて盛り上がりたいだけだと思うよ。 このところ暗いニュースばっかりだったからなぁ」


「まあ、そうですね……殆どは魔女関連のものですが」


味方だと思ってた魔法少女が牙を剥いた、なんてニュースは魔物が現れたなんて事件よりよっぽどキャッチャーだ。

おまけに魔法局まで襲撃された今、世間にはどんよりとした空気が流れている。


「だからこの悪い空気を誤魔化そうってわけだネ、おにーさんは何か出店出さないのカナ?」


「出さないよ、客が逃げる。 それにもう出店舗は決まってら、今から割り込めるかよ」


「うふふ、店員さんは無欲やなぁ」


「そんなんじゃないよ、ただ人前に出せない面ってだけだ」


「ま、私たちは慣れちゃってるけどネ」


火傷に覆われた程度の強面じゃ今更魔法少女は怖がない。

得手不得手もあるだろうが、それでも魔物たちの戦いで皆肝が鍛えられているのだから。


「みんながみんな魔法少女じゃあるないし、ほら出来たぞー」


「わっはぁ! 待ってました、ありがたくいただくヨ!」


「い、いただきます……」


ランチプレートに盛られたセットがカウンターに置かれ、空腹を刺激する匂いが鼻腔に直撃した。

添えられたパンを一切れ千切ってシチューに浸し、口に放り込む。

……うん、こんな暑い日でも温かい食事というのはやっぱり魅力的だ。


「うーむ……また腕を上げたネ、褒めて遣わすヨ」


「光栄ですねお姫様、詩織ちゃんもどうだ? 口に合うかな」


「お、おいひいです……!」


横の席では、ビブリオガールが幸せそうにシチューを頬張っている。

空腹度で言えば私より酷いはずだ、そのがっつきっぷりはいつもの文学少女らしさも無く、子供らしく目を輝かせている。


「でもサ、お祭りがあるならおにーさん達は行かないの? 浴衣とか着ちゃってさ」


「浴衣……!」


分かり易くサムライガールの肩が震える。

おにーさんの浴衣姿、背格好の整った彼ならきっと浴衣も様になる。 サムライガールのような好きものにとっては余計にだ。


「おいおい、行かねえよ俺は。 皆が楽しんでるところに水差したくねえよ」


「あら残念、一緒に回ったら楽しそうやと思ったんやけど」


「そもそもロウゼキさんは早く帰った方が良いのでは……いや、まあ、楽しそうなのは同意ですよ? 少なくとも私は泣いて喜びます、幾ら払えばいいですか? 億?」


「葵ちゃんが言うと……冗談に聞こえない……」


「いや、あれは10割本気だネ」


目もギラギラしてるし、まるで変身した時のように全身から気迫が迸っている。

サムライガールならお兄さんが関わると何でもやりかねない危険がある。


「だから俺はいかないって、そもそも全員仕事があるだろ」


「仕事って……ああ」


その時、全員の携帯がそれぞれの着メロを鳴らして震える。

各々が反射的に携帯の画面を開くが、映っているのは全員同じ名前だろう。


「魔法局から、ですね」


「うん……」


「だネ、まあ祭りなんてやるなら警備が必要だよネー」


残りのランチを掻き込み、お代を置いて素早く席を立つ。

恐らくミーティングのおさそいだ、最近は魔法少女が湧いて出るし魔物の脅威だって去っていない。

大きなイベントを開くなら警戒も必須だろう。


「先に行っておくヨ、ごちそうさまー」


「おいコルト、代金多いって! そもそも金はいらない……」


「良いって良いって、取っておきなヨ! それに……」


灼熱の外世界へ繋がる扉を潜る瞬間、お兄さんの方を一瞥してぼそりと呟く。


「……()()()()()()()()()、浴衣用意しといてヨ、必要だよネ?」


「…………お、お前まさか」


「ニャハハ! バイバーイ!」


ドアベルを盛大に鳴らし、逃げるように外へ体を踊り出す。

お祭りか、こんなイベントおにーさんとしてはともかくブルームスターとしては放っておけないはずだ。

だからきっと、いやいや言ってもおにーさんはやって来る。 さて、どっちの姿で来るのか楽しみだ。

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