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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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オレたち参上 ②

「Hey、とりあえず話を聞きたいんだけどいいカナそこのチャイナガール?」


「えーと……拒否権はあるんかなーって?」


「返答が鉛玉になっても良いなら好きにすればいいヨ」


東京から帰ってから十分支給された魔石を糧に、テディの腹から手ごろなハンドガンを取り出す。

互いの距離は3mほど、得物のリーチならこちらが圧倒的に上だ。 もし彼女が飛び掛かってきても私の引鉄の方が速い。

相手の斧が見た目通りのリーチならば、の話だが。


「せやなぁ……うちとしては一度本物の相手もしてみたいんやけど、これ以上“花子”の身体傷つけるのも悪いしなぁ」


「花子……? 誰カナそれは、それにさっきから本物とか何の話……」


「ああ、うちよりそっちの忍者ちゃんはええんか? 全く油断も隙もあらへんで」


「コラ、話を逸らすんじゃないヨ……ってあれ!? いない!?」


私の後ろにピッタリしがみ付いていたはずのニンジャガール、いつの間にかその存在は軍手をはめた案山子と入れ替わり、辺りには影も形もない。

先ほど嗅ぎ付けた魔力を探してみるが既に残滓も残っておらず、いっそ感心してしまうほどの逃げ足の速さだ。


「わはは、隙あり! じゃーなー金髪さん! ほなまたどこかでー!」


「あっ、コラ! 待てヨお前ー!?」


すり替わった案山子にあっけに取られている間に、チャイナガールの方も素早くビルから身を投げて逃走してしまう。

慌てて手すりから身を乗り出して落下した先を覗き込むが、既にあの派手なチャイナドレスの姿はない。

あるのは何事かとこちらを見上げる人の群れだけだ。


「ヤッバ、結構な騒ぎになってるヨ……ああもう!」


独断専行で行動した挙句、謎の魔法少女を2人とも逃がしてしまうなんて知られたらマスコミとサムライガールから大バッシングだ。 これ以上騒ぎが大きくなる前に私もさっさと逃げなければ。


