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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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なぜ彼女は立ち上がってしまったのか ③

「ありゃりゃ、こっちも行き止まりだぁ」


「またか、これで何回目だ?」


真っ二つに裂けた道を前に、肩を借りたチャンピョンと共に大きなため息を吐いてしまう。

覗き込んで見ても底の方は闇に紛れて全く見えない、一度落ちたら這い上がるのは難しいだろう。


「チャンピョン、俺抱えてピョーンといけないか?」


「抱えたままじゃ難しいかなー、万全ならたぶん行けるけど落ちたら責任とれないや。 あはは!」


快活に笑って見せてはいるが、チャンピョンも黒騎士との戦闘で無視できないダメージを負っている。

俺もとてもじゃないが2人載せたまま羽箒で飛べるような余裕はない、加えて周囲から覗く赤い瞳のせいで派手な行動がとれない。


「チャンピョン、猫の力とかであいつらおい払えないか?」


「犬はあるけど猫はないんだよねー、あの人ら気分屋だから中々仲良くなれないや」


「そういう制約があるのか、思ったより便利じゃないのな」


魔法少女を酔わす毒を含んだネズミ、大きな隙を見せればすぐさま一斉に襲い掛かって来るだろう。

こんな裂け目を飛び越えようとすれば絶好の妨害チャンスになる。


「中々みんな見つかんないや、どこ行ったんだろね」


「散り散りのままは不味いな、早く合流したいが……」


その時、ふと足に奔る弱い揺れを感じた。

こんな時に地震か、いや違う。 どこかで激しい戦闘が行われている。


「むむむ、今のは……うーん分からん! 多分遠い!」


「だろうな、けど唯一の手掛かりだ。 すぐに――――」


まだ痛む体に鞭打ち、身を翻した瞬間に俺たちは「それ」に気付いた。

運が良かった、負傷していたからこそ神経を過敏に逆立てていなければ見逃していただろう。

建物を1つ挟んだ向こう側に感じる、黒騎士の気配を。


「……チャンピョン、気づいてるか?」


「うい、ヤッバいやつ来たね。 しかも2人」


「2人? ……ああ、本当だ。 多分スピネだな」


《ちょっとマスター、感知へっぽこすぎません?》


魔法少女歴も浅いんだから許せ、ただ生きて帰ったら鍛え直すべきだなこれは。

改めて神経を研ぎ澄まして感じる2つの反応、向こうも魔力の流れは閉じているけど完璧じゃない。

向こうの気配に動きはない、こちらの存在には気づいていないだろうか。


「……どうする、奇襲か逃走か」


「うちは逃げるに一票で」


迷うことなくチャンピョンが手を上げる、こういう決断の速さは頼もしい。

それにその判断は間違いじゃないだろう、なにせチャンピョンと2人掛かりで蹂躙された相手だ。

十分な回復も出来ていないままぶつかっても勝ち目はない、戦るなら何か策を練るか仲間を連れてくるかだ。


「チャンピョン、お前は行け。 あいつらは俺が抑える」


「冗談キッツいぜぃブルーム、その状態じゃ無理っしょ」


「こんな状態だからだよ、一緒に逃げるにゃ足手まといだ。 お前だけでも逃げろ」


俺に足並みに合わせてしまえば、見つかった場合チャンピョンは逃げようとしないだろう。

勝ち目のない戦を挑んで全滅、これが最悪のパターンだ。 もし見つかっても犠牲になるのは一番足手まといの奴が良い。


「だからお前は逃げろ、出来れば誰かと合流して戻ってきてくれればいい。 それぐらいの時間なら稼げるさ」


「むぅ……さっき会ったばっかなのになんでそこまで信用してくれんのさー」


「お前が思ってるよりもう少し長い付き合いなんだよ、良いから行ってくれ。 お前が迷うほど俺が頑張らないといけない時間が増える」


「その言い方ずっこい、分かったけど死んじゃわないでよブルーム!」


すると指で印を結んだチャンピョンの姿が白い煙を残して消え去る。

まるで忍者だな、こういう能力も持っていたのか。


「ふー……悪いなハク、ヘマした時は誰かのスマホに避難しとけよ」


《何言ってんですか、言ったでしょ? 地獄まで相乗りしますよ》


5分か、10分か、はたまた飛んで1時間はかかるか。

しんどいが踏ん張ろうか、ここにいる誰も傷つかず、傷つけさせないために。



――――――――…………

――――……

――…



「――――さて、お喋りはここまでか。 お独りかい、ブルームスタァー?」


「……さて、どうかな」


チャンピョンの逃走を悟らせず、こちらへ気を引くためにわざとビルの屋上から姿を現す。

やはりこちらを見上げるのはスピネと黒騎士の2人組、先ほどの戦闘のダメージはまるで感じさせない佇まいだ。

