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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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135/639

銀の君、鉛の弾丸 ④

「ラピリス! ブルームスター!!」


「ちょい待ち、ゴルドはん。 追っても無駄や、あれはもう間に合わん」


「だったら何サ、見捨てろって言うの!?」


気色悪い灰色の肉に呑まれた三人を助けようと駆けだした肩をロウゼキの手によって窘められる。

だがあまりにも無遠慮なその物言いに頭がカッとなってしまう、今さっきだってブルームスターがいなければ危なかったじゃないか。


「落ち着きなさい、金のあなた。 何も助けないとは誰も言っていませんわ」


『然り、まずはこの状況を脱しなければ共倒れの危険が高い』


「でも……!」


際限なく湧き出る魔物と、シルヴァをつけ狙う触手群。

これらを何とかしないと救助どころではない事は分かっている、だけど頭では理解しても気持ちは追いつかない。


「ゴルドロス、今は目の前に集中してくれ! 我も辛いが、3人がちゃんと帰ってくるための活路を作るのも大切だ!!」


「ぐ……ぬぬ、ああもう! わかったよ!!」


雑念を振り払い、無茶苦茶に振り回したマシンガンで迫りくる魔物たちを穿つ。

ラピリス、ブルームスター、チャンピョン、どうか3人とも無事でいてくれ。




――――――――…………

――――……

――…



「……ス、おい……ラピリス……起きろラピリス!!」


「う……ぁ……?」


やかましい声に起こされ、寝ぼけた瞳を開ける。

ここはどこだ、酷く息苦しい。 ブルームスターの気配が酷く近い、一体何を……


「……! そうだ、私たち肉に押しつぶされて……!?」


「やっと起きたかよ……! そっちの、寝坊助もたたき起こせ……!」


「うーん、べすとふれーんず……」


飛び起きた私の隣では仲良く横たわったチャンピョンが深い寝息を立てている、こんな状況で寝ていられるのはある意味大物だろう。

だがチャンピョン以外の姿が暗すぎて見えない、少ない魔力をより絞って明かりを灯すして周囲を見ると、周囲は不気味に脈打つ灰色の肉で覆われている。

そして、私達を押し潰さんと頭上から迫る肉の天井を、ブルームスターが箒をつっかえ棒にして必死に堪えていた。


「ブルームスター! 大丈夫ですか!?」


「話しかけるな、気が散る……! 少しでも気を抜けば、折れそうなんだ……!!」


脂汗を流しながら苦悶の表情で彼女が支える箒は、確かに嫌なしなりと異音を立てている。

本来ならば既にへし折れてもおかしくない圧力、それをブルームスターが折れない様に魔力を研ぎ澄ませてギリギリのところで形を維持しているに過ぎない。

慌てて私も鞘に納めた刀を突き立て、天井の支えを手伝うが上からの圧に負けて鞘ごと地面に沈むばかりだ。

ブルームスターは何故支えていられるのか、見れば地面へ突き立てられる柄の下に自分の脚を差し込んでいる。


「いいかラピリス、お前たちはさっさと脱出しろ……! チャンピョンと一緒なら、出来るだろ!」


「駄目です、私たちがいなくなれば貴女はどうするんですか!?」


「黒衣を使う、あれなら楽勝だ!」


「できる訳ないでしょう!? バカですか貴女は、それ以上身体を酷使すればどうなるかも分からないのですか!!」


「だったらこのまま仲良く三人おっ死ぬか!?」


「それ、は……」


言葉が詰まる。 彼女の言う通り、このまま箒が限界を迎えて3人とも押し潰されるのは時間の問題だ。

3人とも死ぬか、1人を見捨てて2人が助かるか。 これが紙面上の計算式ならどれ程簡単だった事だろう。

だがこの現実を前に私は選べない、その2択は選ぶことが出来ない。


「――――()()()()()ッ!! 魔法少女になった日から覚悟なんてとうにできているんだ、それともお前如きの力でこの状況がどうにかなるとでも思ってるのか!」


「……人の台詞を真似た割にはキレが足りてませんよ、馬鹿」


「バレたか……いいからいけよ、お前は……生きなきゃ駄目だ、まだ先があるんだ……」


まるで自分にはないかのような物言いだ、やはり彼女とはどこまで行っても反りが合わない。

自分は死んでも構わないという自己犠牲、いつか正すためにも生きてもらわなければならない。

だから……まあ、心底不本意だがこの手段を取るほかあるまい。


「おい、どうしたラピ……むぐっ!?」


