オレたち参上 ⑦
「……で、逃がしたというわけカナ?」
「面目ありません……」
「堪忍やぁ、許してな」
シルバーガールと共に損壊した街の修復を続けていると、のこのこ戻ってきた2人が申し訳なさそうに戦果を報告した。
錠剤に手を出したと思われる魔法少女3人組、その全てを逃した上にさらに遭遇したブルームスターと謎の魔法少女をも取り逃がしたと。
何というありさまだ、まあブルームスターについては逃げてもらった方が助かるけど。
それはそれとして、また新しい女の子引っ掛けていることに関しては詳しい話を聞きたいけどっ。
「サムライガールはともかくロウゼキさんも付いて居ながらとはネ、こんな事なら私が追えばよかったカナ」
「いえ、ゴルドロスだと機動力が足りません。 この中では私が適任だったかと」
「むー、皮肉が通じないやつだネ!」
「それより修復を手伝ってくれぬか2人ともぉー……」
私たちがじゃれ合っている間も、シルバーガールは黙々と壊れた街の修復を続けていた。
しかしそれはひび割れた箇所にパテを埋め込み、崩れそうな場所を太いツタやイバラでぐるぐるに巻いて補強したような拙さが目立つものだ。
あくまで応急処置、一応もう少しまともに修復されている部分もあるが、完成品は定規を使わず描いた絵のようにガタガタだ。
「初めは丁寧に直していたが途中から即興の処置に切り替えた、と言う所でしょうか。 良い判断ですね」
「ううぅ……まさにその通りだともラピリスよ……」
「まあ後は大人たちに任せるしかないネ、しっかし――――」
――――ドクターが居れば、危うく口から零れかけた愚痴をぐっと飲み込む。
確かにドクターが抜けた穴は大きい、しかしそれは意味のないたらればだ。 空気が余計重くなるだけで利益がない。
「ろ、ロウゼキさんはどうにかできないカナ、修復とか!」
「……うちは壊すのは得意やけど直すのはからっきしやなぁ、それこそ専門の魔法少女でも連れてこぉへんと」
「ソッカー、ソダヨネー……」
苦し紛れなキラーパスで危うく飛び出しかけた爆弾を引っ込める。
代わりのパスを受け取ったロウゼキさんは心ここにあらずというような受け答えだ、今まで崩れる事のなかった笑みもいつの間にか消え失せている。
「ブルームスターが連れた少女を見つけてから少し様子がおかしいですね、失礼ながら彼女とは何か面識が?」
「うん、あるなぁ……あの子はな、うちの大事な友達の妹さんなんよ」
――――――――…………
――――……
――…
「……ふー、ここまできたら安心だろ」
「いやー、面目ないっす。 やっぱり飛べるって便利っすね!」
ラピリス達から一目散に逃げだした俺たちは、そのまま羽箒に乗って悠々と空の旅へと漕ぎ出していた。
箒の柄に立ち、周囲を警戒する俺の後ろでは、穂の上で器用に横座りする花子の姿もある。
眼下に広がる街では道行く人たちが俺たちを見上げ、時たま愉快な相乗りをその手に持った携帯で撮影していた。
「あー、これまた変な噂になる奴だぞ」
《いいじゃないですか、またマスターを覚えてくれる人が増えますよ》
「それはそれで複雑だな……ってそうじゃなくて」
気まずい方へそれかけた話を咳払い一つで引き止め、改めて背後に座る少女の方へと向き直る。
「えっと、花子ちゃん……だっけ? さっきの魔法少女……ロウゼキ、さんと面識が?」
「……もちろんあるっす、お姉ちゃんと一緒にそれなりの交流が」
「なら尚更さ、俺なんかより魔法局を頼った方がいいだろ。 そうしない理由は何だ?」
「…………」
東京事変で見た垣間見たロウゼキの実力は本物だ、俺みたいなまがい物とは質が違う。
しかも良好な交友関係にあるというのなら、そうそう簡単にあしらわれることも無いはずだ。
