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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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水も滴るシンデレラ ⑦

「ぐ……は、ぁっぁ……!」


「ふぅ……ふぅ……な、中々のお手前で……!」


鬱蒼とした森の中、鳩尾を突かれてもんどり打つ俺と泥まみれのツヴァイが転がる。

流石に強い、何度か組み手を行ったが幾らやっても皮一枚が届かない。

これと言って派手な強みはないが、この障害物だらけのフィールドに邪魔されることなく振るわれる棍が的確に急所を付いて来る。


「ちょっとお待ちなさい、今私の事地味だのなんだと思いませんでした!?」


「馬鹿言え、褒めてんだよ……」


「ならよろしいですわ、あなたも私のクールビューティが分かって来たようですわね!」


《チョッロ》


脳内で囁く相棒に思念だけ送って戒める。

あの東京攻略戦に参加しただけのことはある、ツヴァイの強みは「技」だ。


棒を自分の体の延長のように、時には精密な射撃や徒手空拳も織り交ぜながら変幻自在に立ち回る。

自分の思った通りに身体を動かせる、その厄介さは今身をもって散々体験したところだ。


「ゲホッ……だが掴めてきた、次こそは……」


「こちらもまだ本気ではありませんわよ、園がいればまだ奥の手が……」


「いやいやこっちだってまだ奥の手が」


「いやいやいや私だってまだまだ隠し玉の1つや2つ」


「「……………………」」


「……ま、不毛な争いはこの辺にしておきましょう。 第一の目的はあの“赤”ですわ」


「ああそうだな、つっても今のところまるで進展はないが」


召喚したスマホを操作し、ホーム画面のアプリをさっと見渡す。

基本的にブルームスターの能力はこのアプリで管理され、必要に応じてハクが呼び出しを行っている。

最新のアプリは黒衣の隣に置かれた、ハク特製のタイマーアプリだけだ。


「……思えば、あの時だけの力だったのかな」


「魔法少女の力は心の力、出来ると思えば不可能はありませんわ。 あの時何か、特別な行動など行った記憶はありませんの?」


「特別な事か……」


そもそも魔力が濃い東京という状況自体が特殊なものだ、それが条件だと言われればもうどうしようもない。

他に何か理由があるとすれば……。


「…………いくつか心当たりはある、けど喋らないと駄目か?」


「可能性はすべて確かめないと話になりませんわ、話してくださいまし」


「そっか、そうだよなぁ……」


仕方なく俺は歯切れが悪いまま、あの時ペストマスクの肉塊に押し潰された時のことをツヴァイへと話した。



――――――――…………

――――……

――…



「……なるほど、では少しのあいだ目を瞑りなさいブルームスター」


「やめろクールビューティ、そういうことは安売りして良いもんじゃないぞ」


「それで仲間が強くなるなら後悔はありませんわ! 大丈夫、天井のシミを数えている間に終わらせますの!」


「ねえよ天井! 吹き抜けるような青空だよ!!」


「雲の数を数えなさい!!」


話したくない事を話すと、ツヴァイは覚悟を秘めた瞳で顔を近づけて来た。

そのままギャアギャアと取っ組み合いになるが、模擬戦の直後ということもあり互いにすぐ息が上がる。


「はぁ……はぁ……ベーゼでないとするなら……考えられるのは、もう一つですわね……」


「ぜぇ……ぜぇ……あれか、黒騎士の……」


「ええ……あなたもご存じの通り、魔石を使う魔法少女は稀に居ますが……その中でも、直に取り込むというのはかなり稀少な能力でしてよ」


するとツヴァイは呼吸を整え、懐から黒く汚れた色合いの魔石を取り出して見せる。

俺の手元にある木っ端の魔物から得た魔石より一回り大きいくらいだろうか、500円玉ぐらいのサイズはある。


「これで大体値打ちが5万円ぐらいですわ」


「ごまっ……!?」


「ええ、あなたの回復リソースは1度におよそ十数万円は溶けていますわ」


初めて蜘蛛と戦った日から、一体どれだけハクに魔石を食わせて回復を頼んだだろう。

今手元に残っている魔石は小粒のものがいくつか残っているぐらい、十万どころか下手をすれば百に届くんじゃないだろうか。


「な、なんでそんな高いんだ……?」


「魔力という存在を解析できる貴重なリソース、兼チェンジャー式の杖となる素材になるからですわ」


「杖になるのかこれが……」


「よほど高純度のものでなければ難しい話ですけども、杖に及ばない純度のものでもサポートアイテムくらいは作れますわよ。 あのヴァイオレットが扱うゲームカセットも元は魔石でしてよ」


「あれもか、なるほど……」


チェンジャー……後天的な魔法少女の強みはその拡張性にあると、二刀流を得たばかりの頃にアオから鼻息荒く語られたことを思い出す。


《なるほど、拡張MODってことですか》


「身も蓋もないな……って待てよ、そもそもそのアイテムって誰が作っているんだ?」


「科学的に魔法を操るすべはない、なのでもちろん魔石の加工や杖の作成はその分野に特化した魔法少女の仕事ですわ。 それと縁女史含め一部のスタッフも」


「縁さんが?」


思い返せばあの人も魔力学の権威、杖の加工となれば当然関わっていてもおかしくない人材だ。

けど……いつもの雰囲気を考えると失礼だがその風景が想像しにくい。


「魔法少女の杖とは心の現身、後天的に得る杖は逆に魔法少女の心と同じ形に成型するものでしてよ。 そのために少女から十二分なヒアリングを行い、本人も分からないような心象を切り取る」


「それって……かなり凄まじいことじゃないか?」


「ええ、人の心理と魔力に対する十分な理解がなければ到底不可能な御業ですわ。 おそらく縁女史が欠ければチェンジャーの生産は滞りますわ」


「それは……不味いな」


「不味いですわよ……さて、話が反れましたわね。 重要なのはあなたが取り込んだ魔石がどれほどの純度かと言う事ですわ」


「えーと、大きさはこのくらいで……あと色もかなり透き通っていたと思う、少なくとものその5万の魔石とは比べ物にならない」


あの時の状況を思い返して身振り手振りで当時の情報を伝える。

当時はそこまで眺めるような余裕もなかったが、思い出せば美しい魔石だったと思う。


「……まあ、間違いなく杖に至る純度のものですわね」


「だよなぁ、そんな希少なものを取り込んだわけか……」


「それですわね、恐らくあなたが黒騎士の魔石を取り込んだことがトリガーですわ」


ツヴァイが棍の先端をピッと俺の鼻先につきつける。

黒騎士の魔石を取り込んで得た力、だとすれば……


「……もう一度同じような魔石を取り込めばあの姿になれるか」


「難しいですわね、そもそも高純度の魔石というものが稀少ですから。 それに……ロウゼキさんには申し訳ないですけど、あの赤への到達は一度諦めた方が良いかもしれませんわね」


「どうしてだ、魔石さえあれば可能性だってあるじゃないか」


「あなたの体が心配ですわ。 それほどの純度の魔石を何度も取り込んだ記録なんて過去には無い、正直言って何が起きるか未知数でしてよ」


そこでツヴァイは一度言葉を切り、じっと俺の瞳を見つめ返す。

黒曜石のような色を湛えた黒い瞳は実に真剣に、そこまで深い仲でもない俺の体を案じてくれているようだ。


「……下手をすれば、命の保証がありませんわよ」


「―――――……」


反射的にもこぼれかけた言葉を抑え込み、嚥下する。

“構わない”なんて言えば、彼女たちは本気になって怒るに決まっているのだから。

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