闇の力 悪い奴ら ④
「蒼い」 「二刀流」 「鬼鉢金」 「画像と一致」 「間違いない」
「「「「「魔法少女ラピリス」」」」」
同じ顔をした少女5人が全く同じタイミング、同じ挙動で人差し指をこちらに向けてくる。
一挙一動その全てが寸分たがわず同時、異なるのは本当に立ち位置と衣装についた僅かな土ぼこりぐらいしかない。
影のように黒いスーツに黄土色のネクタイを締め、表情のない顔つきと銀の瞳が冷ややかに私を見つめ返す。
「い、五つ子……?」
「「「「「「違う、全て私でどれもが私」」」」」
声を重ねて喋る彼女達の背後からまた1人、2人と同じ顔が現れる。
その数は今や合わせて10、ここまで増えれば流石に姉妹などでは説明がつかなくなる。
「……なるほど、それがあなたの魔法ですか」
「どうだか」 「分からない」 「はてさて」 「黙秘」 「外れ、かも」
口々に喋り始める10人の少女だが惑わされてはいけない、本物は1人だけだ。
自身の分身を作り出す類の魔法、同じような魔物を相手取ったこともあるがここまで寸分たがわず作り出せるのは初めて見た。
「魔法少女」 「名をパニオット」 「以後よろしく」 「あなたとはここで」 「サヨナラだけど」
「誰か一人代表で喋ってくれませんかね……この惨状は、あなたが?」
改めて周囲に広がる光景を見渡す。
捲れ上がった道路、半ばから真っ二つに切り裂かれた自動車、煙を巻き上げて燃え盛る街路樹に逃げ惑う市民の姿。
徹底的な破壊だが魔物の仕業ではない、人々が向ける怯えた視線は全て目の前の彼女達に集まっていた。
「そうだと」 「言ったら」 「あなたは」 「どうする」 「?」
「貴女を倒します」
予想通りの返答が帰って来た時点ですでに刀は抜いていた、抜刀と同時に逆巻く風がカマイタチとなってパニオットの一人を切り裂く。
しかし加減して放った牽制はあまりに容易くその柔肌を切り裂き、上下に切り裂かれた彼女の姿は次の瞬間には霧散する。
消えた少女の代わりとなってその場に落ちたのは季節外れの松ぼっくりだ。
同じく真っ二つに断たれ、コンクリートの上に落下したそれはパキリと音を立てて粉微塵に砕け散った。
「躊躇がない」 「怖い」 「恐ろしい」 「おっかない」 「人殺し」
「ご心配あらず、魔法少女ならば殺せぬ威力です、偽物さんは随分と脆いようで」
「無駄話が好き?」 「違う、時間稼ぎ」 「一人じゃ現れない」 「仲間待ってる」 「無駄なのに」
「……何?」
どういうことか、と言葉を発するよりも早く、私の背後から連続した銃声と金属同士が激しくぶつかり合うような音が聞こえてきた。
「っ……ゴルドロス!?」
「パニオットは確かに脆い」 「一体一体はとても弱い」 「けどそれ以上に数がある」 「10や20で効かない数がある」 「それはとても強いこと」
目の前の9人が腰のベルトに装填されたダガー状の武器を取り出す。
切れ味を誇示するかのようにギラつく刃面に映る無機質な瞳が、真っ直ぐに私を見つめている。
9vs1、相手の言う通り数の利は相手にある。 どうする、一度引いてゴルドロスたちと合流するか……?
「逃げたら」 「一般人を」 「狙う」 「それでも」 「逃げる?」
「……あなた達は、一体何が目的なんですか? 白昼堂々と街中で暴れるなど、私達を誘い出してまで何がしたいんですか?」
「「「「「宣戦布告」」」」」
「……!」
掌でダガーを弄び、逆手に構えた少女達から混じりっ気のない殺気が立ち上る。
1つ1つから感じる気配や魔力も全く同じ、見た目や五感で見極める事はほぼ不可能だろう。
目の前の少女は私たちを殺す気で掛かってくる気だ。
「確かに恨まれるような覚えは多々ありますが……あなたと出会った事ありましたっけ」
「違う」 「あなただけじゃない」 「魔法局全てへ」 「インスタント扱いされた」 「私たちからの挑戦状」
「……インスタント呼ばわりに不満があったと、ではなんて呼べばいいですかね?」
「「「「「――――“魔女”」」」」」
魔女、その言葉を反芻するよりも先に9人のパニオットたちが襲い掛かる。
それと同時に、突如背後から現れた3人のパニオット達もダガーを振りかぶり飛び掛かって来た――――
――――――――…………
――――……
――…
「あーもーなんだヨこいつらぁ!」
「ぐえっ」 「ぶえっ」 「あべしっ」 「ひとっ」 「ごろしっ」
弾幕を適当にばら撒けば松ぼっくりが化けた少女達に命中し、そのどれもが元の姿へ帰って地に落ちる。
1体1体はこの通り簡単に倒せるが、如何せん量が多い。 次から次へと湧いてこられるとサムライガールとの合流も困難だ。
「ちょやー! せいやー!!」
「へぐっ」 「ぼえっ」「ぼろすっ」
「おーおーやるネェシルヴァーガール! そっちは任せたヨ!」
1体1体はシルヴァーガールが振り上げた本の角で倒れる程度の耐久力だが、襲い掛かってくるダガーは脅威だ。
流石にこれだけ群がってくるといつ間違いが起きても……
≪――――WITCH's SHOT!!≫
「「「「「ほんぎゃー!」」」」」
不意に聞きなれた電子音と共に、スーツ少女たちの群れが一山吹き飛ぶ。
群れの向こうに見えたのは白くたなびくマフラーと火の粉を巻き上げる箒の穂、2つのシンボルを確認してつい安堵の息が零れる。
「遅いヨ、ブルーム!」
「悪い! ってかどうなってんだこれ!?」
スーツの群れをかき分けて、ブルームスターが現れた。
“新技”の調子も良さそうだ、助っ人としてはこれ以上ないくらい頼もしい。
「分からないヨ、分身するタイプの魔法みたいだネ! いくらやりあってもキリがないヤ!」
「盟友! どれもこれも同じような魔力しか持っていない、見分けるのは無理だ!」
「そりゃ厄介だ、しかも人型だから非常に殴り難い!」
「そんなこと言っている場合じゃ――――」
―――――――がらんっ
重い金属を引きずるようなその音に、少女の群れがピタリと動きを止める。
そして感情の読めない銀色の瞳を一点に向けたと思えば、先ほどから一部の隙も無かった群れがざっと左右に分かれた。
そしてまるでシルクロードのようなその道を歩く、魔法少女が1人。
「――――おっはー、魔法局の連中共ー」
身の丈以上の巨大なハンマーを担ぎ、頭にはツバがほつれたとんがり帽子。
逆光で顔は見えないが、そのせいで余計に特徴的なシルエットが浮かび上がる。
「……だれだヨ、お前?」
「アタシ? アタシはねぇ、魔女のリーダー」
「魔女……?」
「そうそう、あんたらがインスタントとか呼んでる連中。 そのリーダーやってまぁす、以後よろしく」
少女が手に持ったハンマーを地面にたたきつける。
耳障りな音を鳴らし、コンクリートを容易く砕く鉄槌の衝撃に腹の底が揺さぶられる。
……見た目通り相当な重量だ、取り回しの隙は大きそうだがその分当たれば大怪我じゃ済まない。
「――――てなわけでさぁ、ぶっ壊れちゃってよ全員」