しかし、あの2人の魔法少女は何者だったのだろうか。 正規の魔法少女にしては何か様子がおかしかった。

……嫌な予感がする。 また何か嫌な事が始まろうとしている悪寒が。



――――――――…………

――――……

――…



「……魔法少女になれる薬?」


「ええ、今小学生の間で流行っている都市伝説よ。 そしてこれが噂の実物ってわけ」


葵ちゃんが錠剤を1つ手に取り、しげしげと観察する。

つられて私も残った1つを摘まみ取ってみる、微細な魔力を感知できなければよく薬局で渡されるようなお薬にしか思えない。


「錠剤だけどどんな薬液に浸しても溶ける事はないわ、科学的な成分分析では一般的なラムネ菓子と変わらないという結果は出ているのに」


「なるほど、それは異常ですね。 この錠剤はどこで?」


「SNSに上げられたものをうちの職員が回収したわ、当の本人は魔法少女が落としたものを拾ったようだけど」


「この薬を服用した魔法少女なのか?」


「魔法少女の素性は不明よ、特徴としては赤と青に分かれた衣装にメガホンのようなものを持っていたようだけど」


出回っている数こそわからないが、その話が本当ならまずい事態だ。

魔法少女の力なんておいそれと振るっていいものではない、慣れない人間が使えば周囲の人々を傷つけてしまうことも十分考えられる。


「魔法少女に憧れる女の子は少なくないわ、その危険性も知らずにね……だからこそ取り返しがつかなくなる前になんとかしないと」


「それで我に何をしろと?」


「この錠剤の魔力的な分析とかできないかしら? 東京の魔法陣みたいに……ね」


「うむむ……」


アバウト極まりない注文に私は難色を示す。

魔力の解析と(ひとえ)に言ってもこんな小さな錠剤と芸術とも言えるほどの膨大な経路が描かれた魔法陣では勝手が違う。

いわば後者は蓋を開ければ中に部品や回路がしっかり入っており、きちんと見分ければ何がどういう働きをするものなのか読み解ける。

しかしこの錠剤はあれほど分かり易い造りではない、電子顕微鏡を覗いて1つ1つの分子を見極めるようなものだ。


「出来ぬわけではないが我すごく疲れるし時間がかかる……」


「出来るんですか……」


隣に立つ葵ちゃんが怪訝な顔で眉を顰める。

うん、出来る。 とても難しいけど出来る。 たぶん、きっと、おそらく。


「それでも良いわ、ゆっくりでいいから無理はしないでね」


「うむむむむ……」


そうは言うが縁さんの顔に刻まれたクマは深刻だ、折角の美人がもったいないほどに。

あれを見ると流石に無理と一言で断るのは忍びない。


「はぁー、こんな時ドクターがいればぱぱっと解析してくれる……あっ、ごめんなさい」


「気にしないでください、ドクターが居たらというのは私も同意です」


「我も……しかし、錠剤か」


ドラッグストアで売られているような形状は、私の脳裏に1人の魔法少女をよぎらせる。

……ドクター、あの東京で姿を晦ませた裏切りの魔法少女。

一体なぜ彼女はスピネたちを唆すような真似をしていたのだろう、そして背後にある「ローレル」と呼ばれた謎の人物。


今でも魔法局が敷いた捜査網を潜り抜け、ドクターの存在は見つかっていない。

この錠剤を広めているのが彼女だとしたら、今度は一体何の目的で?



「……駄目ね、こんな時は暗い発想ばかり浮んでくるわ。 それに仕事の催促も来たみたい、悪いけど局内の紹介はまた今度ね、シルヴァちゃん」


「わ、我は一向に構わぬ! お仕事頑張ってくr……ください!」


「眠気が限界の時は言ってください、母お手製のコーヒーを差し入れに行きます」


「頑張って来るね!! 死ぬ気で!!!」


白衣の胸ポケットで震える携帯を取り出した縁さんは、顔を蒼く染めて脱兎の如く逃げて行った。

それほどまでして避けたいコーヒーとは一体どういう代物なのだろう、逆に気になる。


「命が惜しければやめたほうがいいですよ、それじゃ行きましょうか」


「行くって……どこへ?」


(いえ)に帰るんですよ、十中八九コルトもそこでサボっている事でしょう。 情報の共有ついでに雷を落とします」




――――――――…………

――――……

――…




「――――おにーさーん! ちょっと聞いてヨ、今そこで……あれ、お客さ……うぇあ!?」


「あらあらうふふ、久しゅうなぁコルトはん?」


昼時も過ぎ、客も1人を除いて居なくなった店内に血相を変えたコルトが飛び込んでくる。

大分頭に血が上ったその表情は、カウンター席に座る彼女を見つけた途端に血の気が引いて行く。 顔色だけで騒がしい奴め。


「ろ、ロウゼ……いや、十角=サン……!」


「なんやおっかなびっくりやなー、そないにうちのこと怖い?」


くすくすと艶やかに笑うその姿は、怖いというよりも何とも言い難い妖しさがある。

コルトは千切れんばかりに首を横に振って否定するが、頷いた場合は一体どんな目に合うんだろうか。


「店員さん、悪いけど貸し切りにして貰えへん? ちょっとここだけの話がしたくてなぁ」


「そういうのはもっと厳重な所でやってくれ、誰か盗み聞きしてたって知らないぞ」


「うふふ、優しいなぁ店員さんは」


なんというか調子が狂う相手だ、これ以上の会話は切り上げて準備中の札を掛けに裏口の扉に手を掛ける。

すると、丁度向こうから扉を開けたアオと鉢合わせてしまった。


「っと、すまんアオ。 今帰りか?」


「こちらこそすみません、コルトを探して……あっ、やっぱりここに居―――――た?」


「あら、3人とも揃い踏みや。 とっても都合がええわ、今日はいい日やな」


カウンターから身を乗り出してアオとその後ろに隠れた詩織ちゃんの姿を見つけ、京都の魔法少女はにんまりと笑って見せる。

やはり目的はこの3人か、だとしたら話の内容はきっと……


「それじゃ3人揃ったところで、悪い話ともっと悪い話。 どちらから話してええかな?」


……やっぱり、碌な内容ではないんだろう。

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