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マジックタイム・ショータイム ①

等間隔で設置されたライトに照らされた通路を歩く。

清潔感があると言えば聞こえはいいが飾り気のない道のりだ、数少ない飾りがわりの監視カメラから刺さる視線が痛い。

警視庁魔法少女局東北本部、それなりの付き合いにはなるがやはりこの通路にはなれない。 子供の歩幅には長すぎる。

やがて代わり映えもしない景色に歩き飽きた頃、ようやく目的の扉が見えた。

バリケードテープが無造作に張り付けられ、わざわざその上から「立ち入り禁止」の看板を掛ける入念さには辟易する。 しかし中の彼女をどうにか引っ張り出さなければならないのだ。


コンコココンと四回ノック、多すぎても少なすぎてもいけない。

彼女の部屋を訪ねる際、ノックの回数とリズムは用件を伝える暗号になっているのだから。

暫く待つと2回ノックが帰ってきた後、扉の向こうからガサゴソと物音が聞こえてくる。


「……「緊急」の案件か、何かなラピリス」


「お久しぶりですね、ドクター。 良く私だと分かりますね」


「ノック位置からして相手は子供だ、金髪の狂犬サマは優雅なノックを好まない。 几帳面に4回ノックする子供は君ぐらいだよ、そしてカマをかけてみたら当たってね」


「そうですか、まんまと引っ掛かりました。 要件ですがあなたに解析をお願いしたいものがあります」


「…………銃弾か」


アルミ製のケースから取り出したのは扉向こうの彼女が言う通り、氷漬けになった銃弾だ。

先日の戦闘でブルームスターが回収し、ゴルドロスを経由してこの魔法局に届けられたもの、決して解けない氷に阻まれた深紅の銃弾。


「魔法……いや()()か? 驚いた、いつの間に魔術は64ビット程度の技術から飛躍したんだい?」


「この銃弾を氷漬けにした魔法少女がずば抜けた変人というだけですよ、この中から銃弾を取り出せませんか?」


「…………無理だね、それはボクでも摘出できない」


僅かな黙考ののち、残念ながら想定内の答えが返ってきた。

そうか、やはり無理か。


「氷は当人に頼むしかないね、砕くのも難しそうだ」


「それが嫌だからドクターに頼んでいるんです……!!」


「そ、そうかい……」


仕方ない、ドクターでも無理だというのなら万策尽きた。

……本当に嫌だが彼女を探すほかないのか、諦めて踵を返す。


「……そうそう、君の()()()()もそろそろ用意できるから楽しみに待っていてくれ」


「分かりました。 ありがとうございます、ドクター」


……ただ、そういう大事な話は扉を開けて話してほしいのだけども。



――――――――…………

――――……

――…



《……どー言うことですかマスター! 東京が滅びたって!?》


「何さ今更、そんな事赤子だって知ってるぞ」


殺風景な自室で鼻息荒くハクが叫ぶ、こいつの頭は何年前で止まっているんだ。


「世界に魔力があふれた災厄の日、その爆心地が東京だったんだよ。 そこから放射状に被害が広まった、当初の魔法少女たちの活躍が無ければ今頃日本は更地だったかもな」


《かもなって……》


今となっては東京から半径30㎞の範囲は厳戒立ち入り禁止区域に指定されている、その程度のことは文字を覚えた年齢にでもなれば嫌でも知るようなことだ。

確かに常識になり過ぎてわざわざニュースや記事にも取り上げられないような事だが……


「逆にだ、ハク。 お前はなんでそんなことも知らないんだ?」


《わ、分からないです……なんで私は、あれ……?》


「……電脳世界ならネットの情報読み放題じゃないのか? どこかでチラッと目についたりとか」


《……てました》


うん、なんだって? 小声でよく聞き取れなかった


《……ずっと籠って動画見てましたぁー! 悪いですかコンチキショー!!》


「人のスマホで何してんだお前!」


ブラウザの履歴を開くと確かに動画の再生記録が残っている。

しかも有料会員制のファンクラブに入会しないと再生できない奴じゃないか。


《い、いやーそこはちょっと月500円くらいですしマスターの口座からちょいちょいと……》


「……まあ他所様の金に手付けてないならまだ良い、ただ次から一言声掛けろよ」


ハクが居なければ変身も出来ないんだ、労いが月500円で済むなら安いもの。

これで他人から金をちょろまかしていたらスマホから叩き出していたところだが。


《え、えへへ……そうだ、マスターも一緒にどうですか? 特撮は良いですよー、どっぷり沼に嵌ってこちらの大人価格なグッズとか思い切って買っtあ゛た゛ま゛グリ゛グリ゛し゛な゛い゛でぇ!!》


「ははは、調子に乗るな」


おしおきのぐりぐりスクリューをお見舞いしてやる、するとふと部屋の扉がノックされた。


「……お兄さん、今ちょっと良いですか? 何だか年齢は私より上で性格は明るく親しい相手によく冗談を飛ばし鬱陶しいと感じるがその近い距離間に思わず恋愛感情を誤認してしまいそうな類の女性の声が聞こえてきましたがお手すきでしょうか」


《マスター! あの子怖い!》


「ちょっと静かにしてろハク……ああ、今ちょっと電話してたんだ。 入って来いよ、アオ」


声を掛けるとおずおずとした様子でアオが扉を開ける。

その様子に反比例して背中に走る悪寒は一体なんだろう、風邪でも引いたかな?


