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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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131/639

クソッタレな神様へ ⑥

「ハァ……ハァ……し、死ぬかと思ったヨ……!」


『モキュー……!』


うず高く積まれた瓦礫の山、元は何十階建てのビルだったのかその量はすさまじい。

流石の魔法少女とは言え、この山に埋もれて無事這い出てくることが出来たのは僥倖という他ない。

傍らの小動物も無事なようだ、ぶるぶると体を震わせて土ぼこりを払い落している所を見るに大したケガもしていない。


「ハァー、魔石の回収も出来なかったネ。 大損だヨ今回は……」


周囲を一通り警戒したあと、手ごろな瓦礫に腰掛けてため息を吐き出す。

出費を重ねた割にネズミ男の魔石1つ回収できずじまいでは赤字も良い所だ。

かと言ってそこら辺の魔物を狩って稼ぐような余力もない、ここまでのドライブと戦闘でへとへとだ。

今回は勉強料と思って諦めよう、しかしそうなると孤立したこの状況でどうやって安全に味方と合流したものか。



  …………おぉーい……


「……ん? バンク、今何か聞こえなかったカナ?」


『モッキュ!』


隣の小動物も頷くところを見ると、私の幻聴ではないらしい。

呼びかけるような人の声とかすかに聞こえるエンジン音、それは次第に大きくなってはっきりと聞こえてくる。


「おぉーい! ゴルドちゃーん!! 良かった、生きてたぁ!!」


「ほらぁー! うちの見間違いじゃなかったよ!」


もはや聞き飽きたエンジン音と、騒がしい二人の声。

たしかチャンピョンという名前だったか、あの騒がしい魔法少女もここに来る道中で拾ってきたのだろう。

ああでも助かった、流石に丸腰でこの危険地帯を歩く度胸は無かった。



――――――――…………

――――……

――…



『っぁ―――――』


槍が音を立てて砕けた瞬間、一瞬の痙攣の後に騎士の身体が膝から崩れ落ちる。

陽が灰色の雲に遮られた中で不思議ときらめきを放ちながら落下する槍の断片、その中には指先ほどのサイズしかない緋色の魔石が顔を覗かせている。

騎士の力量はこれまでの激突で嫌になるほど知らされている、だというのに肝心の魔石はこの程度の大きさか。

割に合わない、まだどこかに無事な魔石を隠しているのではなかろうか。

騎士の方へ警戒を投げかけるが、糸が切れたように膝をついた身体はピクリとも動く気配はない。

間違いなく黒騎士はその心臓部を砕かれて絶命に至っている。


《……ぷっっはぁ!! やりましたねマスター、身体の方は無事ですか!?》


「ああ、なんと……か……」


ラピリス達への被害を案じ、即座に変身を解くと耐えがたい激痛が全身を穿つ。

もはや指一本動かせる気がしない、変身の維持をハクに任せてその場に倒れ伏す。

目下最大の敵である黒騎士は倒した、向こうは……どうなった……?


