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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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129/639

クソッタレな神様へ ④

―――――膨大な熱が燃え上がる。

私も刀に纏う炎を扱う以上、火炎に対する耐性は高いと思っていた。

だが彼女が身に纏う“それ”は私の自負を鼻で笑うかのような邪悪な熱波を吐き散らす。

いつか初めて黒い姿の彼女と出会った時よりもずっと強い、こんなものに包まれて当の本人は無事なのか。


「悪いラピリス、少しだけ耐えてくれ!!」


「構いませんよ、言い出しっぺは私ですからね!!」


渦巻く風を纏って熱から身を守るが、この程度のものじゃ気休めにしかならない。

構わないといったがどれだけ持つか、一体これほどの力は彼女の何処から湧いてくるのだろう。

……少し嫌な予感がする、後で問いたださなければならない。



――――――――…………

――――……

――…


「あ、づ……! なんだこれ!?」


『――――創造主、我が後ろに!!』


身を焦がす熱気に怯むスピネを庇うように、黒騎士が立ち塞がる。 だけど知った事か、俺の狙いは最初からお前だ。

飛び掛かった真正面から突き出された槍を掴み取り、握り潰す。

まるでクッキー生地のような手応えだ、ザクザクと面白いほど指は食い込む。

明らかに以前の変身より力が増している。 いや、俺が上げている。

今までは無意識にくべていた誰かとの繋がりを自らの意思で荼毘に付す。 腕を振るうたびに、魔力が漲るたびにぷつりぷつりと何かが自分の中で千切れて行く。


ああ、俺はこの戦いが終わったらまたあの喫茶店に帰る事が出来るのだろうか。

……帰るか、思えば「ただいま」なんて一度も言った事がなかったな。 家族から逃げ出した俺は、その言葉に後ろめたさを感じて言えなかった。

優子さんはきっと怒るんだろうな、怒ってほしいな。 それでも「おかえり」って言ってほしいんだ。

クソッタレな神様、もしあんたがいるなら頼むからそれぐらいの燃えカスは残してくれよ。


『―――――ブルームスタアアアアアアアアアアア!!!!!』


「黒騎士イイイイイイイイイイイイ!!!!」


騎士はもはや使い物にならない槍の代わりに腕を振り上げ、互いの拳が激突する。

あの巨大な槍と盾を軽々しく振り回していた腕、そんなものと愚直にぶつかり合った俺の片腕はグシャグシャに轢き潰れるだけだ。

だが騎士も無傷ではない、俺より何倍もでかいその拳はちょうど俺の拳1つ分の形に陥没している。

「怪我をした」という事実すら焼き尽くす俺と、じわじわと負傷が重なるお前。 さて最後まで立っていられるのはどちらかな。


「不死身じゃないんだろ、だったら俺がお前を殺してやる!!」


『面白い、やってみろ! 貴様のその力は創造主には届かせん!!』


俺と黒騎士、意地をかけた2人の叫びが交錯する。

だがそこへ混じって水を差すかが如く、撃鉄を起こす重い音が耳に届いた。


「おいおいアタシを忘れんなよ、この黒コゲ女――――」


「――――させません!!」


黒騎士の背後で銃を構えるスピネへ向かい、双刀を交差させたラピリスが飛び掛かる。

鍔ぜり合う2人の間に逆巻く突風、あれのお蔭か幾分か俺の熱波を緩和で来ているようだ。


「こちらは私が請け負います、さっさとそっちを倒して加勢してくださいよ黒焦げスター!」


「ああ、任せろ! あとそのネーミングに関しては後で話がある!」


「奇遇ですね、私もです!!」


冗談吹かしている間にも完治した腕を確認し、その辺の小石を蹴り上げて箒を生成する。

煤に塗れるほどの熱を帯びた箒は握るだけで両手の皮が癒着し、下手に手を離すと皮ごと持って行かれそうだ。


「丁度いいや、これで武器を取り落とす心配はないな」


《マス……あと……リスちゃ……に……叱……れろ!》


ノイズでほぼ聞こえないが、相棒から叱責の声が飛んで来た。

曖昧な笑いで返事を返すと同時に、両手を組んだまま大きく振りかぶった黒騎士が、その剛腕を振り下ろす。

ブルームスターという華奢な存在を押し潰さんとするその鉄槌に対し、俺はタイミングを合わせて横薙ぎに箒を振るった。

衝撃に耐えきれず砕け散る石箒、ほぼ直角に軌道を変え、何もいない地面を盛大に砕く空虚な拳。 そこへ向けて繰り出した鋭い蹴りが籠手を貫いて両手に風通しの良い穴を開ける。


