それぞれの戦果:青の場合 ②
「……で、ラピラピはなしてそこまで怒ってるの?」
全身にまみれた砂をはたき落としていると、唐突にチャンピョンが首をかしげる。
熱砂の上に正座をさせられ、なお臆せず接してくる姿勢は見習いたいものがあり見習いたくないものだ。
「……別に、ただ虫の居所が悪かっただけですよ。 あなたへの仕打ちも半分八つ当たりのようなものです」
「実はラピリスは魔法の制御に悩んでいて……」
「シルヴァぁ!」
なんとなくバツが悪いのでそっぽを向いて誤魔化そうとしたが、思わぬところから裏切りが。
掴みかかった肩をガクガク揺すってその舌を止めようとしたが一度語り出した言葉は止まらない。
「ひ、一人で悩んでも仕方ないと我思う! ホウレンソウは大事だって大人は言うぞ!」
「いいんですよ我々はまだ子供なのですから時にわがままの1つや2つ……!」
「ははぁなるほどな、うちは賢いから分かった。 つまりラピリスのスランプ、ラピリスランプってやつだ!」
「ラピリス、刀はダメだ! 仕舞おう!」
いけない、気が立っているところに妙な造語でおちょくられたものだからつい鯉口を切ってしまった。
シルヴァになだめられてゆっくり深呼吸のち、刀を収める。
「ふぅー……ええ、見ての通りスランプですよ。 どこぞの誰かも訓練を投げ出してとっとと遊びに出かけるもので、中々進展もありません」
「ほぇー、いい加減な魔法少女もいるんだねぇ」
「ラピリスよ、深呼吸だ! 魔法少女同士争っても何も生まない!」
つい口から出てしまった嫌味も効かないとは、無敵だろうか彼女は。
つい肉体言語でお話を進めたくなってしまったがシルヴァの説得と鋼の精神力で持ちこたえる。
「うーん……分かった! ならラピラピ、一緒に遊ぼうぜぃ!」
「どういう文脈の繋がり方をすればそんな話になるんですか、遊びませんよ」
「あぁー……そんなんだからそんなんなんだよなあ」
「どういう意味ですか!」
「わはは、教えなーい! そだなぁ、一緒に遊んでくれたら教えてやるぜぃ。 うちが満足したら今度は特訓でもなんでもそっちの気がすむまで付き合う。 どう?」
「ほーう、言いましたねチャンピョン……」
願っても無い申し出だ、一人ではどうしたって出来ることにも限界がある。
それに私の知る限り、機動力の特訓相手ならチャンピョンほどの適任もいない、彼女の要求を飲んで真面目に取り組んでもらえるなら良い取引のはずだ。
「我はやめた方がいいと思う……」
「にゃはは! 決まりだ決まりだ、そんじゃ早速行こうかぁ!」
「あっ、こら! 袖を引っ張らないでください、そもそもどこに行く気ですか!?」
「着いてからのお楽しみに! ほらほらシルシルも行くよー!」
「わ、我も!?」
結局チャンピョンの勢いに飲まれ、二人揃って付き合うことになってしまった。
まあ良い、少しばかり付き合えばチャンピョンも満足するだろう。
その後はしっかり私の訓練も手伝ってもらわねば。
――――――――…………
――――……
――…
「やっほほーい! 皆お待たせー!」
「あら、チャンピョンさん。 今日はお早い……きゃあああああ!!??!?」
「どうしましたの、はしたな……きゃあぁ!! ラピリス様!?」
チャンピョンに引かれるがまま連れてこられたのはホテルの屋上に作られたプールエリア。
南国を思わせる植物が植えられた屋上庭園の中央、設置されたテーブルスペースには白を基調とした上品なドレスに身を包んだ少女たちが待っていた。
「チャンピョン、あの方たちは?」
「んー? あー、うちの学校友達。 菜志多女学院って言うんだけどさー、あそこ魔法少女多いんだよね」
「……たしかそこはかなりのお嬢様学校だったはずですが」
前に一度、魔法局に転校を勧められたときに見せられたリストの中にそんな名前があった事を思い出す。
魔法局の息が掛かっているだけあり、多くの魔法少女が在学しているらしいが、東北を離れる上にかなりの上流階級たちが集う場所と聞いてすぐに断った学校だ。
……しかし、失礼な話だがチャンピョンのイメージとはそぐわない気しかしない。
「うぇへへ、うちの両親がどうせタダで入れるなら一番いい所選んどけっていうからね」
「しかしチャンピョンよ、あの異様な人気は一体……?」
私の後ろに隠れたシルヴァがひょっこり顔を覗かせる。
こうしている間にも向こうから黄色い声が鳴りやまない、菜志多女学院に通うようなお嬢様とは面識がないはずだが。
「ラピラピはさー、結構人気あるんだぜぃ、東京のあれからうちの学校じゃ大ブームなのさ! ブロマイドもあるよ」
「何故……?」
そういって自慢げにチャンピョンが掲げたのは、おそらくあの東京内で撮られた一枚の写真だ。
いつの間に、というかあの濃密な魔力の中で動くカメラがあったのか。 躍動感あふれるその1枚は虹色の枠で縁取りされている。
「菜志多女学院売店限定ブロマイドパック、5枚入り1000円だぜぃ」
「しかもSSRですわ、チャンピョンさんが羨ましい!」
「何やってんですかお嬢様学校」
魔法少女に関連した商品が出回るのは珍しくない話だ、魔法局に登録された公式品ならその売り上げの数%が魔法少女の下へ還元されるのだから。
しかしこれだけ遠く離れた地域に自分のブロマイドが流通していたのは初耳だ。
「ちなみにブルームスターのも同じぐらい人気あるよ」
「むっ、それは聞き捨てなりませんね」
「いいえ、いいえ! 我々はラピリスのお姉さま一筋ですわ!」
「そうですとも! ジャパニーズソードを振るい戦場を駆けるその姿は、あぁ……! 是非ともお掛けになってください、お友達もご一緒に!」
「でかしましたわチャンピョンさん、何か欲しいものはありまして!?」
あれよあれよという間にテーブルに誘導され、目の前の高そうなティーカップに熱い紅茶が注がれていく。
流石皆ここに呼ばれるだけの魔法少女なだけはある、流れるような身のこなしであっという間に飲み込まれてしまった。
そしてこれまた高そうなケーキスタンドに乗せられた宝石のようなケーキが運ばれてくると、他の少女たちが私とシルヴァを取り囲み、目を輝かせて席に着く。
「「「それでは、色々お話を聞かせてくださいませ!!」」」
……どうやら、私はとんでもない安請け合いをしてしまったのではないだろうか?




