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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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茹だるような暑い日の話 ①

「ヘーイ局長、いろいろ話聞かせてもらっていいカナ?」


「ど、どうしたんだいゴルドロスクン……」


次の日の朝、少し疲労の色が見える局長の前に顔を出すと、ふくよかな髭面は気まずそうに視線を外す。

この様子だと同じような件で既に絞られたあとか。


「ギャラクシオンの件、聞いたヨ。 随分と無茶したネ、どう言う風の吹き回しカナ?」


テーブルの上に土産の茶菓子を置く。

いくら局長という立場でも、独断でギャラクシオンの身柄を移送するなんて強権もいい所だ。

しかも移送先は頑なに掲示しない、これでもしギャラクシオンの身に何かが起きれば局長は間違いなく多大な責任を背負うことになる。


「う、うむ……今回の事件はその、私も思うところがあってね」


「ふーん、ソッカ。 局長らしくないネ、何考えてるのカナ」


「な、なにもぉ?」


この東北支部ではビブリオガールに次いで歴が短いが、それでも十分なほどこの局長は分かり易い性格だ。

基本的に憶病で、悪い人間ではないが騙されやすい。

お飾りとして飾り付けるならピッタリの人材と言えばまあ間違いはない。


「ほら、土産の大福だヨ。 これで何か話す気にはなるカナ?」


「ふん、そんなコンビニスイーツじゃ私のお腹は揺さぶれないのだよね! ……あっ、でも新発売? ふ、ふーん?」


そして大の甘党、渋いお茶と一緒に振る舞えば大抵口も緩むのだが、今日は少し頑固だ。


「粘るネェ……ま、それなら無理に理由は聞かないヨ。 藪を突っつく趣味は無いからネ」


「う、うむ……すまないなゴルドロス君」


ビニール袋から取り出した大福を1つ、包装を剥がして口に放り込む。

タピオカ大福と言う奇天烈さについ買ってしまったが、封を開けてみればミルクティーの味がするだけの大福だ。

タピオカの売りであるもちもち食感も大福の皮と混ざってよく分からない、これはすぐに消えそうだ。


「……でも局長、こんな状況だから独断は危ないヨ。 誰も彼も皆ピリピリしてるしサ」


「分かっているとも、私の立場が揺らぐ強権を振るっていることも。 ……皆は私の行動に不信感を懐いているだろう」


今、私たちがいる作戦室はほぼ無傷だが、ギャラクシオンによって魔法局が受けたダメージは大きい。

過去に見ない直接的な攻撃は、職員たちの目に疲労と猜疑心を募らせている。


 ……もしかしたら、この中に魔女と繋がるものがいるのではないか? と


「まるで魔女狩りだネ、誰が吊られるか分かったもんじゃないヨ」


「ああ、ギャラクシオンクンの襲撃は明らかにアンサークンたちや……この魔法局の構造を熟知した迷いのないものだった、まるで内部に協力者がいるかのようにね」


「……局長はサ、いると思う? スパイ」


「いないと信じたい、だが……現実はそうはいかないのだろう」


局長が渋い顔で茶を啜る。

何か思い詰めているのか、眉間に寄ったシワはひどく似合わない。


「……ま、事件解決は私たちに任せてヨ。 局長は黙って後ろでふんぞり返ってくれればいいからサ!」


「それはそれで私が悪い大人みたいじゃないかね……いや、まあ、そうだと言われれば仕方ないのだがね?」


「だいじょーぶだヨ、クビになっても働き先紹介するからサ」


「私の首を前提にしないでもらいたい……」


「んふふ、元気だしなってバー」


しょぼくれた局長の分として残った大福を数個テーブルに置き、席を立つ。

それでも残った分はお見舞いの土産にしよう、甘いものが嫌いな人間なんていない。


「じゃ、私はそろそろ行くヨ。 局長も後ろから刺されないように気をつけてネー」


「縁起でもないこと言わないでくれるかね!?」


最後にちょっとだけおちょくって、半開きで固定された自動扉からするりと抜け出した。

電気設備も一部断線が起きているからしょうがないが、これでエアコンも動かない部屋で働く人たちには同情する。


「……そうだね、誰も疑う事なく終わればいいのだがね」


間抜けに開いた扉の向こうから、何かを呟く局長の声が聞こえてきた気がした。



――――――――…………

――――……

――…


「Hello、ビブリオガール。 元気してる-?」


「コルトちゃんは……朝から元気だね……」


魔法局からの帰り道、立ち寄ったビブリオガールの家のチャイムを鳴らすと、目をシパシパされた当人が出てくる。

時刻は朝の9時、休日とはいえねぼすけ眼を擦るには少し遅い時間だが。


「昨日ね……人気推理小説の……新刊がね……」


「駄目だヨー、夜更かしはお肌の天敵なんだからサ」


「うぅん……クライマックスが待てなくて……それで、どうしたの……?」


「いやー、これからハナコガールのお見舞いに行こうと思ってネ、一緒にどう?」


手土産のビニール袋(in大福)を見せ、ビブリオガールを誘う。

この様子だと本も読み終えて暇している様子だが……


「うん、分かった……着替えるから、待ってて……中でお茶飲む?」


「あーい、それじゃお言葉に甘えるカナ。 おじゃましまーす!」


ふらふらとした足取りのビブリオガールの後に続き、家の中へと入る。

玄関に一歩踏み込むと、香り立つイグサの香りが私を出迎えてくれた。

少し年季の入った家だが、この如何にも和風な感じは嫌いじゃない。 ジャパニーズTATAMIも私は好きだ。


「そっちの部屋で待っててね、今麦茶持って来るから……あっふぅ」


一つ大きなあくびを残し、ビブリオガールがキッチンのある部屋に消える。

続いてバコッと冷蔵庫の開ける音と、グラスを探すカチャカチャという硬質な音が聞こえて来た。


「ふぃー、生き返るネ。 っと、サムライガールはどうかなー……」


エアコンの効いた部屋で一息つき、ふとSNSを開く。

魔法少女用グループライン、緊急連絡用に交換したがもっぱら日常トークに使われている存在だ。

ちなみに発言率の8割は私だ、皆もっと喋ってほしい。


「……うん?」


ついついと会話の履歴を眺めていると、最新のメッセージに目が留まる。

おにーさんの手料理を自慢するかのような写真と、一緒に写っているのは……


「おまたせー……? コルトちゃん、どうかしたの?」


「…………いやー、世の中どこも大変なんだなって思ってネ」


カメラマンの腕がいいのか、かなり飲んだくれてめんどくさい様子が見て取れるロウゼキの写真だった。

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