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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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水も滴るシンデレラ ⑥

「うん、あのなぁ。 うち別に怒っとるわけやないよ? ええやないの少しくらい遊んだって罰も当たらんわ」


「はい……」


「猛省しているであります……」


「うん……せやから怒ってへんよ?」


困り顔で人差し指を顎に当てるロウゼキの前に、俺含めてビーチバレーに関わっていた魔法少女たちが正座している。

何故こうなったのかというと何故こうなったんだろう、ただロウゼキの姿が現れると自然と皆姿勢を正して正座していた。

はじめにコテンパンにやられたのが相当なトラウマだったのか、隣に座るジャベルは先程から死んだ瞳で冷や汗を流すばかりだ。


「……おいジャベル、お前どれだけ手酷くやられたんだ?」


「聞くな! あの人には……あの人にはアタシの全てがまるで通用しなかったんだ……!」


「……ふぅ、初手で皆脅かし過ぎたなぁ。 ええよええよ、そういうならペケ1つ、これこなして貰おか」


「うべっ! ……な、なんでありますかこれは?」


「それぞれの特訓内容、ただしイクスはん達は少しきつめに手直ししたわ。 頑張ろうなぁ」


顔にべしっと放られたのはホッチキスで止められた十数枚の書類。

ぺらぺらとめくるとそこには魔力がどうとか脚運びが悪いとかと文字・イラスト・グラフを使ったダメ出しが並んでいる。


「……これ、まさか全員分の弱点を洗い出したのですか?」


「せやよぉ。 ラピリスはんは攻撃の間合いと、加速の制御ができとらんなぁ。 シルヴァはんは魔術を起こすまでの隙、ブルームはんは……まあ色々と」


「俺だけ色々って」


「伸び代があるって話やでー、そんな感じで皆の分纏めて来たから目通しといてな。 全員に配るから一列に並んでやー」


そういってロウゼキが呼びかけると、他の魔法少女達がつらつらと列を作る。

まさかとは思うが、俺たちがビーチバレーを始めるまでにこの人数、この量の文章を?


《……マスター、私あの人には一生勝てない気がします》


「同感だよ、なんべんやっても勝てる気がしねえや」



――――――――…………

――――……

――…



「……で、ここに来いって言われたけど」


ロウゼキに渡された書類を読み、この無人島のマップに赤い点で示された場所までやって来た。

周囲は鬱蒼とした雑木林だ、背高く立ち並ぶ樹木の密度は南米のジャングルとも錯覚させる。


ブルームスターの姿では余計に視点が低いこともあり、視界が悪い。

こんな所に呼び出してどうするつもりだろうか。


《しかしマスターの弱点って何ですかね、色々思い当たる節はありますがそこには何と?》


「えーと、待ってくれ。 これ結構量があってな……」


「――――おや、あなたですのねブルームスター!」


「んっ?」


書類に目を通していると、がさがさと草木をかき分けて見知った顔が現れる。

ビーチサンダルに黒と赤のツートンカラーで仕立てられたパレオビキニ。

黄色いサングラスに阻まれて貌こそ見えないが、そのお嬢様を気取ったような喋り方には覚えがある。


「えっと……ツヴァイ(姉)だったか?」


「ええ、そうですわ! お久しぶりですわね、と言う事は成る程……あなたがわたくしの相手ですのね」


そうしてどこからか見覚えのある金属製の棍を取り出し、軽く旋回してみせる。

顏と格好は一致せずともその武器捌きとお嬢様気取った口調に間違いはない。


「私、ロウゼキさんの手伝いをしていますの。 つまりあなたのトレーニングパートナーというわけですわ」


「パートナー? ……ああそっか、確かに似てるところはあるよな」


棍と箒、同じ打撃系の武器で近距離主体の魔法少女同士だ。

魔法を使った多彩な戦いというよりもフィジカルに寄った戦闘スタイル、確かに学ぶことは多いだろう。


「そういう事ですわ、ついでに言えば私はあなたの戦い方についてロウゼキさんからいくつかの課題を授かっていますの。 まずその課題を解消する事が目的の1つですわ」


「分かった、よろしく頼む。 他には?」


「察しが早くて助かりますわね、私が授かった使命はもう一つ」


途端、肌を刺すような闘気が発せられる。

ロウゼキが放つ様な禍々しいものではないが、魔力を伴わない純粋なオーラがチクチクと刺さる。


「……あなたが見せたあの“赤”を、もう一度引き出す事ですわ」



――――――――…………

――――……

――…



神様、私は何か悪い事をしたでしょうか。

思い当たる節は沢山ある、けどここまでの罰を受けるほどかと言われると抗議したい。

今からでも夢という事で手を打てないだろうか? 頬を抓ってみるが無情な痛みが現実を突きつけてくれる。


「ほな、ゴルドロスはんはうちとがんばろかー」


「ヤダー!!!」


場所は先程と変わらぬ浜辺、違うのは周囲に魔法少女が1人も残っていないと言う事だ。

皆巻き込まれるのを恐れて早々にこの場所を後にした、なんて酷いことだろう。

本当に、なんで私の相手がよりにも寄ってあのロウゼキさんなんだろうか。


「命だけは……命だけはお助けを……いくら払えばいいのカナ……?」


「困らん位には稼いどるからなー、そないに畏まらなくてもええよ?」


「さっきの今で何言ってるのサー!!」


忘れもしない、3人がかりで手も足も出ずにあしらわれ、撃ち込まれた光弾の恐怖を。

しかも念入りに何発も、脳天まで痺れるほどのあの痛みは今なおはっきりと思い出せる。


「せやかて、それならこのまま一人で置いてけぼりになってもええのん?」


「うぐっ、それは……」


痛いところを突かれて言葉に詰まる。

日に日に広がるサムライガールたちとの実力差、それに焦りを覚えてない訳ではない。

私の戦闘力というのはどうしたってストックの魔石と取り出した武器に比例する。


人が創った重火器というのは殲滅力に優れてはいるが、魔物の中には容易くこれを躱したり、そもそも通じない相手も少なからずいる。


……知恵を持つ人間、魔法少女が相手なら尚更だ。

私の限界は魔法少女に通用しない。


「阿呆やなぁ、鉄砲もっとる魔法少女なんてぎょうさん居るわ。 むしろうちはゴルドロスはんを評価しとるで?」


『モッキュ!』


「ロウゼキさ……モッキュ?」


俯いていた顔を上げると、いつの間に連れて来たのかロウゼキさんの手の中には暑苦しい毛むくじゃらの生き物、つまりバンクが抱えられていた。

確かホテルで縁と一緒にお留守番していたはずだったが。


「うちが連れて来たんよー♪ かわええなぁ、本気出すにはこの子が必要なんやろ?」


「えっと、それはそうだケド……まだ動作に安定性がネ?」


「そのために特訓やさかい、出来るようになるまでうちがずーっと付き合うわぁ」


「あ、あはは……」


……やっぱり、私何か悪いことしたのカナ?

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[一言] 悪いこと……? 冷蔵庫の中とか盗み食いした? 無いか。
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