ならばそこには理由があるはず。 少しの沈黙を待つと、少女はゆっくりと口を開き始めた。
「……お姉ちゃんのことはさっき話したっすよね」
「ああ聞いたよ、家に帰ったら台所で……」
「すでに昏睡状態だったっす、その時に錠剤がテーブルの上に散らばっていた」
先ほど聞いた話を彼女は繰り返す。
その後は病院に担ぎ込まれ、今なお眠っているはずだ。 だからこそ彼女は姉を救うために今ここにいる。
「――――姉が入院したあと、家に帰ったら1粒残らず錠剤は綺麗さっぱり消えていたっす」
「……それは、誰かが片付けたとかでなく?」
「現場は警察が保護していたっす、それに割れたコップや水溜まりはそのままだった。 なら何故錠剤だけ?」
それは確かにおかしな話だ、現場保全が必要なら如何にも怪しい薬だけを片付けるような真似はしない。
サンプル目的なら1つ2つは回収してもすべて残さず回収する必要はない、むしろこれは……
「証拠隠滅か?」
「おそらくは、そして現場はすぐに魔法局の人が駆け付けて封鎖していたっす」
警察が保護し、魔法局が封鎖した現場。
他人が悠々と入り込める場所ではない、もしも薬の売人が証拠となる錠剤を回収したのなら――――
「――――錠剤の売人は、魔法局と関わりのある人物の可能性が高いっす」
――――――――…………
――――……
――…
『……上手く言ったな、けど随分舌が回るようになったなぁ花子。 アイの入れ知恵か?』
『うふふ~、本人の才能よ~。 私はちょっとだけアドバイスしただけ~』
『寝言は寝てから言ってほしいデスね、やっぱりアイちゃんは信用ならねーデスよ』
「はいはい、仲良くするっす。 まったくもーセキさんはまた勝手に人の身体で喧嘩するし」
『そ、それについてはあれだ、そのぉ……ごめんなさぁい』
自分の事情を話すと、ブルームスターさんの協力は無事に得られた。(サインももらえた)
やはり彼女は良い人だ、そこに付け込む形になるのは少し良心が痛むが、自分も四の五の言っていられない状況だ。
十角さんには頼れない、あの人はともかく今の自分は魔法局そのものが信用できないのだから。
それにブルームスターさんにも黙ってはいるが、自分には隠している事情がもう一つある。
『セキが暴れたせいで余計な消費が増えたなぁ、あとどれだけ残っとる?』
『最近“同類”からの収穫も少ないデスからね。 貴重に使っていきたいとこデスよ』
「そうっすね、ひぃふぅみぃ……残りの錠剤は10粒ってところっすか」
懐にしまっていた小瓶を取り出し、その中の粒を1つ1つ数える。
それは姉を昏睡させた忌々しい仇であり、犯人の尻尾を辿る貴重な証拠。
そう、犯人も1つ大きな見落としをしていた。 テーブルに散らばっていたものとは別に、姉の引き出しの中にはまだ少量の錠剤が残されていたのだ。
――――だからこそ、私は魔法少女として今ここにいる。
これが十角さんに頼れないもう一つの理由で、誰にも話せない自分の秘密。
私も錠剤の力を借りた魔法少女なのだから、きっと見つかったら止められてしまう。
「……心もとないっすね、見つけ次第他の魔法少女から回収したいところっす」
『センパイは暫く謹慎ね~、これ以上無駄に消費されたら私達が困るもの』
『はぁー!? お前ー、この中で誰が一番強いと思ってんだ!!』
『そりゃまあもちろんウチやろ?』
『何言ってんデス、私に決まってるデスね!』
携帯から流れる長引きそうな口論をマナーモードで聞き流し、昼下がりの街を警戒しながら歩きだす。
周囲に目を配りながら、薬を手にした魔法少女はいないかと。
……ああそうだ、次にブルームスターさんに会うまでに私達の魔法少女名も考えておかないと。




