一方そのころ ④
「……なるほど、そっちの事情は分かったわ」
一先ず敵対の意思はないとみて、私達は互いに腰を下ろして話し合う事にした。
そばかすの少女が言うには幽霊屋敷の噂が本当なら、そこに魔法少女が関わっている可能性が高い。
そうでなくても魔物の仕業だろう、事態の早急な確認は必要だ。
「……でも疑問ね。 確認できているなら、公式の魔法少女が動くはずでしょ? なんであんたがわざわざ」
「今魔法局に所属する方々は訓練でこの地を離れているっす、今はサポートで他の街からやってきた魔法少女が務めているっす」
「あー、なるほど合点がいったでござる」
隣に座るシノバスは納得したようだ。
彼女を追いかけ続けたあの紅い車の魔法少女、それこそが他所の街から派遣されてきたという魔法少女だろう。
「けど怪しいわね、何であなたはそんな事を知っている訳?」
「いや、普通に公式サイトで告知されているっすよ? ほら」
そういってそばかすの少女が見せたガラケーの画面にはこの街の魔法局公式サイトのお知らせだ。
確かにそこにはしばらくこの街の魔法少女が出張に出かけ、その代わりに他の魔法少女がやってくることについて書かれた告知されている。
「……み、見てなかったわ」
「同じくでござる」
「私は……そもそも携帯も持ってないから」
「えぇー……」
「し、仕方ないでしょー! いろいろ忙しかったんだから!」
そもそも告知と言うのも公式サイトのをスクロールして下の方に米印と赤字で表記されている程度だ。
こんなもの、毎日サイトをチェックするような暇人でもなければ気づけないんじゃなかろうか。
「とはいっても掲示板でも結構話題になっていたことっすよ? ニュースでもちらほら……」
「そ、そんな事より! 幽霊屋敷の事が聞きたいんでしょ、いいわ! 話そ話そ!」
ニュースがやっている時間帯などアニメか漫画か宿題をやっているばかりだ。
気まずい事を悟られる前に話題を変える、相手もこちらが本題だからこそ無視はできないだろう。
「とは言ってもあんたは大体のところは知っているのよね、聞きたいのは場所?」
「そうっす、そちらさんは知っているんすか?」
「愚問よ、場所はたぶん猛町15番地にあるお屋敷よ。 江戸時代以前からあるボロ屋敷」
部屋に置いてある本棚の隙間からホッチキスで止められた資料を引っ張り出す。
私達3人が調べた捜査資料だ、そこにはいかにもお化け屋敷ですよと言わんばかりに古びた屋敷の全景写真がプリントされている。
「ふーむ、ここからじゃちょっと遠いっすね。 こりゃ自分だけなら時間かかっていた所っす」
「……質問、私たちがいう事じゃないけどなんでアンタはこの屋敷について調べてるわけ? 誰かに頼まれたの?」
「違うっすよ、これが魔法少女の仕業か確かめる為っす」
「ふーん、確かめて魔法少女だったらどうすんの?」
「まあ、悪さがあって人を脅かすような真似をしているなら懲らしめるっす。 こう、キュッと」
「そ、そう……」
ぞうきんを絞るように空の空間を握った腕を締めるそばかすの少女。
見た目は大人しいが考えは結構おっかない、底の所ではあの赤い特攻服と大差はないのかもしれない。
「そっちこそ、思ったより入念に調べているっすね。 何のためにここまで?」
「ん……だって、魔法少女になったのよ? それなら、人のためになる事したいじゃない。 魔法局だって暇じゃないだろうし、手の回らない小さな事件ぐらいは私たちで解決したっていいでしょ?」
「んー、まあそういう考えもあるっすか……」
「……? あなたは違うの?」
渡した資料をぺらぺら捲りながら、そばかすの少女は気まずそうに視線を逸らす。
妙な子だ、年齢は多分私達と一緒のはずなのに。 幽霊屋敷を探しているのも私たちとは違った目的があるのだろうか。
「ま、情報提供はどうもっす。 3人こよしの所でお邪魔したっすね、それじゃ自分はこれで」
「そうね、一緒に行きましょっか」
「えっ」
「えっ?」
いそいそと資料を戻し、床に座った尻から埃を叩き落として立ち上がる。
そしてぽかんと口を開いてこちらを見るそばかすの少女と瞳が合った、何を呆けているのやら。
「なぁに、遠慮するこたないわ! 目的が同じなら私達が協力した方が絶対早いわよ! ねっ?」
「い、いやでも……そっちのベッドに居る子は? おいていけないんじゃないすか?」
「大丈夫よー! ねっ、笹雪!」
「うん、私の事は心配しないで良いから。 お願い、レトロ」
「――――了解、魔力充填。 魔法少女レトロ、起動」
「ほわあぁっす!?」
笹雪が枕元からスパナとレンチのようなもの取り出すと、今まで壁際にもたれかかっていたレトロが動き出す。
そばかすの少女もこれには驚いてくれたようだ、今までは人形だとでも思っていたのだろうか。
「驚いたでしょ? これが笹雪の杖、レトロの正体は笹雪が遠隔操作するロボットなの」
「うーーーがーーー」
両手をグッと握り、力こぶを作るようなポーズを見せるレトロ。 当然だが機械である彼女にそんなものはない。
笹雪が握っているスパナとレンチはいわばコントローラー、あれに魔力を注ぎ続ける限り笹雪はレトロが見聞きしたものを感じ、共有できる。
「……私たちがね、初めに魔法少女になった時は笹雪の脚が治るんじゃないかって思ったの。 見ての通り、あの子の脚は動かないから」
「……やっぱり、動かないんすか」
「骨まで浸蝕しているらしいわ、動かせば激痛が走るし神経も傷つくって。 だからって両親は笹雪を見捨ててこんな小屋に放り込んだの、酷くない?」
窓の外を見ればあの忌々しい豪邸が嫌でも目に入る。
笹雪の両親は名のある資産家だ、だがそれだけの金があるというのに娘1人とも向き合わない。
「魔法少女になれば治ると思った、歩けるようになると思った。 けど結果はこれよ、それでもまあ……外に出られるだけまだマシなのかもしれないけど」
「もう、紫陽ったら。 私はこれでも十分あなた達に感謝しているんだから、ねえレトロ?」
「うがっ」
「……あの、もう一つ気になってんすけどそっちのレトロさんって自意識あるんすか?」
「ええ、たまに私の予想外の動きをすることもあるわ」
「えぇ……」
――――――――…………
――――……
――…
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、また意識を失っていた。 また奪われた。
剣豪、王様、侍、巨匠、スナイパー。 次は何だ、次に自分は何に変わっている?
目をそらしたい、瞑りたい、いっそのこと潰してしまいたい。
けどできない、そんな勇気なんてない、分かってる。 分かってるから、あのオバケも私を使っているんだ。
段々と意識を失う間隔が短くなってきた、次に私は何に憑かれているのだろうか。
次に私はちゃんと目を覚ませるのだろうか、ああ、誰か、誰か……た す 、け て