『ぐ、お……!?』


「やぁっとまともに食らったなぁ! 今までの借り、きっちり返すぜ!!」


足場を蹴り砕き、舞い上がった石片の一つをはじき出して箒へと変える。

騎士目掛けた命中した箒は、分厚い鎧を貫通してその胸を刺し穿つ。 しかしそれでも騎士は多少怯んだ程度だ。

やはり心臓は急所ではない、ならば頭か。 いや、炎が揺らめくあの頭に実体はない。 とてもじゃないが核となる魔石を隠すには心もとない場所だ。

考え方が違うのか、人間の急所に当てはめては答えは出ないのだろう。


「だったら徹底的に、ぶっ叩いてぶっ壊す!」


『笑止、その前に貴様の体がもつものか!!』


俺が拳を振るい、騎士が四つ足を振り上げ、箒で殴り、蹴り上げられた石片が瞳を抉る。

もはや互いに避ける気もない、ノーガードの殴り合いだ。 決着はどちらかが力尽きるその瞬間。

俺が力尽きるより早く、こいつを倒せねばならない。 だがこいつはどうすれば倒せるんだ、どこを殴れば良い?

ノーガードとは言っても向こうとは違い、こちらは限界がある。 奴の核を見つけない限り、幾ら攻撃しても無駄だ。


…………ふと、揺らめく陽炎の中で騎士が背負う槍の柄が見えた。

ああ、そういえばさっき俺がへし折ったな。 もはや半分もない長さの槍など使いようもないだろうに、後生大事に背負う必要がどこにある。


――――そういえば、こいつ壊れた盾はすぐに捨てた癖になんであの槍は後生大事に……


『…………っ!』


俺の意識が背負われた槍に向けられた瞬間、明らかに動揺した反応を見せた騎士が飛び退る。

何故だ、折れた槍なんてどうでもいいだろうに。 どうしてそこまで大事に――――


「―――――そうか、“そこ”か」


視界に被る血を拭い、自然と口角がつり上がる。

盲点だった、そうか、まさかそんな所に急所があるとは思うまい。

新たに生成した箒を構え、宙を蹴る。 狙うは騎士が背負う折れた槍。 いや、文字通り騎士の魂であろう愛槍か。


『そうか、気づいたか……だが知れたとて、届かなければ意味もない!!』


不用心に跳んだ俺を咎めるように、騎士の鋭い手刀が俺の腹に貫いた。

希釈された中でも耐えがたい激痛、口からバケツをひっくり返したかのような量の鮮血が零れる。

腹を串刺された俺を見て騎士も油断したのか、一瞬だが俺へ向けられた意識が緩んだ。


()()()()()()()()()()()()()()




≪―――――BLACK IMPALING BREAK!!≫


一拍遅れて騎士の足元から飛び出した箒が、背負われた槍を弾き飛ばした。

腹を貫かれる直前、足元に投げ込んだ“仕掛け”の働きは十全。 騎士の身から弾かれた槍は弧を得ぎ手宙を舞う。


『なっ……!? いや、仕損じたな魔法少女!』


「ゲホ゜……いや゛、これでいいんだよ……なあ()()()()


そう、飛び出した箒は槍を弾き飛ばしただけ、箒がぶつかった程度じゃ破壊にまでは至らない。

腹を貫かれた俺は身動きが取れず、ラピリスはスピネと交戦中。 宙を舞う槍に届く腕はない。

それこそ魔法でもなければ追撃は不可能だ。 だからまあ、あとは任せた。



「……()()()()


カチン、とごうごうと燃え盛るこの戦場に似つかわしくない、涼やかな音が鳴り響いた。

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