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一方そのころ ①

私の名は槻波影一郎、この東北支部局をまとめ上げる偉大かつちょっとふくよかな腹を持つ男である。

そして最近は健康診断の結果が振るわず、おやつの回数を制限されハートブレイク中である。

いや、それは大した問題ではない。 いや十分に重大な出来事ではあるが今はそれを差し置いても余りある大問題がある。


「どぉーして私は居残りで書類を片付けなきゃならんのかねー!!」


「仕方ないですよー、偉い人が残らないと魔物の対処も大変でしょ? あっ、この大福美味しい」


「偉い人……う、うむまあそうなのだがねってなんで君は私秘蔵の大福を見つけ出してあまつさえ食べ尽くしてるのかね鑼屋クン!?」


「いやーどうせ局長さんは食べられないんでしょう? それともまさかこっそり後で食べちゃうつもりだったとか?」


「うぐっ、そ、そんなことないよチミィー……ただ後々大事なお客さんが来た時などにね」


「だったら臨時で派遣された魔法少女は大事なお客さんですね! 問題なぁい!!」


「誰だねこの子を派遣したのはー! 縁クンぐらいしかいないね、うん!」


それだけの権限と迅速な手回しが出来る人間はこの支部で彼女くらいだろう。

そして当の本人は秘密のリゾート地でバカンス中、支部長の私はこうして書類仕事に追われていると。


「理不尽……理不尽ではないかね、これは……」


「でも局長さんが考えているほど縁さんも暇じゃないみたいですよ、定期的にSNS送られて来るけど愚痴も多いし」


「えっ、私業務用の連絡先しか教えてもらってないのだがね?」


「あっ……」


何かを察した鑼屋クンがさっと目を逸らす。

そうかそうか、さては私と連絡を交換するのが恥ずかしかったのだろう。 そうかそうかそういう事ならば仕方ない、そういう事だよね?


「げ、げふんげふん。 それじゃ私ちょっと見回り行ってきまーす……」


「ほう、精が出るねぇ。 これだけ平和ならたまには休んでもいいのだよ?」


卓上に山の如く積まれた書類の1つに目を向ける。

それはここしばらくの魔法的事件数を示すグラフだ、その折れ線は低い位置でなだらかな線を刻んでいる。

例の錠剤でトラブルを起こす偽魔法少女も現れるものかと思ったが、それ自体も数える程度しか発生していない


「ダメダメ、今までが平和でも明日が平和とは限らないんだから! それに……」


大福に綻ばせていた表情をキリリと結び、鑼屋クンの声のトーンが一段階下がる。

ただし口元にはまだあんこが付いているから台無しだ。


「静か過ぎるわ、魔物の出現ペースにしたって穏やかすぎる。 私は逆に何かが起きているんじゃないかと思うの」


「な、何かとは……一体なんだね?」


「さあ? でも杞憂なら杞憂の方が嬉しいもの! というわけで確かめるため見回り行ってきまーす!」


「はいはい、怪我だけは気をつけなさいよほんと」


最後の大福を口に詰め込みながら、有り余った元気を燃料に少女は部屋を飛び出した。

魔法少女ドレッドハート、その機動力とスタミナは東京でも大いに活躍してくれた。

縁クンたちが帰ってくれば、今度は彼女が入れ替わりで合宿とやらに放り込まれるのだろう、その時まで消耗は避けてもらいたいのだが。


「まあ、それは我々大人の頑張り次第なのだろうな……せめてこの書類の山を何とかするか」


一つ一つ目を通し、署名や判子が必要な物に印を押して行く作業。

ああ、これは甘いものがないと辛い作業だ……



――――――――…………

――――……

――…



≪幽霊屋敷、ですか?≫


「そうなのよロイ、なんか最近ネットで噂になってるのよね」


スイスイとスマホの画面に指を滑らせ、青い鳥のマークが目立つタイムラインを遡って行く。

そこに乗っているのは「幽霊屋敷」と呼ばれる都市伝説のような噂話だ。


「ポルターガイストに幽霊少女、宙を浮く目玉にラップ音……私も偶然知ったんだけど、全部この近辺っぽい話なのよね」


≪なるほど、ではそれは私の仕事ですね≫


「そゆこと、任せたわよロイ。 私はまだこの辺の地理に詳しくないからさ」


ロイにスマホを渡し、車へと乗り込む。

この相棒ならタイムラインに流れる写真や情報から地理情報を把握し、現場の特定など造作もない。

この車が目的地に向け走り出すまで5分もかからないだろう。


≪しかし、どれも噂という程度で確証できるものではありませんね……もしかすればスカの可能性も高いですよ?≫


「それならそれでいい、平和が一番だもの。 あとで笑い話にすればいいわ!」


≪なるほど……オーケイ、そういう事なら任せなァ!≫


「切り替えが速いわね、そういうとこ本当気が合う相棒だわ!」


アクセルを踏み込み、タイヤがコンクリートを削り地を蹴り出す。

カーナビに示されたポイントはやはりそう遠くない、お昼前には終わらせてしまおう。



――――――――…………

――――……

――…



「あ゛ー……皆は今頃リゾートか、いいっすねー」


ジーワジーワとセミが鳴く炎天下、木陰のベンチでだらしなく咥えたアイスキャンディーも油断をすればみるみる溶ける蒸し暑さだ。

今頃師匠……ブルームスターさんたちは海でバカンス中だろうか、合宿とやらは大変そうだけど少し羨ましい。


『なんやだらしないなぁ、心頭滅却すりゃ火もまた涼しや! なんなら代わるか?』


『アホ、この暑さでお前が出ると花子の身体が持たねえよ! オレが出る!』


『2人とも暑苦しいから駄目よ~、ここは私よねぇ?』


『どいつもこいつも碌なのいねえデス、というところで消去法で誰を選べばいいかお分かりデスね?』


「うーん、全員パスでー……ってかアイス食べたいだけじゃないっすか?」


『『『『チッ』』』』


頭の中に響く4人の声とももう付き合いが長い、大体考える事も分かって来た。

いや、元から私から生み出された人格、これくらいなら何となくわかるものか。


「インスタントも最近は見ないっすね、不気味なくらい」


『嵐の前の静けさってやつかしらね~』


そう、皆が合宿に乗り出してからインスタント魔法少女の動きも沈静化している。

当然このまま黙って自然消滅するわけもないだろう、というかさせない。

自分にとってはただ手掛かりが消えるだけだ、この事件が収まってお姉ちゃんが目を覚ますわけでもない。


「なんかないっすかね、自分寝てる間にいい情報仕入れて来たって人―」


『はぁ~い、幽霊屋敷なんてどうかしら?』


「……ほう、詳しく聞かせてほしいっすね」

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