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これがラピリスだ! ⑧

ラピリスが刀を収めると同時に、狛犬の頭が真っ二つに切り裂かれる。

その距離十数m、当然だが彼女の刀が届く間合いではない。


「……ブルーム、何かやったノ?」


「いいや、今のはラピリスの魔法だよ。 確か納刀と抜刀の事象を逆転させて……悪い、俺も原理はよく分からない」


「とんでもだヨ……とんでもなとんでもだヨ……」


混乱している様子のゴルドロスは一旦そっとしておこう、狛犬の元へ跳ぶ。

すでにそこに亡骸は無い、大粒の魔石が一つ転がっているだけだ。


「……片付きましたか」


魔石を拾って顔を上げると血塗れのラピリスが腕を組んで佇んでいた、怖い。

音も気配も何もしなかった、一体いつの間に……


「……魔力操作、上手くなりましたね。 その状態なら並みの魔物には気取られませんよ」


「えっ? あっ、そう言われてみれば!」


スピネとの戦闘の疲労で程よく肩の力が抜けていたのか、何となく全身を纏う魔力の感じが違う。

そうか、この感覚か。 後はこの状態を再現できるようになれば完璧だ。


「サンキューラピリス、お前のお蔭だよ!」


「えっ、ちょ、ちかっ! 近い、近いですっ! 血で汚れます!」


まるで進捗が無かったからとても嬉しい、思わずラピリスの両手を握ってブンブンと振り回す。

血なんて構うもんか、狛犬の消滅に合わせしゅわしゅわと空気に溶けているじゃないか、そのうち消える。


「なーにイチャついてんだヨお二人サン」


すると遅れて到着したゴルドロスに冷ややかな視線を投げかけられた。

それを見たラピリスが慌てて両手を振り払う。


「ふんっ! 魔力制御を覚えたなら次からあなたは敵です、容赦はしませんよブルームスター!!」


「まあまあまあ、仲良くしようよラピリス」


「うるさい! ゴルドロスもなんで一緒に行動してるんですか! 大体あなたは前から……」


「あーもー面倒だナこの委員長サマ、そんなんじゃモテないヨ」


「二人ともそこに並びなさい、そっ首叩き落としてくれる!」


女三人寄ればなんとやらというものか、1人だけ中身男だが。

かくして狛犬事件は一件落着、小学校への被害を最小限に抑えて幕を閉じた。



――――――――…………

――――……

――…



「……あ゛ー駄目だ、ライン途切れた。 狛犬ちゃん二号も負けちゃったかー」


仄暗い廃墟の中で少女の舌打ちが反響する。

瓦礫を除けておかれたベッドの上には修道服の少女……スピネが横たわっていた。


「だだだ駄目だよ朱音。 ま、まだ喋っちゃ……」


「うるさいよーお姉ちゃん、こんくらい屁でもないってのー……箒ちゃんめ、手加減してくれちゃったなー?」


語気こそ穏やかだが心中穏やかではないらしく、水の入ったコップを握り砕く。

その様子にもう一人の人物が「ひっ」と短い悲鳴を漏らした。


「ってかさー、お姉ちゃんもレスキュー遅いよ。 万が一は助けてって言ったじゃーん?」


「ごご、ごめんねごめんね……痛かったよねぇ……」


「泣ーくーなーよー、アタシがイジメてるみたいじゃんめんどくさ。 ……ま、お姉ちゃんの出来の悪さは知ってるけどさ、キヒッ!」


少女のすすり泣く声と笑い声、相反する声が退廃した2人だけの世界で木霊する。

「ここ」に人はいない、ただ2人の魔法少女と“その他”大勢がいるだけだ。


「……あーもー、お姉ちゃんが泣くから皆寄ってきちゃったじゃん。 どうするー?」


「あ、あああ朱音ちゃんは寝てていいよ。 わた、わたしが行くからね……」


割れた窓の外からはビルに並ぶほどの背丈を持つムカデが2人の少女を覗いていた。

いや、ムカデだけではない。 窓の外にはほかにも多くの怪物が、魔物が闊歩している。


「デカけりゃいいってもんじゃないけどなー、ちゃんと魔石持ってきてよお姉ちゃん」


「う、うん! すぐ片付けてくるね!」


