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一方そのころ ②

「……幽霊屋敷、っすか?」


『そうそう、この前女子会で面白い話を聞いちゃってー』


頭の中に語り掛けるのはソウさん、私の中に住まう4人の中で最も頭が回るというか……小狡い人だ。

私達の中で最も口が回り、人をだまくらかす術に長けている。

インスタント狩りの時にはそれで助かる場面の多々あったが、たまにその矛先が我々に向いて来るから油断できない。


「ってか女子会って、自分寝てる間に何やってんすか?」


『うふふ、ネット上の付き合いだから~』


寝ている間、私の中に住まう彼女達にこの身体を貸すことがある。

それこそが自分の魔法、杖である携帯電話を媒体に4人の住人と交信、及び人格の交代が出来る。


『情報は杖に纏めてあるから、そっちを読んでね~』


「流石、仕事が早いっすね~」


携帯からメモ帳アプリを開き、「幽霊騒ぎ」とタイトル付けされたテキストを開く。

そこには見やすい文字数と段落明けで綴られた概要文、流石ソウさんといったところか。


「ポルターガイスト、人魂、ラップ音……なるほど、確かに怪しいっすね」


『役満じゃねえか、これだけ情報が集まってんなら気のせいって事もないだろ?』


『怪しさがプンプンするわなぁ、調べて見てええんとちゃうか?』


『多分この近辺デスよね、場所はどこデス?』


「んーと、まだこの辺りの地理には明るくないんすよねー……」


『そうなのよね~、私もそれで困ってたわぁ』


収集された情報から少なくとも場所はこの街の何処かと言う事は分かるが、詳しい住所に関しては情報がない。

検索を掛けてタイムラインを探してみるが、浮かぶ人魂を激写した写真などから位置を割り出せるほどこの街にも詳しくないので困ったものだ。


「うーん、この街の魔法少女達は皆出払っているところっすからねー。 誰に聞いたものか……」


「――――こおおおおおおらあああああああああ!! 待て待て待て待てぇー!!」


「ひーん! 勘弁でござるー!!」


「……ん?」


何かいい案はないかとベンチにもたれ掛かっていると、腹に響くほどのエンジン音を唸られて真っ赤な車体が車道を駆け抜けていった。

ついでに車の先には忍び装束に身を包み、劣らぬ速度で走り抜ける少女も1人。

車はともかく、追われていた少女には見覚えがある。


『おう、さっきのもしかしてこの間のインスタントか?』


「ふぅむ……?」



――――――――…………

――――……

――…



「ふぃー、危なかったでござるぅ……」


なんとかあの紅い車の主を撒き、一人路地裏で息を吐く。

流石に単純な速度じゃ勝ち目がないが、細い路地や障害物を使えばなんとかなる。

それでも片輪走行や川を突っ切ってまで追いかけて来たのは度肝を抜かれたが、もしやあれも魔法少女だったのだろうか。


「っと、こんなことしてる場合ではないのでござる! 遅刻遅刻!」


懐から取り出した懐中時計を見てみれば、予定時刻より10分以上遅れている。

幸いここから距離も遠くない、確かこの路地を抜ければすぐのはずだ。


狭い道の所々に置かれたゴミ箱やダクトを避け、羽のように軽い身体を自在に操り一気に駆け抜ける。

ものの数秒で路地を抜けた先には、いつもの豪邸が自己主張激しく建ち塞がっていた。


見上げるほどの高さまで積み上がったレンガの壁、同じく堅牢に守れた正門の前には警備員らしき人物が2人並んでいる。

だがそっちには用はない、()()()()()()()()()()()()()()()()、跳躍一つで数mの壁を駆けあがる。


無駄にだだっ広い芝生が広がる敷地に着地、目の前には高い塀で隠しきれないほどの豪邸が待ち受けている。

だがこっちにもやはり用はない。


「全く相も変わらずデカい建物でごじゃるねー、自分の娘を放っておいて……」


青々とした芝生をちょっとした仕返しとばかりに踏みしめながら、いつもの目的地を目指す。

聳え立つ豪邸の横に並んだ、小さな小屋。 それほど粗末なものではないが並んで見せられるとまるで犬小屋だ。

とてとてと駆け寄り、扉を3回ノック、一拍待って今度は2回。 これがいつもの私達のサインだ。


「……問題、海!」


「行きたいでござる」


「……山!」


「だるいでござる」


「よぉーし、正解! おっそいわゴザル! 問題:2人して何分待っていたでしょーか!」


「拙者は魔法少女シノバスでござる! ゴザルなどではござらぬ、それに遅れたのは理由があるのでござるよー!」


「でも、無事でよかったわ。 何かあったの、シノバスちゃん?」


「うわーん笹雪(さゆき)殿ー! アンサーが虐めるでゴザルー!」


部屋には予想通り、私を待っていた2人と1()()の姿があった。

メガホンを構えたままぷりぷりと怒っているアンサー、ベッドの脇で微動だにせず人形のように佇むレトロ。

そしてベッドから半身を起こしてこちらに微笑む少女。 


消え入りそうなか細い声、筋肉も無く、日の光を浴びずに白く脱色された肌色は健康的とは程遠い。

名前を喜界島(きかいじま) 笹雪(さゆき)、魔法少女レトロの変身者でありこの小屋の主でもある。


紫陽(しよう)ちゃんもそんなに怒る事はないと思うわ、10分ぐらいじゃない」


「駄目、笹雪! 私たちの活動はひごーほーなんだからね、ちょっとの遅刻が致命的な事になるかもしれないの! あと本名で呼ばないで!」


そしてこちらが大門(だいもん) 紫陽(しよう)、アンサーの変身者であり我々をまとめ上げるリーダー役だ。

ちょっと口うるさいのが玉に瑕だが。


「……で、あんたが何の理由もなく遅れる訳がないでしょ、何があったの?」


「ううむ、実はでござるね……」


そう、玉に瑕ではあるがちゃんとこちらの事情を聴いてくれる冷静な判断力はある。

だからこそ自然と、私達を纏めるリーダー役になったのだが。


「……なるほど、赤い車の魔法少女ね。 他のご同類? でも私たちを追う理由は無いか」


「あれじゃない、かしら? ほら、東京で他の魔法少女を乗せて活躍したって言う……」


「んー、そういえばいたでござるねえ。 拙者ラピリス殿推しなのであまり詳しくは無いでござるが」


車が杖の魔法少女、確か以前に何かの番組で紹介されていた覚えがある。

現在活躍する魔法少女の中で最大サイズの杖だとか、今さらながらもっとちゃんと見ておくべきだった。


「そうなると相手は公式(オフィシャル)、野良である私たちを捕まえに来たって所かしらね」


「でもこの街にはラピリス殿たちがいるはずでござるよ、何ゆえに車の魔法少女まで現れたでござるか」


「ふむ、正解はまだ見えないけど何かあったと私は見るわ。 これは出番の予感でしょ!」


メガホンを握り締め、アンサーが無い胸を張って見せる。

確かに他所の魔法少女が出張し、元居た魔法少女が見当たらないのは少し気がかりだ。


「幽霊屋敷の調査はいったん置いておくわ、まずは3人で協力してこの難問を――――」



「―――――へぇ、お前ら幽霊屋敷の事知ってんだな?」


……アンサーが意気揚々と点にこぶしを突き上げると同時に、その気力を削ぐかのような声が扉の向こうから聞こえて来た。

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