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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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桜色の結末

「――――おーい、こっちこっち!」


「あっ、いたいた! ほらほらビブリオガール、一緒に行くヨ!」


『モッキュー!』


「ま、待って……コルトちゃ……速い……!」


大きく広げたブルーシートの上で、遠くから歩いてくる2人と1匹へ向かって手を振る。

頭にバンクを乗せ、詩織ちゃんの手を引いて駆け寄るコルト、その姿は何とも仲睦まじいものだ。

ついこの間まで対立しあう立場の魔法少女だったとは思えない。


「予定5分前か、珍しいなコルト」


「へへーん、魔法少女たるもの時間は守るものだヨ!」


「アオからは遅刻常習犯だって聞くけどなー? あっと大丈夫か詩織ちゃん、お茶飲む?」


「あ、ありが……ヒィ……とぉ……ハァ……ござ……! いただき、ます……!」


コルトのペースに合わせたせいか、息も絶え絶えの詩織ちゃんに紙コップに注いだお茶を渡す。

当の本人はそっぽを向いたまま、吹けない口笛なんか吹いて誤魔化しているつもりだ、こいつには弁当抜きだな。


「待ってぇーん! ンもう、私を置いて皆行っちゃうんだ・か・ら!」


「おー、男島のおっさんも来たのか。 仕事は大丈夫なのか?」


2人の女児を追いかけ、両手いっぱいに大量のクーラーボックスを抱えた筋肉質の巨漢が軽い足取りで現れる。

情報量が多いオネエ口調のおっさんは詩織ちゃんの保護者である男島信之、警察官である彼はこういった集まりにはなかなか顔を出せない人だ。


「詩織ちゃんが来るなら保護者も居ないとねん、それにねぇ。 折角の()()でしょ?」


「そりゃそうか、せっかくの満開だしな」


空を仰げば、そこには目一杯に色づいた桜の枝々が、風に揺られながらその両手を思う限りに広げている。

河原に沿って生え並ぶ桜の木々、魔法局の訓練私有地に近いこの場所は絶好の穴場であり他の客は誰もいない。

季節は四月、春の盛り。 今日は魔法少女たちの労いを兼ねた花見というわけだ。


「けど初めに聞いた時は腰が抜けるかと思ったわぁん、まさか詩織ちゃんが魔法少女だったなんて」


「ああ、俺もビックリだよ」


東京から帰還した魔法少女たちは、そのまま詩織ちゃんと緋乃ちゃん……もとい、シルヴァとオーキスを魔法局へと連行した。

詩織ちゃんの姿が消えて一晩中探し回ってたおっさんが魔法局に呼ばれ、魔法少女としての彼女を知ったのはその時だ。

その後、公式に魔法局にシルヴァとしての情報が登録。 詩織ちゃんは野良から正式な魔法少女へと昇格したのだ。


「……おっさんはいいのかよ、魔法少女なんて」


「あの子が決めたのなら文句は言えないわん、それにあの子の両親も認めているしね……」


「そうか、まあ魔法局に拾われたのなら心配はいらないだろ」


本来なら魔法少女なんか辞めて平和に暮らすのが一番なのだろうが、そうもいかないのがこのご時世。

せめて彼女が安心できる機関に保護され、十分な支援を受けられるのならそれが良い。

俺のように後ろめたい事情がないなら積極的に保護を受けるべきだ、だからトラウマの対象であるラピリスとはどうか上手く付き合っていってほしい。


「ところで他の皆は? これで全員じゃないでしょうん?」


「ああ、多分そろそろ……ああ、あれだあれ」


「コルトちゃーーーん! 詩織ちゃーーーーん! 来ーーーたーーーわーーーー!」


≪あぶねえから乗り出すな、シートベルト巻いてろバーロー!≫


その時、丁度向こうから砂利道も何のそのでかっ飛ばしてくる紅い車体が目に入る。

助手席から身を乗り出して手を振るライダースジャケットと、それを運転席から窘めるドライバーの2人はもはや親の顔より見慣れたコンビだ。


「よっと、到着(とうちゃーく)! 久しぶりね葵ちゃんのお兄さん、それとそっちの人は……」


「私は男島信之って言うの、よろしくねん可愛らしいお嬢ちゃん♪」


「久しぶり、こっちのおっさんは見ての通り変態だ。 あまり近づかないようにな」


「んもー、ひー君ったら!」


背中に迫る丸太のような腕をしゃがんで躱す、本人は軽くじゃれついているつもりかもしれないが下手な魔物より脅威的な攻撃だ。

それでも掠めた髪の毛が数本千切れて飛んで行った、当たったらまあ死ぬ。


「何やってるのよ、遊んでないで支度の方はどうなってるの?」


「ふええぇぇぇ……もう逃げませんから離してぇ……」


「優子さん、準備ももうじき……あの、なんで縁さんはそんな事に?」


更に後部座席から降りて来たのは優子さんと縁さんの2人……なのだが、何故か縁さんの両手には縄が掛けられてまるで護送される犯人のようだ。

ドレッドの方に何事かと視線を向けると無言で顔を逸らされた、さては優子さんの仕業だな?