姉と呼ばれた少女は身の丈以上もある大剣を振り回して窓の外へ身を躍らせる。


――――ムカデの断末魔が聞こえるのはそれからすぐの事だった。



――――――――…………

――――……

――…



「はあああぁぁぁあぁあぁあぁぁー…………」


あれから数日後、夕方の店内がアオの長い長い溜息で満たされる。

狛犬を倒した時の覇気はどこへやら、まるで空気が抜けた風船だ。


「なーに腑抜けているんだヨ、あの猫も飼い主が見つかったんだからよかったんじゃないノ?」


「うぅ……ポン吉君……ペットロスです……」


「こりゃ重症だなぁ、優子さんも何か言ってくださいよ」


「猫の毛でクシャミ止まらなくなるのよね私」


「はあああぁぁぁあぁあぁあぁぁー…………」


駄目だ、逆効果にしかならない。

まさかこれがあの鬼気迫る魔法少女と同一人物とはだれが思うものか。


「まったくこれからやる事も色々あるってのにサー、これじゃ困るヨ」


「ああ、例の撃鉄の魔女……だっけ? どこの誰かも分からないのか?」


「ン、過去に登録されているどの魔法少女の特徴とも一致しなかったヨ。 残った手掛かりは二つ……」


コルトがポケットから取り出したのは去り際のスピネが残した銃弾。

掌の銃弾はあれから数日経過としたというのに氷漬けのまま、一切融ける気配がない。


「色々調べたいけどこの氷が厄介なんだヨネー、魔法由来のもので全然融けてくれないんダヨ」


「ゲッ……」


そしてその氷を見たアオが顔をしかめ、目を逸らす。


「……HEY、サムライガール。 なにか心当たりがあるなら言うがタメになるよ」


「……いいえ、私は何も知りません、関わりたくありません」


「大丈夫かアオ、チベットスナギツネみたいな顔になってるぞ」


遠い虚空を見つめるその顔は虚無そのものだ、一体この氷漬けの銃弾に何が隠されているというのか。


「それに関して話すのは……少し待ってください、幾らお兄さんでも心の準備が……」


「本当に何があったんだ……」


ポン吉ロスのショックから無理矢理たたき起こされるほどの衝撃。

なんだか聞くのが恐ろしくなってきた。


「……それよりもう一つの手がかりって何ですか、消し炭になった銃弾か何かで?」


「違うヨ、逃げる時にあいつは確かにこう言ったんダ」


 ―――知りたければ「東京」までおいで―――


「……東京に、確かにそういったんですか?」


「ン、間違いないヨ」


店内に沈黙が満ちる、その中で優子さんだけが電子タバコをふかしていた。


《……マスター、皆さんどうしたんですか? 東京なんて新幹線ですぐでしょうに》


「ハク……お前何言ってんだ」


胸ポケットに収まった同居人を小声で諫める。


「――――東京は10年前に滅びただろ?」

鳴神 葵(魔法少女名:ラピリス) 杖:変身抜刀ブレイドチェンジャー


主人公、七篠陽彩が世話になっている喫茶店「アミーゴ」の一人娘。

生真面目で凛とした雰囲気を纏う小学4年生の女の子。

変身アイテムである刀は通常だとストラップのような形になる。


変身時の姿は巫女の様な和装に花模様と刀が映えるものとなる。

固有魔法は注ぐ魔力の量で刀の重量を変化させるものらしいが詳細は不明。

遠距離の相手を斬りつける魔法も持ち合わせている。

特に刀の名前などは名付けていないらしい。

ゴルドロスやブルームスターに比べ格段に身体能力が高いが、その分魔力消費が激しくスタミナが短い。


名前の由来はラピスラズリ、魔法少女の名前を宝石名で統一しようとしていたころの名残。

苗字の鳴神は今話のサブタイトルにもなった某特撮主人公から。


心情を投影した刀を重くする → 気持ちが重い。

距離を無視した斬撃        → 歳の差(距離)なんて関係ない。


などいろいろ重たい……気持ちが一途な子

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