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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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122/639

デッドヒート・アライブ ③

周囲から頭一つ抜けた、見晴らしのいいビルの屋上から地上を俯瞰する。

遠くを走る赤い豆粒、急に進路を切って走りだした紅い点を目で追う。

今までと比べて走行に迷いがない、それに手入れがなされていない道路上の瓦礫や唐突に飛び出す魔物をすいすいと躱しながら標的まで一直線だ。

動きが違う、観察はしていたが知らぬ間にボクの知らない魔法少女の手助けでも入ったか。


「……困るんだよなぁ、そういうの」


≪――――ガンガン・トレーニング!!≫


片手で起動させたゲームカセットの音声が鳴り響き、ボクの傍らに身の丈に余る長銃を構えた小人が現れる。

ガンシューティングゲームに分類されるそれはこの状況にうってつけだ、特に言うべきことも無く小人はスコープを覗き込んだまま微動だにせずこの東京で動く唯一の車両へ狙いを定めている。


手元のゲーム機には小人の視界とリンクし、スコープで拡大された車両の様子が映っている。

スモークガラス越しで良く見えないが、中に居るのは相変わらずゴルドロスとドレッドハートの2人だけに思える。

まあ良い、ペストマスクを見つけ出した種明かしは後だ。 今は自分の仕事に専念しよう。


「まったく、ガンシューティングは苦手なんだが……」



――――――――…………

――――……

――…



『そこを右、暫く真っ直ぐ、次を左、とりあえず右、つぎ左』


「ねえ合ってる!? 合ってるのよねその指示!?」


「あばばばばば!! 死ぬ、先に味方に殺されるヨこれ!!」


≪うっせぇ、気が散らぁ!!≫


『もっきゅー!!』


ツヴァイシスターズ(妹)の指示の下、減速せずにカーブを繰り返す車体は強いGに揺すぶられる。

車内ではバンクが縦横無尽に跳ねまわり、三半規管は滅多打ち。 この場にドクターが残っていたら更なる惨事が巻き起こされていたことだろう、ある意味助かった。


『魔物に絡まれて余計な消耗と減速は避けたい、これが最適解。 大丈夫、ツヴァイシスターズの指示なので』


「乗員の安全も考慮してほしいカナァ!?」


『考慮はするが東京攻略が最優先事項、大義のための犠牲になってほしい』


確かに彼女の言う通り、ここまでネズミにも野生の魔物にもエンカウントはしていない。

だが内部の乗員は完全にグロッキーだ、辿り着いたころには戦闘不能になっていないことを祈る。


『次の交差点、魔物の反応あり。 回避不能のため突っ切って――――』


ツヴァイの指示を遮るように、突然車体に強い衝撃が走り、コントロールを失った車がスピンしかける。

運転手の手腕によって間一髪で立て直すが、目の前の交差点には地面から生えたキノコの様な魔物が完全に行く手を塞いでいる。


「っ―――――ロイ、突っ切って!!」


≪任せろッ!!≫


目の前の障害物に対して怯む様子もなく、車体はフルスピードでキノコのどてっぱらへと突っ込む。

衝突の寸前にドライブガールがダッシュボードに取り付けられたボタンを操作する、するとバカンと開いたボンネットから巨大なのこぎりが飛び出し、キノコの幹を真っ二つに切り裂いた

