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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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それぞれの戦果 ③

「ほわきゃぁ!? み、見ないでぇ! 年増のだらしない身体を辱めないでぇ!」


「いやなんでそんな格好してるんですか、縁さん……」


こちらの姿に気付いた瞬間、顔を真っ赤にした縁さんがジャージのファスナーを一気に引き上げその場にしゃがみ込む。

別にだらしないとも思わないが、むしろデスクワークなのに鍛えているような引き締まった体だ。

しかしあまりじろじろ見てもあとでハクに弄られるのですぐに視線を外す、むしろ気になるのは水着はともかく何故上にジャージを羽織っているのか。


「ううぅ……折角だし海気分だけでも味わおうと思ったけど……勇気がなくて、いつものジャージを……」


「そっちの方が恥ずかしいと思うんですけど」


「ごもっともですぅ……」


仕事のしすぎで頭がハイになっていたのか、水着の上にジャージという組み合わせはなんだか危険な雰囲気を感じる。

この屋上までの道のりで誰とも出会わなかったのか気になるところだ。


「まあ邪魔になるようなら立ち去りますよ、良い月なんでごゆっくりどうぞ」


「ああぁ待って待って! そんな追い出すようで心苦しい! しかも……」


「しかも?」


「……お仕事、まだ残ってるから。 ここにいることが誰かにバレるとまずいかなーって」


縁さんが両手の指を絡ませてバツが悪そうに視線をそらす。

つまり彼女は仕事をサボって抜け出してきたわけか、いつもの激務を考えれば無理もないが。


「……え、えへへぇへ。 美味しいよぉチータラ、お酒もあるよ、七篠君も共犯者になろうよ……?」


「いや、自分は酒は……誰にも言いやしませんから」


「ダメなの、大人はそんな優しい言葉だけじゃ信じられないの! お酒飲もうよぉ一緒に!」


「だぁーそんな格好で暴れないでください! ああもう、酒飲まないでいいなら付き合いますから!」


仕方ない、このまま黙って返してくれそうにはない。

それに放っておくのも危なっかしい人だ、酔ってプールに落ちて明日の朝溺死体で発見されるなんてことも考えられる。

満足するまで付き合って、適当にガスが抜けたところで仕事に返そう。


「うぇへへへ、ありがとね。 ほらほらチータラあるよ、スルメも炙る?」


「肴のチョイスがおっさんくさいなぁ、まあ頂きます……」


縁さんが持ってきたビニール袋の中には乾物やチーズ系のつまみが豊富な種類詰め込まれていた。

元から屋上に設置されていたテーブルの上に広げられた中からスルメをチョイスし、もそもそと齧る。


肴なら当たり前だが塩気が強い、物欲しくなったところにクイッと煽るのが定石なのだろう。

自分は酒を嗜まないから分からないが……それはそうと横から縁さんがじーっとこちらを見つめてくる。


「……えっと、なにか?」


「あ、ああごめんなさい! いやー、料理できる人もスルメ齧るんだなって」


「なんすかその偏見。 酒は飲まなくても炭酸飲料とかたまに飲みますから、その時にポテトチップスとかナッツとか齧りますよ」


「お、おしゃれだぁ……私なら炭酸割をジャーキーで流し込むなぁ」


「縁さんコーヒーもよく飲むでしょう、食生活改めた方が良いんじゃないですかね」


「うぅ、昔は料理しようとは思っていたこともあったんだけど……仕事が仕事だから諦めちゃって、インスタントものばかりになっちゃったなぁ」


細い薬指を弄りながら、縁さんはどこか遠い目で溜息を零す。

いつも同じような白衣とジャージの組み合わせに疲れたような顔つきしか見た覚えがない、きっと家に帰る暇もないのだろう。


「……良ければ、うちの店に来てくれれば栄養バランス考えた定食提供しますよ。 縁さんに倒れられるとアオ達も困る」


「あはは、これでも自分の体調管理ぐらいはしっかりしてますからぁ……でもこれからは利用させてもらおうかな」


「ただ極稀に優子さんが調理場に立っていることもあるんで、祈っててください」


「やだぁ!!」


犠牲になった時の事を思い出し、縁さんが蒼い顔で震えだす。

失礼だがその顔を見てつい噴き出してしまった、魔法局の重要人物とは思えない狼狽ぶりだ。


「……そういえば、七篠君はお酒飲めないんだぁ。 なんだか意外」


「呑まないだけっすよ、万が一優子さんたちが突然倒れでもした時にアルコール入っていたら拙いでしょう?」


「真面目だなぁ、顔に似合わ……ああ、ごめんなさい!」


「あはは、気にしないでください。 むしろ久々で安心できる」


最近はブルームスターの恰好だったり、そうでなくても修羅場を潜った魔法少女達に囲まれていたせいでこの顔について慄く相手も少なかった。

むしろ縁さんのような反応をみると、これが正しいと再確認できる。


「ううぅぅ……ごめんね、ごめんねぇ。 葵ちゃんにも咎められて、謝ろうと思ってたのに」


「その気持ちだけで十分ですよ、気にしないでください。 むしろそのまま仕事に支障が出る方が困る」


「お、お仕事も頑張ります……」


肩をすくめて縮こまる縁さん、こうしてみると本当に年上とは思えない。

……そういえば縁さんの実年齢って何歳なのだろうか、細かい数字を聞いた事はないし大体の憶測でしかないが。


「……七篠君、今何か失礼なことを考えていたのでは?」


「ははは何の事やらさあてそろそろ戻りましょうか早く寝ないと明日に支障が出るでしょう」


流石心理学者、心の機微には敏い。

火傷で引きつった下手な笑顔で誤魔化してその場を立つ、時刻ももうじき深夜を回る。

ふと、納得のいかない顔で片づけを始める縁さんの手元を見ると、すでにビールが3缶開けられていた。


時間にして10分も無かったはずだが、色々な意味で大丈夫だろうかこの人。


「……縁さん、大丈夫ですか? 自分の部屋までちゃんと歩いて帰れます?」


「ばっかにしてくれちゃってぇ! 私の方がお姉さんなんですからね、ほらこの通り大丈夫大丈夫!」


その場でぐるぐる回り、酔ってないアピールを見せる縁さん。

しかしやはりアルコールが効いているのか千鳥足気味だ、嫌な予感がする。


そしてその予感は的中し、ふらふらした足取りの縁さんは背後のプールへ段々と近づき……


「って、ちょっ! 縁さん後ろ後ろ!!」


「へぇ? ……わわわわぁ!?」


気付いた時にはもう遅く、駆けだした足は間に合わず。

ドッポーンと派手な音を立てて舞い上がった水飛沫は2人分のものだった。

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