一方その頃:後日談
「……で、その後どうなったのかね?」
「どうもこうも、大変だったわよー……」
「お疲れ様です、ドレッドハート。 まずはお茶でもどうぞ」
「あー……ありがとねぇラピリス……」
諸々の手続きを終え、ようやく解放された私は魔法局の作戦会議室で机の上に突っ伏していた。
ブルームスターとセキと言う子は逃がしてしまったが、それでも4人分の手続きは疲れた。
新たな魔法少女を見つけた際、発見した者には付き添う責任が伴う。
「検査の結果、幽霊屋敷の愛衣ちゃんはインスタントではなく純正の魔法少女だったわ。 精神的な疲労でしばらくは入院生活だけど、退院はそう遠くないわね」
「なるほどネ、他の3人についてはどうなったのカナ?」
「まず説教ね、その後親御さんとの面談……だったんだけど」
そこで一度言葉を切り、お茶を一口啜る。
「……魔結症って知ってる?」
「いいえ……病気、なんですか?」
「知ってるヨ、アメリカじゃ有名音楽家の孫娘の命を奪った悲劇とかでニュースになってたネ、魔力が体を蝕む珍しい病だヨ」
「それそれ、いわば魔法少女の逆ね。 全く魔力に適応できない体質、大気中に漂うわずかな魔力が蓄積していって凝結して行くの」
「な、なんだかとても恐ろしそうな病だね……」
「そうよ局長さん、身体を蝕む魔石は筋肉や臓器を痛めつけるだけじゃなく、強い魔力を帯びた肉体は周囲にも悪影響を及ぼすわ」
魔力は毒だ、微量なら大した影響もないがその量が嵩めば健康な肉体を蝕んでいく。
魔結症の患者は周囲の家族にすら害を与える、その身体を看病する事すら許されないのだ。
「……だからああいう形で杖が現れたのかしらね」
――――――――…………
――――……
――…
「ずーん……」
《口でずーんていう人初めて見ました》
「ハク、思ってもそういう事は言わない」
以前に花見にも使った河原、土手に腰かけるレトロとその他二名の背を見てハクが呟く。
魔法局に捕らえられた3人はその後、両親も呼ばれてこっぴどく絞られたらしい。
三角座りのままうなだれるアンサーの頭には大きなたんこぶも生えている、魔法少女の装甲も貫くとは親の怒りおそるべし。
「久々に……久々にお母さんの鉄拳喰らったわ……」
「いくら魔法少女でも……親には勝てないのでござるね……」
「ずーん……」
「……うん、これに懲りたらもう魔法少女なんてやめるんだぞ?」
元から3人は錠剤で覚醒したインスタント魔法少女、今回はこの河原に能力テストのため連れてこられたようだが、危険性が少ないと判断されれば監視下に置かれることはあれ前線に駆り出されることはまずない。
インスタント魔法少女の戦闘力は通常の魔法少女と比べて低い、3人の中でも純粋に戦えると言えるのはレトロぐらいのものだ。
「……というか、なんでここにいるのよブルームスター! 私たちのあこがれは気高き野良じゃなかったの!?」
「お前たちの様子が心配だから見に来たんだよ、そんで来たら案の定って訳だ」
「流石の読みでごじゃる……」
「まあこれに懲りて魔法少女に憧れるのは止めるこった、現実の厳しさは大分分かっただろ」
「それは駄目」
一転して力強い声でアンサーが否定する。
思わず彼女の方に視線を向けると、意思の籠った瞳と視線が合った。
「……私たちが魔法少女になったのは笹雪の病気を治せないかと思ってよ」
「病気?」
「魔結症って知っているでござるか?」
「んー……ハク」
《やれやれ仕方ないですねーマスターは……体内に蓄積した魔力が魔石となって体外に突き出る奇病、らしいです!》
ハクがウィキペディアの情報をそのまま自慢げに語り出す、虚空から現れたスマホに映し出されたのは血を滲ませて腕や頬から突き出る赤黒い水晶の画像だ。
「……なるほど、魔法少女になって魔力を消費できれば魔石も無くなると思ったんだな?」
「そうよ、そうなのよ! 確かに症状の悪化は止まったんだけど……いくらレトロが暴れても治る事は決してなかったわ」
≪もう、気にしないでっていつも言っているでしょう?≫
「魔物と戦う時も我々はレトロ殿頼りだったでござるから」
「うーがー……」
うなだれたまま力なく片手を上げるレトロ。
ドレッドハートに付き添うロイと同じような、自立機動型の杖と思われるレトロの五感は本体である魔法少女と繋がっているらしい。
病に苛まれ、自由に動けない体の代わりに……と考えれば確かに望み通りの杖かもしれないが、治療を期待した結果としては的外れだ。
「けど悪化はしなくなったのよ! 今更やめる訳にはいかないわ、それに笹雪だけおいて私たちが辞めるのも却下よ!」
「そうでござる、笹雪殿を魔法少女の道に引き込んだのは我々、責任は拙者たちにあるでござる!」
「友達思いなのは良いけどな、インスタントにはリスクがあるんだ。 命が掛かってるならあまり強くは言えないけど……」
「ぐぬぬ……! あの魔法少女めぇー、今度会ったら恥ずかしい秘密全部すっぱ抜いてやるわ!!」
「……魔法少女? おい待て、お前たちに錠剤を渡したのは誰だ?」
「……えっ? ああそうだったそうだった、1つ話しておかないといけないわね」
そういうと、アンサーはまるで悪戯話を思いついた子供のように声を潜める。
「ここだけの話ね、私達の間にもルールがあって―――――」