呼吸を整え、覚悟を決めてからブルームスターの頭を押さえて互いの唇を無理矢理重ねる。 いや、重ねたというよりぶつけたという方が正しいか。 

柔らかい感触を通じて残り少ない私の魔力をブルームスターへと移す。 ドクターから教わった、魔力移動の方法だ。


「……ぷはっ! こ、これは貸しですからね! あとで返してもらいますよ、良いですね!?」


「…………はっ? えっ? な、なに……?」


真っ赤に火照った顔を隠し、やつあたり気味にチャンピョンの身体を揺すって起こす。

ああ最悪だ、ファーストキスだったのに。 いや女の子同士ならギリギリノーカンのはずだ、真のファーストはまだ残っているはずだ。


「ふえ? な、なに……もう朝ぁ……?」


「可及的速やかに意識を起こして状況を飲み込みなさい、そして私を連れてさっさと脱出するのですチャンピョン」


「殺気!? へぁ!? 何、何この状況!? もしかしてうちモノスゲーいヤベーい事になってない!?」


「いいから脱出! 早く!!」


「は、はいぃ!!」


チャンネルを切り替えたチャンピョンの腕がハチの針の様なものに変わり、肉壁をザクザク掘り進んでいく。

削った端から再生し続ける壁、ブルームスターを助ける余裕はない。 後ろ髪を引かれるが後は再会を祈るばかりだ。


「なけなしの魔力ですが何かの足しにはなるでしょう、それを使って貴女も脱出する事! 良いですね!!」


「あ、ああ……」


生返事だがちゃんと理解しているのだろうか、だがそれを問いただす時間も無い。

私達の脱出が遅れるほど彼女の生還率も低くなる、別れもそこそこにチャンピョンの後を追う。

どうかまた、後で無事な顔を見せてくれ。



――――――――…………

――――……

――…



《……最後の最期に良い思いで出来たんじゃないですか、妬けますねマスター》


「お前が縁起でもない冗談を言うなんてな、そこまで追い詰められているってことか」


《それはまだ分かりませんよ。 ……どうですか? ()()()()()()()()?》


ハクの言葉に俺は黙って首を振る。

天井を支える箒を握る腕と、肉の壁に接触した背中はまるで初めからそうであったかのように癒着していた。

箒と腕、皮膚と衣服、全ての境目が曖昧になって灰へと溶けている、皮膚ごと引き千切ろうにも身体が言う事を聞いちゃくれない。

俺が天井を支えていたからか、ラピリス達はこの影響を逃れていたようで何よりだ。 あの二人なら無事に脱出できることだろう。


《押し潰されるのが先か、肉に取り込まれるのが先か、笑えない二択ですね》


「まったくだな……黒衣は?」


《駄目です、アクセスできません。 マスターの身体が持たないということでしょうかね……》


「それか肉に侵食されている影響か、だな……だが、もう一つ手はある」


ラピリスが残してくれた僅かな魔力、それが活力となっているから俺の身体はまだギリギリのところで踏ん張っていられる。

今は耐えることにリソースを割いているこの魔力を火力に回して癒着した部分ごと周囲の肉を消し飛ばす事が出来れば、生きて外に出る事も叶うかもしれない。


「だが……“蹴り”か“羽箒”でどうにかなるかこれは……!?」


《無理ですね、出力が足りません。 余命がコンマ1秒伸びるかどうかってとこですよ》


この状況から脱するにはそれこそ黒衣か、もしくは瞬間的にそれ以上の出力が求められる。

今までの技では駄目だ、更なる力がいる。 だが……


《……それには今ある魔力では足りません、マスターの身体も持つかどうか。 何か、何か手は……!?》


魔石は手元にない、箒は支えに使っている。 体を蝕む灰色の肉に意識が微睡んでいく。

今までどうにか誤魔化して戦ってきたが、今回ばかりはいよいよだめかもしれない。


いや、駄目だ。 諦めるな、ラピリスに言われただろ。 それに俺がここで死んでしまったら……


「スピネ、が……!」



『……ス゛ピ、ネ゛……?』


融ける意識の中に濁った声が届いた。 幻聴ではない、か細いながら確かに聞こえた。

顔を上げる、何もいない。 だが耳をすませば、先ほどのチャンピョンと似た肉を掘り進むような音が聞こえてくる。

チャンピョンよりも荒っぽく、掘り進むというより叩いてつぶすような音は次第に近づき……やがて、肉の壁を突き破った“それ”が姿を現す。


「お前、は……?」


罅が入った緋色の魔石が埋め込まれた槍の残骸、全身を覆う光沢を失った黒い鎧

ラピリスの一刀により、命を絶たれたはずの黒騎士がそこには立っていた。

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