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一方そのころ ③

「や、山ー!!」


「ああん、なんだそれ?」


「ダメでござるダメでござる! 我々3人とも集まっているのにこれ以上誰が現れるでござるか!?」


我ら非公式魔法少女3人、既にこの場にそろっている以上合言葉を唱える存在はいない。

つまり扉の向こうに居るのは敵に違いない、一体どうやってここを嗅ぎ付けたのだろうか。


いや、そもそも表の警備員はどうした?

セキュリティの隙や裏道を知っている我々なら潜り抜けられるが、この扉向こうの人物はどうやってここに?

まさか警備員たちを薙ぎ払ってきたわけじゃ……


「どうする、笹雪は安静にした方が良い。 2vs1なら勝ち目はあると思うんだけど」


「駄目よ、聞こえてくる声は一人でござるが裏に何人控えているか……」


「そうでござる、今こそ魔法の使い所では?」


「あっ、そっか。 えーと、問題! “あなた達は何人居るの”!?」


「はっ? 5人だよ、文句あっか?」


アンサーがメガホンで呼びかけると、扉向こうから不機嫌な声が帰ってくる。

そしてその回答に絶望する、2vs5では勝ち目がない。


「くっ……私がここで抑える! 2人は逃げて!」


「駄目よ紫陽、あなただけは置いていけない!」


「そうでござる! こうなればイチかバチか3人で……」


「あーもーしゃらくせー!!」


こちらモタモタしていると荒々しい音を立て、木製の扉が蹴破られる。

差し込む日光を背に入って来たのは赤い特攻服を身にまとった目つきの悪い少女、その肩にはバチバチと稲妻で形作られたような剣を担いでいる。

……しかし、1人だけだ。 5人とは言っていたがそれ以上の人影は微塵も見えない。


「……なんだ、3人だけか?」


「そ、そちらこそ1人でござるか……?」


「あぁん? ……ああそっか、そういう事。 テメェら3人ぐらいオレ一人で……あっ、ちょっ、ま、おまっ! ここはオレに任せあばばばばば!?」


すると、赤い少女は突然首をがくんと大きく揺らし、意図が切れたかのように俯く。

それに合わせて燃える赤かった特攻服から色が抜け落ち、パラパラと崩れ落ちて質素な灰白色のドレスへ変わっていく。


「――――もぉー、セキさんは乱暴すぎるんすよ。 暫く出禁!」


「……はぁ!?」


あっけに取られている間に顔を上げた少女の顔は別人だった。

薄っすらと浮かんだそばかす、黒くぼけた髪色、その顔つきには先ほどまでの乱暴な覇気など微塵も感じられない。


「だ、だ、だ、誰でござるかー!?」


「いやあメンゴメンゴっす、これには深い訳が……」



――――――――…………

――――……

――…



『おい、花子! 何しやがんだ!!』


「なにもかんもセキさんあのまま斬りかかる勢いだったじゃないっすか、はいはい引っ込んだ引っ込んだ」


『あはは、自業自得デス!』


『花子は優しいなぁ、ウチなら“オレにいい考えがある”とか抜かした時にぶん殴って止めてたわ』


『なんとなくこうなる予感はしていたのよね~』


抗議の声を立てるセキを頭の端っこに追いやり、改めて目の前の3人に向き直る。

忍者装束に身を包んだ少女、赤青のスーツに身を包んでメガホンを構えた少女。


そしてベッドから半身を起こしたまま、こちらを睨む薄幸の少女。

病人なのだろうか、緩く質素な服の隙間から覗く肌は白く・細く、漆黒の髪の毛は散髪を忘れたかのように長く伸びている。

部屋の中には紙袋から覗く処方箋や水入りのポッドなども見える、おそらくこの小屋の住人だろう。


「2人とも、退いて……! 私が……っ!」


「笹雪! 無茶しな……ああ!」


「あっぶないでござる!」


私を敵と見做し、薄幸の少女がベッドから体を起こそうとするが、足に力が入らず膝から崩れ落ちる。

あわや転倒という寸前に忍び装束の子が支えてくれたからよかったが、見ているこっちがひやひやする。

こちらからも何か声を掛けようと思ったが、布団が剥がれてあらわになった少女の脚を見て、言葉を失った。


握れば折れてしまいそうなほど細い脚に、無数に突き刺さった赤く透き通った水晶。

いや、刺さっているというより脚から生えているという印象を受けるそれは、照明の光を受けてギラギラと輝いていた。


「……なん、すか。 それ」


「……魔結症、笹雪を蝕む病気の名前よ。 大気中の微細な魔力が勝手に吸収されて体の内側から結晶になって生えてくる奇病……」


スーツの少女が意を決した顔でメガホンを構える。

その後ろでは忍び装束の子も同じく、懐から取り出したくないと手裏剣を構えて臨戦態勢だ。


「“問題:あなたは何をしにここに来たの!?” ことと次第によってはただじゃ……」


「いやいやいや! 自分は幽霊屋敷の件について協力してほしいんすよ、何も今取って食おうって訳じゃないっす!」


「……へっ?」


「自分この街についてあまり詳しくないので、協力できそうな魔法少女を探していたんすよ。 良ければ手伝ってくれないっすか?」


「な……なぁ~~~~~?????」



――――――――…………

――――……

――…



『ん~……花子ちゃん、良かったら替わる?』


(いいっすよ、これ以上交代すると余計に話がややこしくなるんで)


目の前の3人と会話を続けながら、知将の申し出を断る。

これ以上目の前でコロコロ人格が入れ替われば、さらなる混乱を招くだろう。

それにソウさんに任せると余計な話まで引っ張ってきそうだ、彼女達は隣人ではあるが同時に油断ならない強敵でもある。


『でもこいつらもインスタントだろ、どうせ最後にはぶちのめすんだからやっぱ今のうちにだな』


『アホンダラ、そうなら誰に幽霊屋敷まで案内してもらうんや。 あのクルマのねーちゃんか?』


『バカデスねー、でもそういうところがセキさんらしいデス』


『んだとゴラー!!』


(あーもーケンカしないケンカしない、うるさいっすよもう!)


仲が良いんだか悪いんだか、目を離すとすーぐケンカする。

軽いじゃれ合いのようなものかもしれないが大事な話の最中には辞めてもらいたい、気が散る。


『でも花子ちゃん、忘れちゃ駄目よ。 彼女たちもあの錠剤を呑んでいるってこと』


(……分かっているっすよ)


今、巷に出回っている魔法少女変身薬。 その出所は未だ謎だ。

他の魔法少女に問いただしても「拾った」だとか「友達に貰った」だのばかりでバイヤーにたどり着く情報は未だない。

だがこれほどの量が出回るなら友達伝手や拾うだけでは難しい、必ずどこかで直接ばら撒いている犯人はいる。


もし彼女達がそれを知っているのなら……いや、そうでなくとも魔法少女の力で悪事を働いているようなことがあれば。


(その時は自分が、止めるっすから)


……彼女達と戦う未来もあるだろう。

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