むしろ回復しているぐらいに思える、あれだけの耐久力に合わせて治癒速度も速いようじゃいよいよ勝ち目が薄いな。


「あれぇー……あの馬鹿っぽい魔法少女はどうしたの? 喧嘩でもした?」


「方向性の違いによって解散した、まあお前らの相手くらいなら俺一人でも十分ってこった」


「キヒッ、ボロ負けした癖によく言うじゃん! でもアタシとしてもそっちの方がありがたいなぁ……各個撃破の方がやりやすい」


スピネが指を鳴らすと、素早く槍を構えた黒騎士が俺の立つビルへと激突する。

轟音、続けて強い揺れと共に足元からビルが崩壊を始める。 馬鹿力め。

崩壊に巻き込まちゃ堪らない、瓦礫に呑まれる前に屋上から飛び降り、スピネ目掛けて降下する。


「――――スピネ、お前たちは何故魔法少女を殺す!?」


「何回も言わせるよねぇ、それしか道がないんだよっ!」


互いに叫ぶ主張と共に、銃身と箒が重い金属音を鳴らして衝突する。

どうやら単純な膂力ならこちらが上か、ギリギリと押し込みをかけるが不意に周囲が暗くなる。

反射的に飛び退くと、先ほどまで俺がいた場所を馬脚が踏み砕く。 そうだよな、大人しくタイマンが片付くのを待ってはくれない。


『……無事か、創造主よ』


「誰に口聞いてんだっての、余裕だよ余裕」


正直な所、初撃で有効なダメージを与えたかったが結果はこの様か。

ここから先は1人で、ほぼ無傷のスピネと黒騎士を相手どらないといけなくなった。


「……答えろ、スピネ。 お前たちの言う手段ってのは本当にそれしかないのか!?」


「うるっさいなぁ、アタシたちだって考えたよ! 考えて考えて考えて、それで駄目だったからこの道を選んだんだ!」


互いの言葉と火花が散る、騎士の剛撃の隙間を縫うように放たれる銃弾を躱し、弾き、掠めながらも皮一枚で捌きながら、だとしてもと叫び続ける。


「アタシたちの10年を、ぽっと出のあんたが今更否定すんな!!」


「うっせぇ! お前が10年ならこっちは20年だよ!!」


《マスター、子供の喧嘩じゃないんですよ!?》


頭の中で余計なツッコミを入れる相方に釘を刺す余裕もなくなってきた。

息が乱れる、汗が滲む、どうしようもない痛みが全身を突き刺して回る。

辛いなぁ、脚を止めてしまえばきっと楽になるがそれは駄目だ、俺はまだ動けるんだから。


「アタシたちは、この街を……父さんと母さんと、皆を――――!」


「……死人は生き返らないよ、スピネ」


「っ――――黙れ!!」


2人の攻撃がより苛烈さを増す、ギリギリで捌けていた攻撃がいよいよ俺の許容量を上回って来た。

もはや汗か血か分からない液体に目が滲んだ瞬間、攻撃の余波で跳ねあがった瓦礫がこめかみを叩き、

続けて飛来した銃弾がトリモチに化けて俺の身体へ雁字搦めにへばりついた。


「魔法少女を殺す、お前達の魔石を糧に私達は全てを取り戻すんだ!」


「……ああそうか、納得は出来ないがようやく合点がいった。 魔法はそんな万能じゃないよ、死んだ人間が生き返る奇跡なんてない、有っちゃいけないんだ」


「黙れよ! できないかどうかは今、アタシたちが決めるんだ! お前は……お前はここで……っ!」


もはや片手一本まともに動かせない俺の眉間に、スピネが銃を突きつける。

ただその手は小刻みに震え、この至近距離だというのに弾を外してしまいそうな危うさを感じさせる。

そりゃそうだ、人を殺す覚悟なんてこの年で備わっている訳がない。


だからお前は人を殺す銃弾が撃てなかったんだろう、

だからお前は自分の代わりに殺してくれる騎士を生み出したんだろう。


『……創造主の手を煩わせるほどではないな』


「ンだよ、あと10分でも20分でもたっぷり迷ってくれればいいのに」


引鉄を躊躇うスピネの後ろで、黒騎士が綻び一つない大槍を振りかぶる。

トリモチは剥がれない、スピネの頭上を越え、俺だけを串刺しにするには十分余裕があるだろう。

時間稼ぎはここまでか、あとはみんな生きろ。 生きてくれ。





「―――――そこまでです!!」


瞳を瞑り、走馬灯が駆け巡るよりも迅く、そして鋭い風が俺と黒騎士の間に割り込む。

蒼く輝く風は突き出された大槍を受け止め、その衝撃を殺して大きく跳ね飛ばした。


『っ…………お前、は』


「……ああなんだ、チャンピョンめ。 よりにもよって最悪の人選だ」


「ふん、勘違いしないでください。 あなたの対処は東北支部の仕事です、こんな所でやられると困るだけですよ」


拗ねながらもどこか凛とした声、青と赤の二刀を構えた侍装束の魔法少女。

ああまったく、チャンピョンには文句を言わないといけないな。

エイプリルフール企画で強い方の魔法少女とコラボしました。

小説家になろうにて「アリウムフルール」で検索検索!

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