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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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アウトレイジな奴ら ④

「ぎゃ、ぎゃらくしぃ~……」


「ふぅ……エクセレント・スマッシュ……」


「あ、後から言うんだ……」


目を回したギャラクシオンが全身から黒い煙を噴き上げ、あおむけにゆっくりと倒れる。

同時に私の体を覆っていた重圧も解ける、術者が完全に気を失った証拠だろう。


「ちぃと雑やったなぁ、力は恐ろしかったが振り回され過ぎや。 もう少し使い方を熟知しとったら結果は変わっとったかもなっと……これは貰っていくで」


そういうと彼女は倒れたギャラクシアンの懐をまさぐり、錠剤が詰まった小さな小瓶を取り出す。

私と同じ変身用の錠剤だ、あれを奪われてしまえば私達インスタントはただの女の子同然だ。

他に小瓶を隠し持っていないことを確認すると、花子ちゃんの衣装が急激に色あせ、シンプルな白いワンピースへと変わってしまう。


「……ふぅ、お疲れ様っす4人とも。 紫陽さんも大丈夫っすか?」


「う、うん……ありがとぉ」


花子ちゃんが差し伸ばしてくれた手を取り、よろよろと立ち上がる。

同じインスタントでありながら何たる無様だろう、それに比べて彼女の戦いぶりはすさまじかった。

ギャラクシオンだって決して弱い相手ではない、あの重力波を喰らえば一撃でお終いだ。 けど彼女はそんなリスクもものともせずに肉薄し、勝利した。


「無事で何よりっす。 ……けどなんで魔法局にいるんすか?」


「色々と深い事情があってね……そんな事より今はこっちよこっち!」


傍に落ちたメガホンを拾い上げ、横たわったギャラクシオンの体を起こす。


「問題:あなたの目的は?」


「ぎゃらくしぃ〜」


「あー、ダメっすね。 完全に伸びきってるっす」


流石に気絶した相手からは話も聞き出せない、この調子だと目を覚ますにもまだまだ時間がかかるだろう。

改めて周りの惨状を見渡し、緊張の糸が途切れるとつい腰の力が抜けてしまう。

せっかく手を差し伸べられたというのに、もつれる脚は言う事を聞かずに尻餅をついてしまった。


「ととと、大丈夫っすか!」


「へ、平気平気……ちょっと気が抜けただけだから」


口では平気と言うが、足の震えは一向に収まってはくれない。

ついさっきまで私は命の危機に立っていた、それも魔物が相手でもなく人間相手にだ。

魔法少女になってウカれていた分、麻痺していた恐怖が今になってぶり返してきた。


「あ、あはは……本職の魔法少女は皆、ずっとこんな思いしながら戦っていたのね……」


「そりゃそうっすよ、ヒーローってのはいつだって命懸けっす」



――――――――…………

――――……

――…



「――――アンサークン! 無事かね!?」


「あ、局長さーん……なんとか無事です」


待つこと数分、現場の鎮静化を確認した局長さんたちが重武装の職員たちに守られながらやってきた。


「そ、それで件の敵は……?」


「ああ、ここですここ。 もう薬ははぎ取ってふん縛ったので大丈夫ですよ」


おどおどと周囲を見渡す局長さんの前にそこら辺にあった布類でぐるぐる巻きに縛り付けたギャラクシオンを突き出す。

魔法少女の姿は解除されているが相変わらず気絶中だ、焦げ臭いにおいを放ちながらぐったりしている。


「これは……まさかあなたがやったの?」


「まさか! 監視カメラで見ていなかったんですか?」


「敵の魔法少女に殆ど壊されてね……そうだね、縁クン?」


「ええ、だから状況は把握できていないのだけど」


「そうですか、それじゃあ……」


それから局長さんたちに私はこの場で起きた出来事を搔い摘んで説明した。

ギャラクシオンに襲われたこと、相手の狙いは私だったこと、そして花子ちゃんが助けに来てくれたこと。

まあ、当の本人は生憎逃げ出した後だが。 流石に魔法局のど真ん中で野良が堂々と居座るのはまずい。


「なるほど、その子にお礼の一つでも言いたかったけど仕方ないわね。 ひとまずはどうしましょうかこの惨状……マスコミになんて説明すればいいかしら」


「まずはアンサークン、医務室へ行こう。 まったく無茶をするね君も……」


「あはは、ごめんなさ~い……」


頭を抱えて溜息を零す縁さんと、心底心配そうに私を見つめる局長さんに連れられて凄惨たる現場を後にする。

徹底的に破壊された通路を振り返り、この後の後始末の壮絶さを偲びながら既にこの場を離れた彼女の事を思う。

魔法少女は命懸けだ、分かっていたつもりだが今日の出来事はよりその事実を痛感させられた。


「……だったら、花子ちゃんはなんのために戦っているんだろ」



――――――――…………

――――……

――…



「よぉ、どうやらそっちは上手く……ってほどでもないが、何とかなったらしいな」


「お疲れっすー、いやぁ連絡来た時は肝が冷えたっすよこっちも」


適当に魔法局から離れたところで花子ちゃんを拾い、上空から現場の惨状を見下ろす。

どこかで火災も起きたのか、もうもうと上がる黒煙は事態の凄惨さを物語っているかのようだ。

既に周囲には多くの野次馬と駆け付けたマスコミの影もある、魔法局はこれからの対応も大変だろう。


「……まさか直で魔法局を狙ってくるとは思わなかったっす、間に合ってよかったけど少しでも遅れていたらどうなっていたか」


「俺もここまでやってくる相手だとは正直思ってなかった、所詮はちょっとしたチンピラの集まり程度だと油断していたよ」


まさか魔法局に喧嘩を売るほどの度胸……いや、組織力があると考えつかなかったのはこちらの落ち度だ。

街で暴れていた2人は陽動、本命は厄介な魔法を持つアンサーを保護する魔法局……まんまと罠に引っ掛けられてしまった。


「……魔女、か。 一体奴らは何のために――――」


ヴィーラとの戦闘で投げつけられた言葉を思い出す。

“親から愛されなかった”と、その言葉の意味が分からないほど馬鹿じゃない。


……見上げた空は雨が降り出しそうな曇り空だった。

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