アウトレイジな奴ら ②
耳障りなアラートがいら立つ心を余計に搔き毟る。
流石魔法局と言うだけのことはあるか、単純に堅く分厚い素材なら魔法少女とて破壊は容易ではない。
「だがまぁ、それも王たる我には些事にすぎぬか。 余計な手間を取らせた駄賃は高くつくぞ」
足元に転がる扉だったものを踏みつぶす。 まるで発泡スチロールのような手応えだ。
あゝ全能感。 いいや、いいや、漸く王たるおのれに世界の方が追いついたか。
無数に行方を遮るのは防火シャッターか、だがそれもどれもがこの歩みを止めるには無礼にもほどがある。
「ひれ伏すが良い――――王たる我が振るうのは、銀河の力だ!」
――――――――…………
――――……
――…
「ま、まままま魔法少女が攻撃!? どどどどういう事かね縁クン!?」
「聞いての通りです! 局長は良いから避難を! 防護壁を降ろして、警戒レベルは最大!!」
「やってます! けど時間を稼ぐ程度にしか効果はありません!!」
「第三隔壁突破! アンノウン、真っ直ぐにこちらへ向かってきます!」
職員の人たちはテキパキと動いてはいるが、飛び交うのは悪い情報ばかりだ。
ノイズが酷い画面に写されたのは黒っぽい恰好の少女、画面の乱れが酷くて詳しくは分からないがマントがたなびくその姿は魔法少女に違いないだろう。
「局長さん! 他の魔法少女はどこ行っちゃったんですか!?」
「ま、街で暴れているという魔法少女の対応に……まままさかその隙を狙った計画的な犯行かね!?」
「魔法少女3名との連絡! ……出来ない!? 妨害でもされているっての……!?」
「な、なら私が……!」
「ばばば馬鹿を言うんじゃない、君の魔法は戦闘に向いていないのだろう!?」
思わず飛び出して行こうとしたところを局長さんに制止される。
私の魔法は問いかけに対する強制回答、単独で魔法局に攻め込む様な相手と真っ向から戦闘できるものではない。
だからと言ってこのまま魔法局が壊されるところを黙ってみていられると言われればNOだ。
「ほ、他に駆け付けられる魔法少女は……」
「……ドレッドクンは既に帰った後、そもそもこの街の魔法少女はあの3人とブルームスターだけだ」
青い表情で局長さんが重苦しく言葉を吐き出す。
もしこのまま魔法局が落とされるようなことがあれば……
「……やっぱり、私行きます!」
「許可できん! 君はあくまでインスタントの被害者だよ、不在の魔法少女の代わりに戦わせるなど……」
「だったらどうしろって言うんですか、このままじゃ魔法局が壊されちゃうんですよ! そうなったら笹雪の治療は……」
「そ、それは……」
「……私だって、時間稼ぎぐらいは出来ます! やらせてください!」
「ちょっ、待ちなさい! 縁クン、キミも止めて止めてー!!」
局長さんの制止を振り切り、メガホンを片手に駆け出す。
取り出したのは今回の調査用に少しだけ渡された変身用の錠剤、小さなタブレットケースにしまっていたそれを1粒取り出して奥歯で噛み砕く。
そして喉を通りこした瞬間、身体に走る熱を放出するかのようにメガホンに向かって叫ぶ。
「―――――変身!!」
――――――――…………
――――……
――…
「――――魔法局へ連絡は!?」
「だ、駄目だ! 我の携帯からは繋がらない!」
「こっちもだヨ、これで全員ダメか……!」
遠くに見える黒く立ち上る煙へ向かい、3人揃って街を駆け抜ける。
パニオットを相手に魔力を使い過ぎた、まさか先ほどまでの戦闘が魔法局を狙うための陽動だったとは……
「サムライガール、焦る気は分かるけど先行しちゃ駄目だヨ! またさっきの今で単独行動は危険がデンジャーすぎるからネ!」
「か、駆け付けた後の事を考えるなら無駄に魔力を消耗するのも……」
「分かってます、分かってますよええ! だーからこうして焦っているんです!」
これまでの消耗を考えれば、急げば急ぐ分だけその後のガス欠が速くなる。
