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それぞれの戦果:青の場合 ④

「うーん……うーん……」


「で、なんで詩織ちゃんはこんな事になったんだ?」


「面目次第もありません……」


完全にノびた詩織さんをホテルに連れて帰ると、すぐにお兄さんが対応してくれた。

あっという間に医療系の魔法少女を呼び寄せ、看病を進める姿は流石だ。

気のせいかお兄さんの顔色も良くないというのに、本当によくやってくれる。


「大丈夫、ただバテただけだってさ。 少し休めれば問題ないって」


「本当に申し訳ありません……ほらチャンピョン、あなたも謝って」


「うちは止めろって言ったんだ……」


「この状況でまだ冗談をほざく口はこれですかあぁん!!?」


「だってうちなんも悪くないもーん!!」


「何おう! そもそもの発端はあなたが……」


「はいはい、そこまでだアオ。 本人を差し置いて喧嘩すんな」


「ぬぐぐ……」


当人の詩織さんは今なお額に冷水で絞ったタオルを重ね、ぐったりと横たわっている。

意識のない彼女を出汁にチャンピョンを責めるのは間違いだ、しかし頭で分かっていてもどうもチャンピョンの態度を見ると言葉に棘が付く


「……すみません、少し頭を冷やしてきます。 詩織さんの事を、頼みました」


「あっ、ラピラピー!」


言葉にしがたい後ろめたさを感じた私は、踵を返してその場から逃げ去ってしまった。



――――――――…………

――――……

――…



「むぅ……ラピラピ、なにゆえ……」


「いやお前も悪いと思うなぁ俺は」


「どういうことだぁ火傷のにーちゃん!」


七篠陽彩として相対するのは初めてだが、それでも臆することなくチャンピョンが話しかけてくる。

他の魔法少女もそうだが、その上でこの火傷面を見てここまで平然と接してくるのはこいつぐらいだろう。


「大方お前がアオ達を引っ張り回したんだろ、見ての通りアイツはかなり真面目だからな。 何も考えずに遊ぶって事に慣れてないんだ」


「遊び……慣れない……?」


「お前は信じられないだろうけどな、世の中にはそういう人間もいるんだよ、覚えとけ」


未知の生物を見たような顔をするチャンピョンの額を小突く。

2人の性格は正反対、共に行動すれば衝突するには目に見えて明らかだ、間に挟まれたシルヴァは不憫だが。


「アオには俺から話しておくよ、お前も何の考えも無くあいつを遊びに誘ったわけじゃないんだろ?」


「……………………うん、もちろんだぜぃ!!」


「おい」


「わはは。 まーうち馬鹿だからさー、何か我慢しているっぽいからなんとなく遊べば悩みも吹っ飛ぶでしょって感じでアレしてた」


「うん、うん……まあ、お前なりに考えないながらも理由はあったんだな?」


そういう事にしておこう、でないと余計に話がこじれる。

それにアオが色々我慢しているというのも間違っている話じゃない。


「……ラピラピねー、あのめっちゃ速いの自分でうまく使えないって言ってた。 あれねー、ラピラピはカチッとしすぎなんだ思うんだ」


「ふわっとし過ぎてよく分からないな、悪いがもう少しIQ使って喋ってくれ」


「だからこう、なんて言うかさー。 余裕がない……みたいな?」


「んー……ああなるほど、そういう事か」


言いたい事は大体わかった、しかしそれをどうアオに伝えたものか。

魔法少女でない七篠陽彩が言った所で説得力がない、かといってブルームスターのままじゃ余計な反発を招くだろう。


……いや、反発されるならいっそのことか。 より良い適任がいる。


「チャンピョン、一つ頼まれてもらって良いか?」


「あいあい、なになに? ラピラピと仲直りできる奴?」


「ああ、上手く行けばな。 ちょっと耳を貸してくれ……」



――――――――…………

――――……

――…



「はぁー……」


やってしまった、しかもお兄さんの前で。

そもそも私がチャンピョンに誘いに乗った結果があれだ、責任は私にある。

詩織さんはそれに付き合ってくれただけ、なのにまるでチャンピョンが悪いかのように……


「完全に私のやつあたり、ですね……どんな顔をして会えば」


「おおおおおおおおおおおおおおおい!!! ラピラピー!!!」


「にょっわぁ!!?」


思わず変な声が飛び出た口を手で押さえ、振り返ると遠くの方から駆け寄ってくるチャンピョンの姿が見える。

反射的に逃げ……ようとした体を理性で抑える。 ここで逃げてどうする、むしろチャンスだ。

今謝らなければズルズルと状況が悪化する、むしろここしかない。


「ラピラピー! あのさー、さっきは……」


「ごめんなさいチャンピョン! 先ほどは私の落ち度で……」


「えっ? ああいやいいよいいよ、むしろうちが悪かったぜぃ。 ごめんごめん」


「……はい?」


謝罪のために下げた頭を上げると、チャンピョンも私と同じように頭を下げていた。

いや、彼女に落ち度はない。 むしろ謝るのはこちらの方なのだが。


「無理につき合わせた、うちの都合に。 けどねー、まだうちは満足してない! だからこうしよう!」


「はい? ちょっと待ってくださいチャンピョン、何の話を……」


「鬼ごっこの続きやろうぜぃ! ただし範囲はあの森の中だけ、木より高く飛んだらダメ! 1回ごとに攻守変えて10本勝負!」


チャンピョンが指さした先にあるのは、海岸線を覆うように茂った森林地帯だ。

酷く見通しが悪く、多くの危機が行く手を遮る。 特訓の時もよほど切羽詰って相手を引き離したいとき以外はあまり入る事も無かった。


「うちは遊びのつもりでやる、そっちは特訓のつもりでやればいい。 この条件でどうだぁ!」


「……なるほど、あなたにしては考えましたね」


互いの要求を満たせる条件、というわけか。

フィールドを森で限定したのは今までのやり方に飽きたゆえの遊び心か? まあ、それぐらいなら悪い条件ではない。


「木々より高い跳躍は禁止と言いましたが、実際の判定は?」


「大体だよ大体ー、相手が駄目だと思ったぐらいがアウトってことで」


「曖昧ですね……まあいいです、他の人を巻き込まないようにだけお互い気を付けましょう」


「んー、そこら辺はだいじょぶ。 すでに手回し済みって奴?」


「ふぅむ……?」


やけに手配が良い、失礼だがチャンピョンにしては頭が回り過ぎている。

となれば、これは誰かの入れ知恵だろう。 思い当たる相手は……


「……ああ、そうか。 後でお兄さんにお礼を言わないといけないですね」


「な、ななな何の事かなー!? とにかぁく、準備できたなら行くよ!」


動揺を誤魔化し、手首に巻き付いた小型のゴング型ブレスレットをまくり上げる。

それに合わせ、私も首にぶら下げたペンダントを取り出した。


「ちなみに、10回勝負というなら勝った方には何か賞品が?」


「んーとね、じゃあ勝ったら相手に何でも1つ命令できるってのは?」


「良いですね、では今から楽しみにしておきましょう」


「言うね~~~、うちだって負けないぜぃ!!」


「「――――変身!!」」


そして2人の声が重なり、高らかに鳴らされたゴングが勝負の始まりを告げた。

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