「―――――イヤアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


絹を裂くような盛大な悲鳴が響いたのはその時だった。




――――――――…………

――――……

――…



「―――――イヤアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」



長く、長く、尾を引く悲鳴が彼女の口から溢れ出る。

現実を拒むかのように耳を塞ぎ、頭を垂れて蹲るスピネ。

それだけあの魔物は彼女にとって大切な物だったわけか、だったら大事に金庫にでも仕舞っておけばよかったんだ。

自分で選んだ道だろう、死ぬのは自分だけで済むとでも本当に思っていたのか。 だとすればお笑い草だ。

そうだ、スピネという魔法少女は命を捨てる覚悟があった。 ()()()命を捨てる覚悟しかなかった。

その結果がこの様だ。 もはや彼女に戦う気力など残っていないだろう。


「お母、さん……お母さん、アタシ……わたしは……なんで、なんで置いて行って……!」


「……あなたの身の上話は結構です、同情の余地はありますが続きは病院で聞きましょう。 腕のいい医師を紹介しますよ」


「うそ、つきぃ……ヤブ医者だろぉ……」


鞘に納めた刀を引き抜き、刃を返して峰を彼女の首筋に当てる。

首を差し出してくれて実にやりやすい、あとは刀を振るって無力化し、拘束してドクターに任せよう。

首謀者さえ押さえればあとは芋づる式だ。 東京事変、これにて終了。


「――――待て! 待てラピリスよ、その一刀しばし待て!!」


気絶させるためにと振るった刀がスピネの首筋を打ち据えるその寸前、突如目の前に現れた介入者の登場に思わず峰打ちを止める。

灰とは違う輝きを放つ銀の髪、怪我もしていないのに腕に巻いた包帯、中学二年生が好みそうな服装。

そこに居たのはシルヴァ、我々が探し求めていた野良の魔法少女だ。


「退きなさい、何故あなたが庇う必要があるのですか」


「だ、だだだだ駄目だ! も、もうスピネに戦う意思はないではないか!」


「だからと言え油断できる相手ではありません、庇うのであればあなたごと打ち払うまでです」


「わ、分からず屋ぁ!」


「…………シル、ヴァ……」


庇うシルヴァへと向けて、スピネが蚊の鳴くような声で囁く。

震える指でシルヴァの裾を摘まむ彼女の顔は蒼く、死人と見まごうほどに生気がない。


「お前、何でここに……魔法陣は、母さんたちは……?」


「……スピネ」


単語を並べるだけのその言葉は私には理解できないが、シルヴァはその意味をくみ取ったらしく、膝をついてそっとスピネの手を握る。

その顔つきに恥じらいこそあれど、今から語るべき内容に覚悟を決めている。 つまりスピネの問いに対する回答は喜ばしいものではないということだろう。


「……スピネ、聞いてくれ。 魔法陣は粗方調べた、しかし……失った時間を取り戻すすべはない、無かったのだ」


「っ、ぁ―――――……」


「止めることはできる、だがそれには1つ問題があるのだ。 更に時間を巻き戻すなど……魔法少女が何人いようと無理だ」


諭すように語るシルヴァと、涙を流したまま呆然と聞き入るスピネ。

話の内容はよく分からないが、少なくともスピネたちの野望はたった今潰えたことは分かる。


「ら、ラピリス……状況はどうなった……?」


「ブルー……って、なんて格好してるんですか貴女は」


振り返ると地べたに這いつくばったまま、ズリズリとこちらへ近寄るブルームスターの姿があった。

限界の代償か、肩を貸そうかと思ったがそこまでする義理も無い。 後で縄でふん縛って東北支部に連行しよう。


「終わりましたよ、良い所はシルヴァが持って行ったようですが。 私も魔力が限界なので正直助かりますね」


「シルヴァが……? どういうことだ?」


「さて、捕まっているうちに友情でも芽生えたのでしょうか。 ともかく今は邪魔しない方がよさそうですよ」


気づけばスピネに釣られてか、シルヴァもぽろぽろと涙を流しながら必死に説得を続けている。

……ああ。 一つ出会いが違うのならば、もしかしたら彼女達はきっと友達になれたのかもしれない。


「…………えっ?」


――――だがその儚い希望は、瞬きの間に壊れることになった。



――――――――…………

――――……

――…



「スピネ……スピネ、もう止めよう。 過去は戻らないんだ、だから……だから……」



インクに汚れたシルヴァの両手が包み込むようにアタシの手を掴む。

酷く寒い体にふわりと伝わる体温が心地いい、とめどなく零れる涙と嗚咽が止まらない。


分かっていた、本当は知っていた。 ただアタシは生き残って来た10年を辛い過去で終わらせたくなかっただけだ。

寂しさを誤魔化すために過去の陰ばかりを踏んで、この東京(おり)から飛び出すことを恐れていた。

「寂しい」と一言吐き出して、「助けて」なんて泣きじゃくれば、アタシたちの手を取ってくれる友達なんてすぐに見つかっただろうに。

バカな真似をした。 今からでもやり直せるかな、ごめんなさいって謝って償いたいな。


「スピネ、我と友達になろう。 お前たちの過去にある孤独は分からない、けどこれからの未来は共に泣いて、共に笑う事が出来る」


「うん……うん……」


本当にお人よしだ、こんなに馬鹿なアタシにまだ手を差し出すだなんて。

お人よしが過ぎて、つい掴み返してしまいたくなるじゃないか。


「シルヴァ、アタシ……アタシ―――――ぇ、ぶ」


ごめんなさいと吐き出すべき言葉が出てこない、代わりに大量の血液が口から零れる。

ああまたか、この身体も大分ガタが来ている。 はやく、早く次の言葉を……?



……あれ、なんでアタシの胸から腕が生えているんだろう。


「……すぴ、ね……?」


頬に返り血を付けたシルヴァが震えた声で鳴く、彼女の視線は呆然としながらもアタシの背後へと向けられていた。

軋む首を回して後ろを振り返ると、視界いっぱいに砕けたペストマスクが広がる。

頭部の左側を完全に喪失し、傷口から異臭を放つ液を血液がわりに滴らせる魔物の腕が、アタシの胸を貫いていた。


どうして、お前の反応は途絶えたはずだ。 いや違う、反応が消えただけなら……アタシの、制御下から、はずれ た   だ  け  ――――


『――――ちょ ウ Die?』


表情のないマスクの下で、サメのような歯が並んだ口角が裂けんばかりに釣り上がっていた。

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