そうなってしまえば駆け付けた後に十中八九待ち受ける戦闘が満足に行えない、あっちを建てればこっちが立たぬで何とも歯がゆい思いだ。
「おい、どうした3人とも! 何かあったか!? あの煙はなんだ!?」
「盟友! じ、じつは……」
「魔法局が襲われました、計画的な犯行です! さっきまで戦闘は囮だったんですよ!」
箒に乗って悠々と合流するブルームスターに向かい、息を切らせながら状況を伝える。
彼女も消耗は激しいはずだが、レアな飛行能力の中でも羨ましい燃費の良さだ。
「そうか、やっぱりか。 間に合ってくれるといいが……」
「間に合うためにこうやって走っているんだヨ! 絶対に間に合わせるからネ!」
「いいや、助っ人を呼んだ。 もう少しペース落として良いよ、到着はまず向こうの方が速いからな」
「…………What?」
――――――――…………
――――……
――…
「……ほう、自ら姿を現すとはな。 王の手を煩わせまいとする心意気は見事だ、褒めて遣わす」
「はははぁ……思ったよりキョーレツな奴が来たわね」
ひしゃげた防火シャッターを通し、向かい合う先で待っていたのは黒いマントをたなびかせる1人の魔法少女だった。
頭上には星をちりばめたような豪奢なティアラを被り、キリリとつり上がった掘りの深い瞳は自信たっぷりに私を見つめている。
マントの下には所々鎖が巻き付いた赤を基調としたルネサンス調の衣装……まさに貴族、いや王様とも言いたげな格好だ。
「それよりもその言い方……“問題:狙いはもしかして私”?」
「ふん、貴様の能力は割れている。 断る事も出来るが応えてやろう、その通りだ」
「そう……私の魔法が随分と邪魔なようね」
冷や汗が垂れる、もしかして自分がのこのこ出て来たのは間違いだっただろうか?
相手の狙いが自分なら鴨が葱を背負ってきた状態だ、あのままさっさと避難していれば。
「……いや、いいや! 私だって魔法少女なんだから! おめおめ逃げるような真似は出来ないわ、覚悟しなさい悪党! あんたはこの魔法少女アンサーが倒してやるんだから!」
「ほう、威勢だけは良いようだな。 だが……少し頭が高いな」
「なにを……ギャッ!?」
相手の魔法少女が腕に取り付けたマンホール……いや、UFOのような装置を向けたかと思うと、私の身体が地面にたたきつけられる。
上から押しつけられる立っていられないほどの重圧、あまりの圧力に呼吸も満足にできない。
辛うじて頭を動かすと、悠然とこちらに歩いて来る相手の姿が見えた。
「勇気と無謀をはき違えたな、小娘。 まさか本当に自分が相手になるとでも思ったか? ふん、片腹痛い」
「ぐ……が、ぎ、ぃ……!」
逃げようにも床にめり込んだ身体は満足に動かない、唯一の武器であるメガホンにすら手が届かない。
酸素が足りなくて意識が朦朧としてきた、死ぬ? 駄目だ、だってまだ笹雪が……
「覚えて置け、貴様が相手にしようとした銀河の雄大さを胸に刻んで墓標とせよ!」
とうとう私の目の前にまで近づいた魔法少女がUFOの取り付いた片腕を振り上げる。
円盤状のその装置は端が刃のように鋭い、あれを振り下ろせば私の首は真っ二つだ。
嫌だ、死にたくない、何も成し遂げていないのに、これじゃただの無駄死にだ。 何か、何か方法は……
「私は、まだ……!」
「死ぬが良い、小娘!!」
勢い良く振り下ろされた腕に思わず目を瞑る。
1秒、2秒、3秒……スローモーションのように時間が過ぎるが、しかし予想していた痛みはいつまでたっても訪れなかった。
「――――よぉ、随分とピンチじゃねえか赤と青の」
「…………えっ?」
予想外の声にはっと目を開く、そこにいたのはバチバチと火花を散らしながらUFOと互角に鍔ぜり合う……
「……貴様、不敬であるぞ。 何者だ?」
「花子……ちゃん……?」
「助っ人、参上――――てなぁ! 花子のダチ虐めてくれた借りは熨斗付けて返すぜ宇宙女ぁ!!」