「どうしたアオ、今日は魔法少女の仕事で出かけるって話じゃなかったか?」


「ええ……その件で一つ、お兄さんに頼みごとが」


「頼みごと……?」



――――――――…………

――――……

――…



「……対話ができない魔法少女?」


「ええ、何というかその……彼女の発する言語は、私には理解できなくて……」


街の商店街をはぐれないように手を繋ぎ、2人して歩く。

人の賑わう通りにはニワトリ事件の痕跡はどこにもない、あの戦闘で壊した消火栓もすっかり直されていた。


「言語が通じない、ってことは外国出身の魔法少女か? それなら警察に対応する人材がいるんじゃないのか」


「いいえ、日本語なんですけど日本語じゃないんです……ただ彼女に会って銃弾の氷を融かしてもらわなければ」


「……???」


ますますわからない、言葉の訛りがきつい子なんだろうか?


「あらぁん、ひー君! やだ、こんな所で会うなんて運命感じちゃう!」


「うげっ、男島のおっさん」


アオと手を繋いで歩いていると向こうから人ごみを掻き分けて見慣れた筋肉が歩いてくる。

今日はいつもの警官姿ではなくラフな格好だ、その左手はこちらと同じく見知らぬ童女と手を繋いでいた。


「もしもし警察ですか」


「ひどぉい!?」


しまった、あまりにヤベーいマッチングで無意識に通報を。


「お兄さん、こちらは?」


「ああ、何故か顔見知りになってしまったオカマのおっさんだよ。 最近ロリ趣味にも目覚めたらしい」


「違うわよぅん、この子は私の姪っ子! ほら、ご挨拶して」


「こんにち……は、です、白銀宮 詩織(しらがねみや しおり)……と、言います……その、おじさんがお世話になっています……」


長く伸びた黒髪で目を隠した少女が頭を下げる、セーターカーディガンを羽織り、両手に抱えているのはこの近くにある本屋の紙袋だろうか。

驚いた。 少し緊張しているようだがそれでもこの火傷顔に怯えている訳じゃない、返答はしっかりとしているし髪の隙間から覗く瞳がこちらを真っ直ぐに見据えている。


「ああ、俺は七篠 陽彩。 こちらが鳴神 葵、よろしくな詩織ちゃん」


「むっ……宜しくお願い致します」


やや仏頂面になったアオがぺこりと頭を下げる、はてどこかに機嫌を損ねるようなところがあっただろうか。


「それに通報されるのはひー君じゃない? 組み合わせが犯罪的よ、手なんか繋いじゃって」


「いや、何度か振りほどこうと試みてるんだけどいつの間にか絡めとられる」


「えぇ……」


本当だぞ、一瞬でも意識を逸らすといつの間にかより強固に指が絡めとられているんだ。

不思議な事もあるもんだなあ、ははは。


「あ、あの……七篠、さん……その、火傷は……」


「ん? ああこれか、怖がらせちゃった? ごめんね」


「そんなこと、ないです……格好いいです……!」


「そ、そうかい?」


目を輝かせて憧れの眼差しを飛ばしている所を見るに世辞や冗談でもなさそうだ。

こんなものに憧れると碌な大人になれないぞ。 それに……


「……むぅ」


横でアオが面白くなさそうな顔をしている、握る掌にも知らず力が籠っているようだ。

何故だか殺気じみたものも感じるがきっと気のせいだろう。


「アオ、ちょっとそこの自販機で飲み物でも買うか。 何飲む?」


「……それならホットココアを所望します」


機嫌が悪くなったときは物で懐柔だ、甘いものでも飲めばきっと気持ちも落ち着くだろう。

財布から小銭を何枚か取り出す、丁度人数分はあるか。


「アオはココアと、詩織ちゃんは何が良い?」


「わ、私……? そ、そそそんな……!」


「遠慮するなって、金ってのはこういう時に使うんだよ」


「きゃー! ひー君ったら太っ腹!」


「いや、あんたは自分で買えよ」


「ひどぉい!!」


喚くおっさんを無視して俺は小銭片手に自販機へと向かった。

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