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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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サマーウェイブ・バケーション? ⑦

「が――――!?」


《マスター!?》


「なんや、遅いなぁ。 そないなもんやないやろ?」


何が起きたのか分からない、ロウゼキが手首を気だるげに振った次の瞬間には拳が飛んできていた。

反射的に箒を振るが、破れかぶれの攻撃など片手で受け止められ、そのまま握り潰された。

たまらず後ろに飛んで距離を取るがここは海辺、考えなしに後退した足元はくるぶしまで波に浸かってしまう。


「脆いなぁ、杖にしては脆すぎるわ。 幾ら量産できるというても……なぁ?」


「おま……いきなり何しやがる!?」


「言うたやろ、あんたの実力見せてみぃって。 お喋りしとる余裕はないと思うけどなぁ」


言いながらもロウゼキは袖口から1枚のお札を取り出すと、それは陽炎のように揺らめき西洋剣へと形を変える。

柄の部分が円形に大きく膨れ、手元をカバーするそれは確かマインゴーシュという剣種だったか。


――――そしてその剣先はバチバチと放電している。


「まずっ……!?」


「――――雷閃」


ロウゼキが剣を海へと突き立てるより一瞬早く、俺は慌てて水面を蹴って飛び出す。

間一髪を免れた海面には眩いばかりの電撃が迸り、浅瀬を泳いでいた魚が腹を向けて水面に浮かんでくる。

反応が少しでも遅れていたら自分がああなっていたことだろう。


「下手に飛び出したらあかんよー?」


「まあそうくるよ……なっ゛!」


だが後先考えずに飛び上がれば、当然身動きの取れない俺への追撃が飛んでくる。

頭一つ分高く飛んだロウゼキが蹴撃を振り下ろす、箒で防御を取るが気休め程度にしかならない。

再びあっけなく砕けた箒と共に、俺の身体が電気が流れる水面へと蹴り落とされ――――


≪―――――――IMPALING BREAK!!≫


「……うん、やっぱそれ便利やなぁ」


「言ってる余裕あるのかよッ!!」


水面に触れる前に、素早く取り出した羽箒を全力で吹かして寸でのところで浮き上がる。

この状況、制空権ならこっちが握っている。 今度は俺たちを蹴り墜としたロウゼキが中空で無防備な状態だ。

箒の角度を上げ、ロウゼキ目掛けて突撃する。 流石にドクターでもなければ無傷じゃ済まないはずだ。


「“飛行能力”ってのは結構珍しくてなぁ、けどそれ使(つこ)ても正直に突っ込んどったら……」


「分かってるよそんな事ッ!」


当然、こんな愚直な突撃などロウゼキならば目を瞑っていても捌けるだろう。

だからこちらは多少身を張ってでもその積み上げられた経験の虚を突く。


《――――ハクちゃんタイマーオーン!!》


構えていた奥の手を切った瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「――――――っ」


「ようやく表情崩したなぁオイ!」


それはロウゼキの視界を塞ぐには十分すぎた。

飛びかかる箒の上から更に跳躍し、黒炎を突き破ってロウゼキに組み付く。

この間合いならさっきのような変な札を取り出す暇も与えない、そして重力に逆らえない2人の身体は自然と落下する。


―――――未だ電気が迸る水面へ向けて。


「その黒いのかぁ、考えたなぁ。 けどこれぐらいすぐに引き剥がせ――――」


「いいや、そんな時間はねえ」


黒衣の膂力で何とかロウゼキを抑えこめている俺の背に鋭い衝撃が走る。

それは先程飛ばした羽箒、勢い余ってすっ飛んで行った箒をすぐに180度転換させ、わざと自分の背に突き当てた。

ロウゼキが俺を引き剥がす暇もなく、諸共あの水面へ突き落すために。


《あの、ちょ、マスター? 電撃はちょっと私も辛いものがあるんですがそれは》


「一蓮托生」


《ああ、この人やっぱ水着の件まだ根に持っていらっしゃいますねチキショー!?》


相棒の心地いい断末魔と共に、3人纏めて気絶した魚たちが浮かぶ水面へと激突する。

布団に包まれたコンクリートにぶつかった様な手応えと、高く打ち上がる水飛沫。

そして何度喰らっても慣れないあの全身を突き刺すような電撃の痛みが訪れ……ない?


「……うん、そこまで無茶するとは思わんかったからなぁ。 そもそもうちが放ったもんをうちが止められないはずがあらへんわ」


水飛沫が雨のように振りかかる下、浅瀬に押し倒された格好のロウゼキが薄く微笑む。

びしょ濡れになって張り付いた衣装と髪が元から持っていた妖しい艶やかさを一層引き立てる……が、今はそんな事を気にしている余裕はない。

ここから先のプランは全く考えていなかった。


「けどまあ、ある意味予想通りやな。 正義感だとか、誰かのためとか、そういうもの以前に捨て身過ぎるわブルームはん、折角ええお顔してはるのに傷ついたらもったいないわぁ」


「……いきなり鼻っ柱殴っといて良く言うよ、人を試すにしても心臓に悪い」


「ふふふ、堪忍え。 本気出してもらいたかったからなぁ、ああ鼻血まで出て……」



「―――――2人とも、何しているんですか?」


酷く冷たいその声で、背中に氷を流し込まれたような悪寒が走る。

ギギギと油のキレが悪い首をゆっくりと旋回させると、浜辺にはしっかりと腕を組み、絶対零度の視線でこちらを見下すラピリスの姿があった。


「……ら、ラピリス? どうしてここに?」


「あなたが心配で見に来たんですよ、でもまあその様子だと何の問題も無いようですね」


「えっ、いや、あのそのこれは」


「せやなぁ、もうブルームはんったら熱くて激しくて」


「変な事言うなよ!?」


「そうですか、鼻血まで出してまあなんともお楽しみだったようで」


ラピリスがじろりと見下す先にあるのは、鼻血を垂らしながらロウゼキを押し倒す俺の姿。

見た目はまだマシだが中身は成人男女が取っ組み合っているだけだ、絵面が非常に不味い。


「ふーーーーーーーーーーん、そうですかーーーーーーーふーーーーーーーーーーーん?」


「ら、ラピリス? どうした、何か怖いぞ?」


「うふふ。 いややなぁ、嫉妬しとるん?」


「ははは何をそんな馬鹿な事を、ロウゼキさんも試験とやらが終わったのなら早く皆の所へ戻りましょう。 まだやる事があるのでしょう?」


「あ、あれ……?」


意外だ、てっきり今の流れからして刀を抜いて襲い掛かって来るものかと思っていたが。

まあ俺の中身を知らないラピリスから見ればただの女の子同士の取っ組み合いだ、別段目くじらを立てるようなものでもなかったということだろうか。


「せやなぁ、あまり待たせるのも気の毒か」


「ええ……ところで後で魔法少女同士組み手を行う機会はありますか?」


「いややっぱ怒ってるだろ!?」


「いいえいいえ、怒ってなんかいませんよ。 ただ貴女とは一度思う存分戦りあってみたかったもので」


表情こそ笑ってはいるがラピリスの笑みからは喜びの感情が微塵も感じられない。

それはロウゼキのものとはまた違う、芯から冷える恐怖を感じさせるものだった。


……俺はこの合宿から生きて帰ることができるのだろうか?

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