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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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灰色の顛末 ④

「た、ただいま戻りましたー……」


《マスター、真っ暗ですよ。 電気電気》


「はいはい、えーと確かこの辺り」


長い旅路の末、裏口からこっそり入った店内は真っ暗だった。

時刻は既に深夜、流石の優子さんも待ち疲れて眠ってしまったのだろうか。

ほっと胸を撫で下ろしながら手探りで明かりをつけると、キッチンテーブルの上に置かれた1枚の紙切れが目に留まる。

紙面上には優子さんの筆跡で残された書置き、内容としては「店ではなく魔法局の方で待つ」といったものだ。


《……PS.“誰かとは言わないけど”帰ったら覚悟しておきなさい、ですってよマスター》


「わぁい、超逃げたい」


無理もない、2人揃って東京まで遠出していたのだ。 優子さんとしては怒髪天を衝く思いだろう。

黒衣のお蔭で目立った外傷はなかったことになっている、それでも消しきれない傷は残っているし服もボロボロだ、適当な言いわけではぐらかすのは難しい。


「……ハク、俺はどれぐらいあの黒い姿になっていた?」


《セーフティが掛かっていた分を除けば……10分20分は超えているかと》


胃の辺りがきゅうっと締め付けられる、思い出すのはチャンピョンと()()()()()()()を迎えた記憶。

あの絶大な力の対価は俺と言う存在の希釈だ、誰かとの繋がりを燃料に黒衣の力は燃え上がる。

おおよそで20分以上、燃焼のペースは分からないがどれだけの人間が俺のことを忘れているのだろう。

叱られるならまだマシだ、だが優子さんと会った時に零れる言葉がもし……


「……一応聞いておきたいけど、お前は俺のことを忘れちゃいないよな?」


《ご安心を我がマスター、出会って1ヶ月ちょいの仲ですが私のログにはバッチリあなたとの記録が残ってますよ》


「そうか……そうだよな、ありがとうよ」


これまでの会話からしてハクの記憶は消えてないのは分かっていたが、それでも確認をしておきたかった。

東京でのやり取りから考えるとチャンピョンを含め、あの場に居た魔法少女たちの記憶から消えたわけでもない。

だったら誰だ、一体黒衣の対価に誰との記憶が焼かれてしまった?


《……マスター、とにかく今日はもう遅いです。 シャワーを浴びてしっかり休んでください》


「ああ、そうするよ。 ところで今何時だ?」


ふと今の時間が気になり、画面上のハクに避けてもらって今の時間を確認する。

時刻は二時、草木も眠る頃合いだ。 明日用の食材の仕込みも何もできていない、今からでも軽く何か仕掛けておくべきか。


《まーた妙な事考えてますねあなたは、良いから大人しく休んでくださいって、罰は当たりませんよ》


「だからなんで分かるんだよ……ん?」


画面上にでしゃばるハクを指で退けると、画面下にある通話ボタンに赤丸の印がくっついていることに気付いた。

アイコンをタップしてみると幾つか留守電の記録が残っている、その殆どは優子さんによるものだ。


《うっへ、これはもう愛の拳骨くらいは受け入れましょうよマスター》


「オイオイオイこれ以上ダメージ喰らったら死ぬよ俺……ん?」


並んだ着信履歴をスワイプすると、その中に1つだけ混ざった違う名前を見つける。

そこに書いてある着信主は七篠秀夫、俺の父さんだ。

そういえばマン太郎騒動の時に連絡先を交換していたな、何か用があったのだろうか。


「しまったな、タイミングが悪かった……けど何の用だったんだろ?」


《留守電残ってますし聞いてみたらどうですか? 着信時刻は……ああ、東京(しゅらば)真っ最中ですね》


「その時間帯なら気づかなくてもおかしくないか、どれどれ」


ハクに促され、留守電の再生ボタンをタップする。

そのまま待つこと数秒、僅かな環境音と共に懐かしい父の声が聞こえてきた。


『……もしもし? ああ、聞こえてるのかなこれは?』


「あはは、相変わらず機械音痴だな、 留守電くらい慣れ……」


『そうだな……単刀直入に聞こう、()()()()?』


「………………えっ?」


実の親から聞かせられた耳を疑う台詞に危うく掌から携帯を落としかけた。

その言葉の意味することを察し、全身が冷え込んで心臓が大きく跳ねる。

いや、違う。 まさかそんなはずがない、だって父さんは月夜の事は覚えているはずだ。 なのに何故――――


『気づいたのは今日だ、ふと自分の携帯を見れば知らない人間の電話番号とメールアドレスが残っていた。 こうやって留守電を残してはいるが、登録した名前もアドレスも文字化けを起こしていて君が誰か分からない』


――――何故、父さんは俺の存在を忘れている?



『辛うじて無事だった電話番号からこうして君に着信を掛けている、正直繋がっているかも怪しい。 ただ君に1つ聞きたいことがある。 この違和感は何だ? 私はなぜ()()()()()()()()ここまで―――』


《――――マスターッ!!》


呆然と聞くことしかできなかった父さんの言葉を、ハクが無理矢理横から止める。

草木の眠る丑三つ時、2人しかいない店内に僅かな静寂が流れた。


《……すみません、私が軽率でした。 今日はもう寝ましょう、ほら、疲れたままあれこれ考えてもネガティブな事ばかり浮びますし、ねっ?》


「いや、ハクは悪くねえよ……けど、何だよこれ。 ははっ……一体、なんで……っ」


脚に力が入らない、力なくその場に崩れ落ちる。

何が原因かなんて分かっている、自分が求めた力の代償だ。 ツケが回って来ただけの話だ。

だが父さんが忘れたのなら母さんは? 月夜の事は覚えているのか? もしかしたら俺なんかのせいで、2人は妹の事すら忘れているかもしれない。 俺は、俺のせいで家族とやり直す機会すら……


「ああクソ……くそ……だったらせめて、もっと力を寄越せよ! 割に合わねえだろ!? 本当ならスピネだって……俺が、俺のせいで……ッ!!」


《違う、あなたのせいじゃない! 仮にそれが貴方の負債だったとしても、それは私にも与えられる責任です!!》


ここまで誤魔化してきた後悔の念が(せき)を切って溢れ出る。

あの時はもっと上手くやれたはずだ、何故力を使うことを躊躇った、もし体が動いていたのなら。

思い返すだけの「たられば」が幾重にも重なれば、本当はスピネだって死ぬ必要はなかったんじゃないのか?

お前が辛いだ何だとほざいて、痛みに甘える事さえなければもしかしたら。


込み上げてくる感情の波に呑まれそうになったその時、裏口の戸がキィと押し開けられる。

俺と同じように恐る恐る店へと入って来たのは小さな影、綺麗に切りそろえられた濡れ羽色の髪が照明に照らされて光沢を放つ。


「……誰か、居るのですか?」


「…………アオ」


多分俺は相当ひどい顔をしていたんだと思う。

椅子にも座らず床に座り込む俺と、アオの視線がバチリとあってしまった。

ああやめてくれ、今の俺は君と話したくない。 アオは七篠陽彩の存在を覚えているだろうか。

ブルームスターの事は覚えていても、俺のことは忘れているんじゃないだろうか。

アオがゆっくりと口を開く、彼女の言葉を聞くのが怖い。 「誰ですか」なんて言われてしまえばもう駄目だ、俺は折れる。




「―――――どうしたんですかお兄さん、酷く顔色が悪いですけど……?」


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