すかさずその隙間を駆け抜ける車体、交差点を抜けた頃には後方で大きな音を立ててキノコが崩れ落ちていた。


「ハリウッド顔負けだネ、二度とゴメンだヨ!!」


「荒っぽくてごめんねー! けど今の何、またネズミ!?」


『……違う、ネズミも魔物も観測していない。 第三者による攻撃、大口径の弾丸と推定する』


「弾丸……スピネちゃんか!」


『…………断言はできない』


「歯に詰まった言い方だネ、それ以外に心当たりが?」


弾丸を扱う敵といえば、真っ先に思いつくのはあの黒騎士を従える魔法少女だ。

ただ彼女が扱う拳銃は思い返せばハンドガンだったはずだ、大口径という条件には当てはまらない。

彼女が言いよどむ原因はこれだろう、だが私達はスピネ以外に銃を扱う敵を知らない。


『……検索結果は0、謎の敵。 一度の銃撃で終わるとは思えない、更なる警戒が必要』


「走りながら避けろって事ね、どんどん難易度が上がって来るじゃない……ロイ、行ける?」


≪あたぼうよ、地獄の底まで突っ走ってやる……ぜッ!≫


運転手が唐突にハンドルを切り、車体が旋回したと思ったらその前方の道路にこぶし大ほどの弾痕が刻まれる。

ハンドルを切らずに直進していたなら間違いなく屋根に直撃していただろう、間一髪だ。


『驚いた、今のは計算?』


「勘よ! なんかそろそろ撃ってくる気がしたわ!」


『モキュウ!?』


「それに命を任せるこっちの身にもなってほしいネェ!!」


当たってたから良いものの、もし勘が外れていたら急旋回後の隙をゆっくりと射抜かれていただろう。

だというのに車は構いもせず走り抜ける、少しでも狙撃手の狙いを逸らすためか左右に車体を振り回しながら。


『狙撃手の情報も考慮して再度ナビゲートを開始する、出来るだけ遮蔽物の多いルートを取ってターゲットへの接近を提案』


「賛成だヨ、それで行こう!」


「そんな遠回りしていたらこっちが持たないわ、直進あるのみよ!!」


≪おうよ、トップギアでぶちとばしていくぜぇ!!!≫


『はっ?』


折角のナビを無視し、車体は見晴らしのいい広い道路へと侵入する。

狙撃手からすればカモが葱と鍋とカセットコンロ持参で押しかけて来たようなもんだ、ただでさえ自殺行為だというのにその上――――


「――――行き止まりだヨ!!」


「知ってるわ、しっかり掴まってて! 舌噛まないようにね!!」


前方の道はうずたかく積もる瓦礫の山に埋もれている、突っ込めば一発で昇天間違いなしだ。

前方の瓦礫、後方のネズミ、どこだかの狙撃手。 まさに絶体絶命のピンチ。

しかし運転手と助手席に座る2人の瞳は迷いもなく、車体の角度を調整しながらある一点だけを見つめている。

うずたかく積もった瓦礫の山、その中でひと際傾斜が緩い面。


……そう、まるでジャンプ台のように。


「ドライブガール……? まさかとは思うけどサ?」


「突っ切って行くわよ、ネズミも狙撃ももうこりごり! 最短コースで本体を叩くわ、あとはよろしくねゴルドちゃん!」


「そんな無茶ナー!!?」


『もっきゅー!!』


『狼狽える暇はない、狙撃に備えて。 跳ぶ瞬間に必ず来る!』


叫んでいる間にも車は荒れる斜面を駆けあがり、その向こうの灰掛かった大空へと飛び立つ。

並大抵の絶叫アトラクションを軽々と超える浮遊感の中、頭一つ飛び抜けたビルの屋上でキラリと何かが光った気がした。



――――――――…………

――――……

――…



馬鹿だ、あれは本物の馬鹿だろう。 折角配置したネズミ共が皆無駄になってしまった。

その滑稽なスタントシーンを目撃していたネズミによれば、空を舞う車体は見事に銃弾一つで叩き落されたらしい。

くつくつと腹の底から込み上がる笑いが堪え切れない。 実に惜しい、成功していたのならここまで届いていたかもしれなかったのに。

あとは墜ちた車体にネズミたちを集めて喰らい尽くすまで、これで1人……いや2人は仕留めたか。

心底馬鹿な連中だ、最後は自爆とは本当に――――


「――――性格悪いネ、お前。 外まで丸聞こえだヨ」


『―――――!?』


どこからか聞こえてくる少女の声、次いで鉄筋が埋め込まれた壁を突き破って何かがこの部屋へと転がり込む。

もうもうと立ち込める土煙の中、飾り気のない軍用ジャケットに映える金髪を誇示するようにきらめかせながら。

馬鹿な、撃ち落とされたはずだ、どうして。 ここがビルの何階だと思っている。


『計算外ではあるが推測通り、やはりここに隠れていた』


「へー、こんな高いとこから見下ろしてたって訳。 一人こそこそ隠れて随分やってくれたネ!!」


『モッキュー!!』


耳障りな三つの声が重なる、鬱陶しい、腹立たしい。

俺を見るな、輝くな、物言わぬ骸にでもなれば少しは愛してやれそうなものを、お前たちは五月蠅くわめきたてる。

――――俺の前に立つな、魔法少女!!

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