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闇の力 悪い奴ら ③

《マスター、どうするんですかあの子》


「どうするもこうするも……なぁ」


パン粉をまぶしたエビを油の中でおよがせながら、冷蔵庫から取り出した卵を片手で割ってボウルに落とす。

客は一人だが待たせるような真似はしてはいけない、一人で調理場を回す作業にもだいぶ慣れてしまった。


「ただ怪しいってだけだろ、特に何かしたわけでもないのにどうもこうも出来るか。 それとも君は魔法少女ですかって素直に聞くか?」


《そりゃまあそうですけど……》


出来上がったエビフライをランチプレートに盛り付け、取り分けて室温になじませておいたタルタルソースを上からたっぷり振りかける。

横にはデミグラスハンバーグ、プレートの一番大きいスペースにはこれから出来上がるオムライスを盛りつけるだけだ。


《ただでさえマスターは幼女ホイホイなところがあるから心配と言うかあっつあっつ゛! ちょっとマスター、油跳ねてます油!!》


「オメーは余計な一言が多いんだよ……っと、出来上がり」


チキンライスの上に置いた半熟卵を真っ二つに切り、その上からトマトソースを掛ければ出来上がりだ。

注文のコーラと一緒にお盆に乗せ、スマホを弄りながら待つ少女のテーブルへ運んで行く。


「はい、お待ちどうさま。 欲張りセットとドリンクです」


「おっ、来た来た! ってかめっちゃうまそーじゃん! 全部手作りなん? ヤッバいわインスタに上げよ」


「そりゃあまあ店やってる以上は既製品なんか出さないよ、旗は刺さなくていいのかな?」


「やーだ、そんな子供みたいな真似しないよもぉー!」


けらけら笑い、提供された料理の出来栄えを写真に収める少女。

こうしてみればただの背伸びがしたい年頃の女の子にしか見えない、やはりただハクが気負い過ぎるだけだ。

……それとも俺がそうであってほしいと穿った見方をしているだけなのだろうか。


『――――次のニュースです、先日新たに発見された魔法少女に関する続報が入ってきました』


特に何を見る間でもなく、流しっぱなしにしていたテレビに新たなニュースが綴られる。

西の方でコンビニ強盗を働いた魔法少女が一名、魔法局の手によって捕まったらしい。

毎日毎日、魔法少女による被害は後を絶たない。 この後に行われるのはコメンテーターとのいつもと変わらないやり取りだろう。


「んふー! ウッマ、全部うまいうまい! ちょっとコックさーん、白米追加で持ってきてー!」


「オムライスもついているんだけどなぁ、はいはい……」


棚から1枚引っ張り出した皿の上に、業務用炊飯器から取り分けた白米を盛る。

あの勢いだと並盛では少し物足りないから、多めに分けよう。

それと終わったらフライパンと器具を洗って、食材も余りそうだから夕飯の仕込みも済ませてしまおう。


「はいお待ち、いい喰いっぷりだから少し多めに盛っといたよ。 おかずもおかわり欲しければまた呼びな」


「マ!? 神サービスじゃんヤッバ、なんで流行んねーのこの店!?」


「不定期すぎたり唯一のコックがこの面だからかなぁ……」


「えー勿体なっ! そーだ、うちらのコックにならない!?」


「ははは、嬉しいおさそいだけどこの店空ける訳にゃいかないなー」


己惚れる訳じゃないが自分がいなければこの店は終わりだ、次の日のニュース番組は魔法少女を押しのけて殺人容疑で連行される優子さんの姿が映る事になる。

……それに、そうじゃなくても恩義がある店を抜けるなんてことは今のままじゃ考えられない事だ。


「あっはは、フラれちゃったかー。 しゃーない、次に来るときは返事が変わってる事期待してるねー」


「なんべん来ても同じだと思うけどな、けどリピーターは歓迎だよ」


そのまま少女ととりとめのない会話を交わしながら、緩やかに時間が流れた。

やがて1時を知らせる時計の金と同時に、綺麗に並べられたランチプレートを平らげた少女が席を立つ。


「ふぃー、美味かった! ありがとねコックさん、釣りはいらねーぜ!」


「はいはい、そりゃどーも。 お釣りはちゃんと受け取ってくれ、あとこれどうぞ」


「ん、何これ?」


受け取ったお代に変わりに差し出したのは、少し大きめのラッピング袋だ。

中を開けてみれば一口サイズのアイシングクッキーがたくさん詰まっている、彼女の喰いっぷりがあまりに気持ちいいからつい用意してしまった。


「試作のクッキー、まだ店に出せるような出来じゃないから好きに食べてくれよ。 もちろんお代は結構だからさ」


「うっわ女子力たっか、マ? コックさん実は女の子だったりする?」


「あはは、面白い冗談だ。 結構量があるから家族で分け合って食べて……ってオイオイ、お金の扱いはもう少し丁寧な方が良いぞ?」


「―――――……」


改めて少女から預かった料金を確認すると、それはクシャクシャに丸めた1000円札だった。

貨幣としての価値がないわけじゃないが店がお釣りとして客に渡せるようなものではない、キャッシュドロアの別ポケットにしまい込み、お釣りの小銭を幾つか取り出す。


「はい毎度、お釣り……ってあれ?」


レジから顔を上げると、既にそこに少女の姿は無かった。

荒っぽく開け放たれたドアベルが鳴らすがらんがらんと言う音だけが寂しい店内に木霊する。


「……あれ、俺なんか気に障る事言った?」


《いやー、女の子心はさっぱりです。 ……っと、入電ですマスター。 これはブルーム用の番号ですね》


「このタイミングでか、まーたインスタントか……!?」



――――――――…………

――――……

――…



「ゴルドロス、ブルームとの連絡は!?」


「今取ってるヨ、すぐに来る! こっちはこっちで集中するヨ!」


ビル風を真正面から切り、並び立つ街並みを駆け抜ける。

先ほど匿名で「魔法少女が暴れている」という連絡を受けた地点、そこでは遠目から分かるほどの煙が立ち上っていた。

風に耳をすませば人々の悲鳴と瓦礫が崩れるような音も聞こえてくる、ガセならそれも良かったが事態はどうも一刻を争う状況だ。


「シルヴァ、ゴルドロス! 私は一足先に現場に向かいます、こっちは任せました!」


「分かった、すぐに追いつくヨ!」


足並みを合わせるために加減していた魔力を解放し、さらなる速度で現場に向かう。

これも合宿の成果、以前とは比べ物にならない加速力だ。

多くの風景を置き去りにし、やがて1分と掛からず現場へと到達すればそこには複数の魔法少女らしき影が見える。

数にして5、物量では負けているがすぐにゴルドロスたちも駆け付ける、臆している場合ではない。


「そこまでです!! 魔法局に登録された魔法少女名がある……な、ら……?」


勢いよく飛び出したが、その少女たちの背中を見ていると言葉尻が濁ってしまう。

5人とも全く同じ背格好、全く同じ武器、全く同じ髪型と色、まるで鏡のように統一性だ。

しかもその上……


「「「「「――――来た」」」」


「………………はい?」


私の方へと振り返って除く5つの顔と声すら、全て同じだったのだ。

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