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それぞれの戦果:青の場合 ⑤

「よっしゃタッチー! またうちの勝ちー!!」


「ぐぬぬぬあぁ!!」


背中に押し付け垂れたチャンピョンの掌が、私に敗北の感触を突きつける。

これにて4敗、私が勝ち越すにはとうとう後がなくなった。


「どうする? 一回休憩する?」


「いい、え……このまま、続けましょう……!」


「おけまるー、じゃあ10秒経ったら追ってきてね。 10分過ぎたらうちの勝ちー!」


合図がわりに手首のゴングを鳴らし、チャンピョンがその場から跳び立つ。

木々を足蹴にこの遮蔽物だらけの空間を飛び回るその姿はピンボールのようだ。


機動力ではこちらが上だ、しかし愚直に追っては捕まらない。

チャンピョンを上回る速度を出せば先に私の方が潰れてしまう。

それに私は彼女のような複雑な動きはまねできない、出来るのはただ一つ、最高速の直線で突っ込むだけだ。


「わっははは! 私が勝ったらどうっしようかなー!」


「それを考えるのはまだ早いです……よっ!」


ともかく動き出さないと始まらない、呼吸を整えてからチャンピョンの残像を追って地を蹴る。

制御できるぎりぎりの速度を操り、相手の先の先を読みながら、木々をかき分けて最短で追いつくルートを探す。

幾重にも重なる木々の中、僅かながらこの身体を通すほどの隙間を見つける。

そしてこのままチャンピョンが縦横無尽に飛び交うなら、もうじきその隙間を通過するはずだ。


チャンピョンが通過するその瞬間、最高速で飛びつく。

私の勝ち筋があるならそれぐらいだ、チャンスは一瞬しかない。


流石に二度三度と同じ手を食うほどチャンピョンもバカではないだろう、こちらの目的を悟られないように愚直に追う振りをしながら来るべき好機を待つ。

もう少し、あと少し、その枝を踏めば……


「…………今っ!」


チャンピョンが目論見通りのルートで飛び出したと同時に、全力で樹木を踏みつけて私も跳躍……


……しようとした途端、魔法少女の脚力に耐えきれず、樹木がメキメキと音を立ててへし折れた。


「ほぁあ!?」


足場が崩れた私は勢いが足りずにつんのめり、苔むした土の上に顔から着地する。

ぬかった、チャンピョンの動きに意識を割きすぎて足場のことを何も考えていなかった。


「ラピラピー、だいじょぶ?」


「大丈夫……ですっ!」


上手くいかない、思い通りに体が動かない。

これが直線の動きだけなら簡単だ、全力で地を蹴り飛びかかるだけなのだから。


だがそんな単調な動きを繰り返せば、いくら速かろうとすぐに見切られる。

だからこそ操る術が必要なのに、何故できない。


「着地を柔らかく、それでも樹木じゃ耐えられ……やはり速度を上げるにはしっかりと地に足を……」


「うへぇあ、ラピラピっていっつもそんなこと考えてるの?」


「当然ですよ、失敗一つが命取りの世界なんですから」


逆に何故チャンピョンは出来るのだろうか、彼女も彼女でかなりの高機動力を誇っている。

その上無茶な加速や急転回を行う姿は何度も見た、しかし失敗した回数を数えれば私よりはるかに少ない。

私と彼女で、一体何が違う?


「難しく考えすぎだってラピラピー、もっとこうズバーッといってガーッとすれば行けるよ多分!」


「擬音だけじゃ情報が何一つ得られませんが……というか、まだ勝負中のはずですよ?」


「うん、3分ぐらい過ぎたね!」


そう言う所はしっかり覚えているか、私も数を誤魔化すつもりはないが。

それに油断も無い、立ち止まって朗らかに会話を弾ませているようにも思えるが、私が届く間合いの一歩外以上の距離を常に保っている。


「そんな遠くで話しにくくないですか? もっと近くに寄ったらどうです……かッ!」


「わはは! 知ってた!」


足元から噴き上げた風で土ぼこりを巻き上げ、奇襲を仕掛けるがやはり通じない。

既にチャンピョンは木々と並ぶ高さまで飛び上がっている、今度はブレーキを考えて遅すぎたか。


「難しく考えすぎだなぁ、ラピラピ! そんなんじゃつまらない!」


「面白さは求めてません、必要なのは力を律する事のみ!!」


「違うよそんなん! ただ余裕がないだけさ!」


「……!」


チャンピョンの言葉に動揺し、風のコントロールを失う。

あらぬ方向にそれた体が目の前の樹木に激突する。


「ちょぉー、だいじょぶラピラピ!?」


「大、丈夫……です! なんのこれしきぃ!!」


元より魔法少女、物理ダメージはほぼない。

それよりなんだろう、今何か凄い衝撃を受けたような……


「……そっかい、なら続けるかぁ! あと5分だよ!!」


「分かってますよ! ああもう!!」


時間が速い、もう残り半分を切ったのか。

いよいよチャンピョンに煽られた通りに余裕もなくなり、思わず策も考えずに一歩踏み出した。


「おわっとっとぉ!?」


「……えっ?」


だというのに、その一足は、今日一番チャンピョンに肉薄した。

程よい加速、程よい軌道、私が十分操れる余裕を残してなお指先1本分まで迫る事が出来た。


「あっぶないあぶない! やるじゃん、ラピラピ!!」


「いえ……私は、なにも……いまのは……?」


何か考えた訳じゃない、でも届いた。 届きかけた。

私は今、何をした……?

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