「私の顔を見ると逃げるのよ、癇に障ったからこうして逃げられないようにしただけ」


「葵ちゃんが東京から帰ってくるまで鬼のような形相のまま魔法局に居座ってた時の事を思い出しまして……ずみまぜん……」


「通りであの時一切顔を見せないと思ったわ」


「いや良い大人が2人揃って何してんすか」


話を聞く限り縁さんの自業自得のようなので暫くはこのまま放っておこう。

まあ本気で怒った優子さんから逃げたくなる気持ちは分かる、俺も東京から帰った後はこっぴどく叱られたものだ。


「ロイ、荷物降ろすの手伝ってー。 お菓子も買い込んできたわ、あと来ていないのは誰?」


「ええと、あとはアオと……そういえば局長さんは来るのか?」


「それがですねぇ、局長は東京の事後処理で会議の方に出ていまして……あっ、皆で食べてくれって桜餅だけは預かってきました」


「WAO! 高そうな包み紙だネ、でかしたヨ縁!」


「こら、まだ手を付けるなよ。 でもそっか、残念だけど仕方ないな」


元々忙しい立場の人だ、前向きな期待はしていなかったが、アオ達が世話になっていることもあって一度話はしてみたかった。

しかしそうなるとアオはどこに行ったのだろうか、集合時間に遅刻するような子じゃないはずだけど。


「……今お兄さんに呼ばれた気がします」


「おわっ!? 居たのかアオ!」


ふとスマホで時刻を確認しようとしたとき、真下から俺の顔を見上げるアオと目が合った。

今の今までまるで気配を感じなかった、もしブルームスターだったら今のでやられていたな。


「申し訳ありません。 ここに来る途中で魔物を見つけたため、到着が遅れました」


「葵ちゃん、魔物を見つけたなら必ず連絡を頂戴っていつも言ってるでしょう!」


「いえ、それがまずは様子見にと刀を振るったら一撃で……縁さんはなぜそのような姿に」


「聞かないで……」


ともかくこれで全員揃ったか、親御さんたちが各々の都合で集まれなかったのは残念だが仕方ない。

そろそろ頃合いだろうとビニール製の風呂敷を解き、その中に隠された重箱を取り出す。


「お兄さん、確認しますけど母はその重箱に……」


「安心しろ、指一本触れてない。 毒味もした」


「体を張るネおにーさん……けどこれで心置きなくたべられるヨ!」


「そういえば私もデザートを作って来たんだけど……」


「「「結構です!!!」」」


重箱のふたを開けると、最上段いっぱいに詰められたちらし寿司の上に桜の花びらが一枚落ちる。

今この満開だが、この桜もすぐに散ってしまうのだろう。 そうすれば今度は茹だるような夏がやってくる。


《そうなるとマフラーは暑っ苦しいですよねー、ブルームスター最大のピンチじゃないですか?》


「さてな、その辺りはまたおいおい考えるさ」


「……? お兄さん、今何か言いました?」


「いや何も、それよりそろそろ始めようぜ。 全員紙皿とコップの用意は?」


「飲み物は私がいっぱい持ってきたわよん! 子供達はジュースね、大人にはビールもあるわよビール」


「わあいカフェイン以外の飲み物だぁ! あっ、誰かこの縄外していただけませんか……?」


「ウーロン茶ください、食事の際に甘い飲み物は好かないもので」


「私は気にせずコーラ飲むよコーラ! キンキンに冷えたのお願いネー!」


「わ、私はオレンジ……ジュースで……!」


1つの事件は終わりを迎えたが、世界は依然として何も変わらない。

相変わらず魔物は現れるし、魔法少女は戦い続ける、だがそれでもいいさ。

その時はまた、ブルームスターとして立ち向かうだけだ。 ただ1つ願うなら――――


《≪「「「「「「「「――――カンパーイ!!」」」」」」」」≫》


来年もまた、こうして賑やかに花見が出来る世界を守りたい。

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